(2020年3月25日)
3月13日投稿の裸の男4の続きです。
アビ女の行動が向かう方向は火の無い場所(湖底)、同盟を持たずに孤立である。これは「反文化」であり、神話個々のエピソードを取っても本来の目的、それが文化を形成するのであるが、に反している。前回投稿では例として弓矢を挙げた。その目的は食べる肉を獲得する用具であるはずだが、食べられない肉(水鳥アビ)を獲り、羽毛をむしって湖底に棄てた(Yana族伝承版)。
レヴィストロースは「行動としての文化要素」とそれらベクトルが向かう文化(これがイシスの冒険神話の主題)と、その正反であるアビ女神話(行動も向かう先も反文化)を併せてと同類と理解せよと示唆する。
この辺りを「裸の男」本文から引用する;
>La premiere partie de ce livre a permis de produire des mythes dont le heros est un denicheur d’oiseau. Dans la deuxieme partie nous avons introduit le mythe de Dame Plongeon qui transforme l’autre de plusieurs facon<(本書94頁)
訳;本書の第一部で登場した幾つかの神話(イシスの冒険神話)はその主人公が「鳥の巣あらし」神話の英雄を彷彿とさせている。第二部でアビ女(Dame Plongeon)神話が取り上げられるが、それはこのヒーロー(イシス)を様々な形式で変容させている。
(イシスとアビ女は同根である)
続けて
>A divers egards, ces transformations equivalent a des inversions : heros pietine au lieu d’exhausse, origine des anti-parures ( colliers de coeurs humains) arachees par une femme a ses freres , remplacant l’origine des parures ( piqunts de porc-epics) prodigues par un hommme a ses epouses, etc.(同)
訳;それらの変容は、様々な手段を経由するも、幾通りかの「逆位」の様を見せる。例としてヒローは高みに追いやられる替わりに地に踏みつけられる。アビ女神話では女が男の心臓を抜き取り己の首飾りにする。ここでの装飾は「反装飾」である。本来の装飾(ヤマアラシの棘毛)は男がそれを取り女(婚約者、あるいは姑となる女)に贈るのであるから。
ここで
1 イシスの冒険神話は南米の鳥の巣あらし神話と比定出来る
2 アビ女神話はその「逆位」inversionである。
二点に留意する。
invertionの意義は、元々は文章で正しい順序(主語動詞などの位置順)を逆転する意味を持つ。すなわち見えにくい「思考、思想の逆転」ではなく、物の空間位置の逆転が原義となる。二義に生物で雄が雌に変身するなどの逆転が挙げられている(辞書Robertから)。こちらも視覚的に判別できる。
内的、陰密な性向ではなく外示的、顕示性の高い物が対立している状況を表す。
イシスとアビ女は行動、居住、風習で(顕示的に)逆位にある。ここまでは小筆が作成した3頁PDF(神話の構成)の第2頁の内容と重なる。
この説明にレヴィストロースは「racemique」なる概念を持ち込んだ。スタンダード辞書で「ラセミ葡萄酸」と訳されるが分からない。ネット検索して「キラル鏡像体過剰率...なんたら...かんたら」が出てきてさらに混乱する。Robertに援軍を求めると;
melange moleculaire egal des deux inverses optiques (stereo-isometrie) 2の光学的に逆位相を見せる一の分子的融合。
何となく分かりそうだ。それにしてもレヴィストロースもいろいろな分野から用語を引きずりだす。これを念頭に置いて次文に挑戦する。
>=前略=en les inversant l’un et l’autre sur un axe different de celui ou se situait l’oppsition primitive. Ce phenemene resulte du fait que yana doit profondemant remanier , pour pouvoir les ajuster bout a bout et batir ainsi son interique, des troncons du recit qu’il emprunte alternativement aux deux series. (本書94頁)
訳;原初的は対立軸から抜け出した(とある別の)「軸」に照合させて、それらを一方、もう一方(イシスとアビ女神話)と逆位相に置いた。こうした現象はyana族が2の物語シリーズ(イシス、アビ女)を(他部族から)借り受ける際に、物語の根幹、筋回しを根底から再構築した事実に由来するに他ならない。
原初的対立軸の説明は特にないが、神話比較において「対立」を部族の歴史に重ねる手法、歴史神話学(フィンランド派)を念頭に置いたと思える。別の軸は逆位相を定着させる絡繰りと思わせる。
上記1,2の留意点に追加して;
3 神話の「正位」筋立てに対して「逆位」の神話が存在する。両者が合わさって分子的融合(ラセミ葡萄酸状況)の神話体が成立する。
引用を続ける;
>A partir de la, l’analyse se complique, car, en plus des version deja citees, le contrepoint mytique fait interveneir de maniere implicite le mythe modoc M541, qui enchaine l’histoire du denicheur d’oiseaux a une lecon inversee du mythe de la Dame Plongeon.(本書85頁)
訳;それらに加え(=Yana族神話の特異性、弟に近親姦を迫る姉(アビ水鳥Plongeon)の特異性を前文に記している)、分析はさらに複雑化する。なぜならmodoc族神話M541(イシスの冒険)は鳥の巣あらしの筋立てをとるが、神話対位法(contrepoint)が目立たさずに、アビ女神話で学んだ「逆位」を持ち込ませているから。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/78/54/39a143be08372ee6548754effefbdf81_s.jpg)
画像の説明は下に
M451は漁労を営む家族(ただし複数兄弟と一人の娘)が他村落の男と密通した。兄弟は居住地を替えるが、娘は子を孕んでいた。背に負う子と共に娘は火炎に飛び込む、すんでの処を俗神が子を叩き救う。イシスの誕生。
ここで神話対位法なる言葉に注目しよう。対位法はメロディを装飾するにあたり、構成する各音素に対位する音が「法則」で決まっている作曲法である。レヴィストロースは正位にたいし逆位(inversee)が定まり、それは葡萄酸racemique(光学的に逆位相の融合)であるとして、作曲の手法「対位法」を持ち出した。すると:
4 逆位の神話はその根幹、筋立てが「神話対位法」の取り決めの中で決定される。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/54/39a143be08372ee6548754effefbdf81.jpg)
画像はYana族の髪型。同族は1849年のカリフォルニアゴールドラッシュで入植者に蹂躙され、族命を終えた。民族誌など記録は充実していない。
と考えられないだろうか。
>Il se confirme donc, anisi que nous l’avions annonce, que le mythe de la Dame Plongeon inverse celui du denicheur d’oiseaux<
かくしてDame Plongeon神話は鳥の巣あらしの、あるべくしてそこに納まる逆位相(対位法で定まる音)なのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/82/5013f39461ac4fb9f1c66e56f298ec20.jpg)
文中に引用があるPDF3頁の一部。
続く
なお、ホームサイト(WWW.tribesman.asia)にて本Blogを同名にて掲載している(上、中)。PDFにもサイトIndex頁から参照できるので、よろしくご訪問を。
3月13日投稿の裸の男4の続きです。
アビ女の行動が向かう方向は火の無い場所(湖底)、同盟を持たずに孤立である。これは「反文化」であり、神話個々のエピソードを取っても本来の目的、それが文化を形成するのであるが、に反している。前回投稿では例として弓矢を挙げた。その目的は食べる肉を獲得する用具であるはずだが、食べられない肉(水鳥アビ)を獲り、羽毛をむしって湖底に棄てた(Yana族伝承版)。
レヴィストロースは「行動としての文化要素」とそれらベクトルが向かう文化(これがイシスの冒険神話の主題)と、その正反であるアビ女神話(行動も向かう先も反文化)を併せてと同類と理解せよと示唆する。
この辺りを「裸の男」本文から引用する;
>La premiere partie de ce livre a permis de produire des mythes dont le heros est un denicheur d’oiseau. Dans la deuxieme partie nous avons introduit le mythe de Dame Plongeon qui transforme l’autre de plusieurs facon<(本書94頁)
訳;本書の第一部で登場した幾つかの神話(イシスの冒険神話)はその主人公が「鳥の巣あらし」神話の英雄を彷彿とさせている。第二部でアビ女(Dame Plongeon)神話が取り上げられるが、それはこのヒーロー(イシス)を様々な形式で変容させている。
(イシスとアビ女は同根である)
続けて
>A divers egards, ces transformations equivalent a des inversions : heros pietine au lieu d’exhausse, origine des anti-parures ( colliers de coeurs humains) arachees par une femme a ses freres , remplacant l’origine des parures ( piqunts de porc-epics) prodigues par un hommme a ses epouses, etc.(同)
訳;それらの変容は、様々な手段を経由するも、幾通りかの「逆位」の様を見せる。例としてヒローは高みに追いやられる替わりに地に踏みつけられる。アビ女神話では女が男の心臓を抜き取り己の首飾りにする。ここでの装飾は「反装飾」である。本来の装飾(ヤマアラシの棘毛)は男がそれを取り女(婚約者、あるいは姑となる女)に贈るのであるから。
ここで
1 イシスの冒険神話は南米の鳥の巣あらし神話と比定出来る
2 アビ女神話はその「逆位」inversionである。
二点に留意する。
invertionの意義は、元々は文章で正しい順序(主語動詞などの位置順)を逆転する意味を持つ。すなわち見えにくい「思考、思想の逆転」ではなく、物の空間位置の逆転が原義となる。二義に生物で雄が雌に変身するなどの逆転が挙げられている(辞書Robertから)。こちらも視覚的に判別できる。
内的、陰密な性向ではなく外示的、顕示性の高い物が対立している状況を表す。
イシスとアビ女は行動、居住、風習で(顕示的に)逆位にある。ここまでは小筆が作成した3頁PDF(神話の構成)の第2頁の内容と重なる。
この説明にレヴィストロースは「racemique」なる概念を持ち込んだ。スタンダード辞書で「ラセミ葡萄酸」と訳されるが分からない。ネット検索して「キラル鏡像体過剰率...なんたら...かんたら」が出てきてさらに混乱する。Robertに援軍を求めると;
melange moleculaire egal des deux inverses optiques (stereo-isometrie) 2の光学的に逆位相を見せる一の分子的融合。
何となく分かりそうだ。それにしてもレヴィストロースもいろいろな分野から用語を引きずりだす。これを念頭に置いて次文に挑戦する。
>=前略=en les inversant l’un et l’autre sur un axe different de celui ou se situait l’oppsition primitive. Ce phenemene resulte du fait que yana doit profondemant remanier , pour pouvoir les ajuster bout a bout et batir ainsi son interique, des troncons du recit qu’il emprunte alternativement aux deux series. (本書94頁)
訳;原初的は対立軸から抜け出した(とある別の)「軸」に照合させて、それらを一方、もう一方(イシスとアビ女神話)と逆位相に置いた。こうした現象はyana族が2の物語シリーズ(イシス、アビ女)を(他部族から)借り受ける際に、物語の根幹、筋回しを根底から再構築した事実に由来するに他ならない。
原初的対立軸の説明は特にないが、神話比較において「対立」を部族の歴史に重ねる手法、歴史神話学(フィンランド派)を念頭に置いたと思える。別の軸は逆位相を定着させる絡繰りと思わせる。
上記1,2の留意点に追加して;
3 神話の「正位」筋立てに対して「逆位」の神話が存在する。両者が合わさって分子的融合(ラセミ葡萄酸状況)の神話体が成立する。
引用を続ける;
>A partir de la, l’analyse se complique, car, en plus des version deja citees, le contrepoint mytique fait interveneir de maniere implicite le mythe modoc M541, qui enchaine l’histoire du denicheur d’oiseaux a une lecon inversee du mythe de la Dame Plongeon.(本書85頁)
訳;それらに加え(=Yana族神話の特異性、弟に近親姦を迫る姉(アビ水鳥Plongeon)の特異性を前文に記している)、分析はさらに複雑化する。なぜならmodoc族神話M541(イシスの冒険)は鳥の巣あらしの筋立てをとるが、神話対位法(contrepoint)が目立たさずに、アビ女神話で学んだ「逆位」を持ち込ませているから。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/78/54/39a143be08372ee6548754effefbdf81_s.jpg)
画像の説明は下に
M451は漁労を営む家族(ただし複数兄弟と一人の娘)が他村落の男と密通した。兄弟は居住地を替えるが、娘は子を孕んでいた。背に負う子と共に娘は火炎に飛び込む、すんでの処を俗神が子を叩き救う。イシスの誕生。
ここで神話対位法なる言葉に注目しよう。対位法はメロディを装飾するにあたり、構成する各音素に対位する音が「法則」で決まっている作曲法である。レヴィストロースは正位にたいし逆位(inversee)が定まり、それは葡萄酸racemique(光学的に逆位相の融合)であるとして、作曲の手法「対位法」を持ち出した。すると:
4 逆位の神話はその根幹、筋立てが「神話対位法」の取り決めの中で決定される。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/54/39a143be08372ee6548754effefbdf81.jpg)
画像はYana族の髪型。同族は1849年のカリフォルニアゴールドラッシュで入植者に蹂躙され、族命を終えた。民族誌など記録は充実していない。
と考えられないだろうか。
>Il se confirme donc, anisi que nous l’avions annonce, que le mythe de la Dame Plongeon inverse celui du denicheur d’oiseaux<
かくしてDame Plongeon神話は鳥の巣あらしの、あるべくしてそこに納まる逆位相(対位法で定まる音)なのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/82/5013f39461ac4fb9f1c66e56f298ec20.jpg)
文中に引用があるPDF3頁の一部。
続く
なお、ホームサイト(WWW.tribesman.asia)にて本Blogを同名にて掲載している(上、中)。PDFにもサイトIndex頁から参照できるので、よろしくご訪問を。
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