鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山水塩屋図鍔 光忠 Mitsutada Tsuba

2014-08-07 | 鍔の歴史
山水塩屋図鍔 光忠


山水塩屋図鍔 光忠

 埋忠派の金工と捉えられている、光忠の特徴が良く現れている作。この工も布目象嵌を得意としたようで、ここから、埋忠派ではなく正阿弥派との見方もあるが、布目象嵌の技法は流行していると考えていいだろう。真鍮地の耳を打ち返して抑揚のある地造りとし、布目象嵌の手法で絵画のように表現している。使用している素材は金と銀。布目象嵌というと、これまで見てきたように鉄地に施すのが専ら。江戸時代に入って以降も、この傾向は同じである。ところが光忠は、真鍮地への処理を得意としていたようだ。地面には槌目が残されており、鑢目に金銀を叩き込んでいる様子が良く分る。ただし、下地である真鍮地も結構軟らかいはずで、この処理はかなり難しいのではないだろうか。厚手の部分は焼き付けなどを交えているのではないだろうか。海辺の松原の描かれている地の一部を確認してほしい。布目象嵌のための鑢目とは異なる細い筋が地面の所々に現れているのが分る。これが真鍮地の合金の一つである金属が成す文様である。腐らかしによって明瞭に現れたものであろう、このような地金が持つ文様を活かした例では、埋忠明壽の作に間々ある。この処方については、項を改めて説明する。

宝珠文図鍔 銘埋忠明壽 Myoju Tsuba

2014-08-06 | 鍔の歴史
宝珠文図鍔 銘埋忠明壽


宝珠文図鍔 銘埋忠明壽

 琳派の美観を鍔の装飾の上で展開したことで、また江戸時代に発展した金工の祖と崇められ、桃山時代の三名人の一人として数えられている埋忠明壽の作。鉄地を抑揚変化のある地造りとし、表面には鎚の痕跡を残し、所々に鑢目を刻んで金の薄板による宝珠文を散し配している。その多くが剥がれ落ちている。古びた地の風合いからも、布目象嵌がかすれているものであることを前提に、一つの描法として採り入れているように思われる。81.5ミリ。

玉追龍図鍔 古正阿弥 Koshoami Tsuba

2014-08-05 | 鍔の歴史
玉追龍図鍔 古正阿弥


玉追龍図鍔 古正阿弥

 鉄地に布目象嵌象嵌の手法で龍神を描いた作。この手法により古正阿弥の作と極められている。下地は鉄地に土手耳を廻らせ、鍛えた鎚の痕跡を明瞭にしており、この表面に布目と呼ばれる刻みを設け、薄い金と銀の板を叩き込むという嵌入手法を採っている。これが布目象嵌である。露象嵌や彫り込み象嵌のように地板を彫り込み、塑像を嵌め込み、周囲の肉を寄せるという手法ではないため、象嵌が落ち易いという欠点がある。ところが、この落ちるという負の要素を美観にしてしまったのが肥後金工である。完璧ではない、壊れてゆくものに美を見出す感性は、利休の茶を学んだ細川三齋が自らの美意識として構築した世界観に現れている。即ち、細川家に仕えた肥後金工は、三斎の感性を装剣小道具の表現に採り入れたのであり、ここで布目象嵌の美観が活かされたのである。この鍔は、古正阿弥と極められているが、実は肥後国、熊本県内の某家にたくさんの肥後鍔と共に伝わった一つであり、作風から古正阿弥とは極められてはいるものの、初期の肥後金工の作として捉えるにも充分な要素を備えている。肥後金工も正阿弥派の技術を充分に採り入れていることは明白で、そこから独特の枯木象嵌が生み出されたのである。それにしても、拡大観察では鉄地と布目象嵌象嵌の銀が一体となり、さらに時を重ねて生じた錆が加わって面白い景観を生み出している。金工は、おそらく素材が時と共に変化していくことを充分に理解し、それを美観として採り入れていたことは間違いないのだが、さらに作者も意図を超越した変質美がここにある。実はここが面白いのだ。

蕨手に鍵透図鐔 古正阿弥 Koshoami Tsuba

2014-08-04 | 鍔の歴史
蕨手に鍵透図鐔 古正阿弥


蕨手に鍵透図鐔 古正阿弥

 古風で素敵な図柄の作。地鉄も色合い黒々とし、鍛えた鎚の痕跡が遺されており強みが感じられる。特に上下の蕨手の構成線がいい。この鐔の耳にのみ金の布目象嵌で花文や菱文、紗綾文など様々な文様が施されている(耳側を写してないので分り難いのはご容赦)。拵に装着した際の美観を工夫したものであろう。ここに正阿弥派の特徴が現れている。82.2ミリ。

猿猴図鍔 古正阿弥 Koshoami Tsuba

2014-08-02 | 鍔の歴史
猿猴図鍔 古正阿弥


猿猴図鍔 古正阿弥

 古正阿弥の特徴のある鍔。鉄地肉彫で表し、猿の顔のみ素銅地象嵌としている。正阿弥派には後に広く隆盛する布目象嵌の手法が採られている例が多いのだが、このような作もある。水に映った月を取ろうとする猿猴。櫃穴を三日月に仕立てており、頗る良い図柄であり、鉄味も力強い。顔の部分の処理は素銅地の象嵌。塑像を嵌め込み、周囲の鉄地を寄せている様子が良く分る。
正阿弥派の作は、この流派が全国に広がり後に多くの鍔を遺したため流れとして整理がつかなくなったことと、図柄や作風の幅が広いため、無銘の作品を安易に正阿弥派と極めてしまったことにより、評価が低くなっている。ところが本作のように金山や尾張などにも負けない地鉄で、意匠も面白いものがあり、楽しめる要素が充満している鍔も多いのである。低く評価されているという点では、安価にて良質の地鉄が楽しめるのだから、有益でもある。値段が高くならない程度に古正阿弥派の評価が上がることを願っている。古正阿弥の美点を見出してほしい。75.5ミリ。

波図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-08-01 | 鍔の歴史
波図鍔 古金工


波図鍔 古金工

 山銅を奇抜な形状に仕立てている。象嵌は銀の球。この作では、比較的浅い処理がなされているようだ。周囲を寄せる処理もさほど強く施されていないように見える。波も、良く見られるような高彫と鋤彫を駆使したものではなく、蹴り彫りとも呼ばれる古代の毛彫に似ており、金工としてはちょっと流れが異なっているのではないだろうか。それが故に露象嵌の処理も異なっているのかもしれない。室町時代後期。90.5ミリ。