鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

唐草文に家紋散図鍔 与四郎 Yoshiro Tsuba

2014-07-14 | 鍔の歴史
唐草文に家紋散図鍔 与四郎


唐草文に家紋散図鍔 無銘与四郎

 大きな流れでは、象嵌の技術は平象嵌から始まった。古代の鉄剣などに施されている例で分る。その象嵌部分に装飾を加えてゆくようになったものの、地鉄そのものへの装飾は考慮されなかったのだろうか、正阿弥や尾張などの鉄地地透鐔も、総体では文様美であり、素材に精密な彫刻を加えて地相に装飾性を持たせている例は少ない。正阿弥派にはわずかに肉彫があり、地の一部に布目象嵌を施すという手法で装飾性を高めた例も多い。鉄地に直接透しを施したものは、甲冑師鍔や刀匠鍔の例では、細い線の部分が錆び落ちており、健全なままで伝わったものは少ない。小透の文を綺麗に見せたいと考えれば、別の腐蝕し難い素材で製作すれば良いと考えたものであろう、さえらに、銅合金であれば加工も容易であるし、色合いに変化を求めることもできる。この鍔では唐草は銀象嵌、文にも銀線象嵌によるものがあるも、透かし文は真鍮地。古い手のものは真鍮地に毛彫のみだが、この作では肉彫仕立てに毛彫や点刻が加えられている。同種の作品群の中では明らかに新しい。88.5ミリ。