鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

熊谷に敦盛図目貫 後藤宗乗 Sojo-Goto Menuki

2014-08-27 | 鍔の歴史
熊谷に敦盛図目貫 後藤宗乗



熊谷に敦盛図目貫 後藤宗乗

 写真の目貫は、室町時代後期の後藤宗家二代目宗乗作と極められている。後藤家の作は、上三代までは銘がなく、代が降っても銘が切られている作は比較的少なく、多くは極め物。江戸時代後期なってようやく在銘作が見られるようになり、代別判断の要となっている。即ち、銘のない作品について作者特定や代別云々は、どれほど研究が進んでも出来ないというのが現実である。それ故、多くの金工研究家は、銘のない作品についての作者や代別にかかわる言及は避けている。また、それが故に伝何某という表記が生まれてくる。日本美術刀剣保存協会の鑑定書においても、在銘作と無銘の作では鑑定書の意味が異なる。在銘作においては、その銘が正しいか否かを判断するもので、無銘の作については、極めた作者や流派の特徴を備えているか否かが判断されているのである。例えばAと極められた無銘作については、作者がAであることを認めているのではなく、作者Aの特徴を備えた作であることを認めているのである。
 この目貫は源平合戦に題を得たもので、量感豊かにふっくらと打ち出し、高彫部分はより高く、彫り込んだ部分はより深くと、図像がくっきりと表現されている。源平合戦図など人物を描いた作が多くなるのは、四代光乗の頃以降からであるというのが一般的な見方である。だが宗乗と極められていることから、また、人物図は、初代祐乗にも極めの作例があるように、初期にもわずかながらあると考えて良いのだろう。裏面の兜部分を見てほしい。裏は柄に巻き込まれる運命にあるため、一般的に彫刻がされない。ところがこの目貫では、兜を兜のように丸みを持たせてそのままに表現しているのである。ただしこの点は、総ての宗乗作の特徴というわけではない。裏面からの打ち出しの鏨の痕跡は、古金工極めに比較してなだらかに仕上げられているのも見どころの一つ。