酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

仙台与太郎物語 この時期必ず思い出す噺 後編

2008-12-26 17:16:20 | 落語の話?
それからと言うものがらりと了見が、変わります。好きだった酒は、ひとったらしも呑みません。仕事に精を出します、勝五郎さんです。
元より腕のいいところでいい魚を仕入れてくる。そして愛想もいい。となれば、近所でも評判となります。
「なんだなぁおい。やっぱり魚はかっつぁんとこが一番でぇ。・・あっ来た、来た。・・おいかっつぁん。晩の魚、家置いといてくれぇ。頼んだぜ」
「家んとこも頼むぜ」
「ありがとうございやす」
「旦那、この鯒食ってみっくだせぇ。味噌椀にしたって、最高ですぜ」
てな具合です。
お客がお客を呼び、得意先がどんどん増えてくる。
すると、板台を担いでの商売から、小さいながらもお店を出すようになりました。
「御仕出し承ります。魚『勝五郎』」と看板。
若い衆(し)も二人ほど雇いました。
一年が経ち、二年が過ぎ、三年目の大晦日の事でございます。
「おっかぁ、けぇった。いやもう湯屋が混みやがって、芋洗うようだって。で、角のご隠居。元気だねぇ。昔話聞いてたら、面白れぇの何のって、つい長湯しちまってよぉ・・・(態度が急に変わる)・・おい!誰だ、今日まな板洗ったのは、え!
まだ魚の鱗が付いてるじゃねぇか。腹痛(はらいた)でも起こしやがったら、どうすんでぇ。おいおい、おまけに包丁出しっぱなしじゃねぇかよ!だらしねぇなぁ、さっさとしやがれ!」(若い者を叱り付ける勝五郎)
「はいはい、後は私がやっとくよ。お前達も早く湯へ行っといで。でなきゃ、早く閉まっちまうよ。これお駄賃。商いは松明けだよ。はい、行ってらっしゃい・・・・おまえさんも、入ったら」
「そりゃ、へえるよ。でもよ、なんだか、家に帰って来たって・・なんかが違うって」
「畳じゃないかい。さっき親方にやってもらったんだよ。お前さんが湯に行ってる間にさぁ」
「なんだ、いい香がすると思ったら畳かい。どれ、よいっしょっと。いいねぇ、新年を新しい畳ですごすてぇなぁ。勘定はどうなんでぇ」
「全部済んじまってるよ。それどころか、こっちから貰うところが残ってるんだけどさぁ、松明けからでもいいと思って」
「ああいいんだ。それにしても、借金取りがこねぇ大晦日なんてぇなぁ久しぶりだなぁおっかぁ・・どれ茶を一杯・・」
「大晦日だろ。お前さんも呑みたいだろうねえ」
「あん?酒かぁ。何言ってやがんでぇ。今じゃ、おちゃけの方がうめぇってのよ。仕事の終わりに頂く、一杯のお茶の芳醇な香にふれますてぇと、何だか気分がよくなる。ってぇなもんよ」
と茶をすする勝五郎。
「実はね、お前さんに聞いてもらいたい話と見てもらいたい物があるんだけど、ひとつ約束してくれないかい。私の話しが終わるまでは、手荒な事もしないし、最後まで話しを聞くって」
「なんだいおい。急にあらたまりやがって・・あつそうか。春の着物だな?おい!いいんだよ、へそくりぐれぇしてなきゃ、魚屋のかみさんなんか努まりゃしねぇんだから・・・・」
「おまえさんね。この汚い財布の覚えはないかい」
(古い財布を目の前に出された勝五郎)
「なんだぁ、古い財布じゃねぇか。(手に取る勝五郎。その重さに気づく)おいおっかぁ。またずいぶん溜め込んだなぁおい。えっ?いくら溜め込んだんだおい。勘定すっか・・ひと・ひと・ひと・・ふた・ふた・ふた・・みっちゅ・みっちゅ・みっちゅ・・・よっちゅ・よっちゅ・・・・・おっかぁ、五十両も溜め込んで・・」
「お前さん、この汚い財布と五十両というお金と、覚えはないかい?」
「きたねぇせぇふと五十両?・・・まてよ・・・そういやぁ、三年めぇばかしめぇ。芝の浜で、古いせぇふをしろったら、中に五十両へぇってた・・なんて夢みた事がある」
「おまえさん。ありゃ夢じゃなかったんだよ」
「なんだおめぇ!夢だなんていいやがって・・だましやがったなぁ」(手を挙げようとする勝五郎)
「まっとくれよ、お前さん。話しは最後まで聞いてくれる、約束だろ」
「よぉし。分かった!分かったがよおっかぁ。話しの終わりにどうなってるか、しらねぇからなぁ・・聞いてやらぁ・・」
「うれしかったよ。おまえさん。貧乏のどん底だったからさぁ。私だって欲しかったよぉ。でも、どう考えたって人(しと)様の金じゃないか。どうしたらいいか、って分からないじゃないか。お前さんが寝ているすきに、大家さんとこに相談しにいったんだよ『勝五郎が芝の浜で五十両をしろったって言ってますけど、どうしたらいいんでしょうか』って、そしたら大家さんにこっぴどく怒られて『そんな金にてぇ出してみろ、勝五郎の体ただじゃすまねぇぞ』って、『どうしたらいいんでしょうか』ってまた聞いたら『金はお上に届けて上げるから、勝公のやろうをなんとかしろ!あいつまだ寝てる?夢にしちまぇ』って。そしたらお前さん単純だから『夢』になっちゃったんだよ・・・本当は、とっくに、お上から降りてきてたんだよ。おまえさんに何度見せようかって思った。だけど、これを見せて、またおまえさんが商いしなくなったら、どうしようかって、見せられなかった・・・雪の降る寒い日なんか、朝早くから仕事に行くおまえさんの後ろ姿に何度手ぇ合わせたかしれやしない・・・くやしいだろうねぇ長年連れ添った女房にうそ付かれてさぁ・・さぁお前さん話しは終わったよ。煮るなり焼くなり・・(声にならない。ひたすら畳に額をつけるおかみさん)」
勝五郎、下を向いたまま黙って聞いている。鼻をすする。
「どうぞ、面を上げておくんなせぇ。・・おっかぁえれぇなぁ、えれぇよおっかぁ。そうさなぁ、どう考えてぇたって、人様の金にちげぇねぇ。そんなもんに手ぇ着けて見やがれ、あわよくても獄門、うまくいったってぇ佃の寄せ場送りがせいぜいだぁ。今頃は菰蕪って軒先あたりで震えてなきゃなんねぇ・・おっかぁ、ありがとよ。ありがとよ、おっかぁ・・」
「じゃぁ何かい、おまえさん許してくれんのかい」
「許すもゆるさんぇねもねぇ!おらぁ、礼を言ってんだい」
「だからって訳じゃないんだよ。今日はおまえさん好きなもの誂えておいた。そしてお酒も付けているし」
「なんだおい酒かぁ!どうりで、いい匂いがしてると思ったぜ。畳だけじゃねぇって思ってたんだ。しさしぶりなもんで、酒の匂いなんて忘れちまったからよ。えっつ、おっかぁ、早くよこしやがれ、湯のみ?何でもいいから、早く。どれ、こいつにっと(手にした湯飲みに酒を注いでもらう勝五郎)とととっつ・・外にこぼすなよ!こぼすんなら中に頼むぜ!(湯のみの中にある酒をしばらく眺める、匂いを嗅いでいる。挨拶をする)ども!おひさしゅうござんす!お元気ですか(湯のみの酒に話しかける)いいか!おまぇが呑んでいいって言うから呑むんだぜ。本当にいいのかよ」
「もう、いいったら、いいんだよ。のんじゃっておくれよ」
「では、頂き・・・ま・・・(急に顔を背け、湯のみを下に置く)やめた。
夢なるといけねぇや・・・・・」

あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・し・たぁぁぁぁぁぁぁぁ
寄席最終の声が場内に響きました。
「取り」の勤めです。お客様を、見送ります。
放心状態です。終わっても、頭の中がまっしろです。
始まったばかりの時間は案外冷静でした。客席には丹治さん、そして両親の顔も見ることができました。ですが、中盤を過ぎたあたりからは何も覚えておりません。
酔漢、最後の寄席でした。引退です。
座布団からようやく、立ち上がりました。
学院大学落研主将「琴舎豊作」さんから「あん好さん。すばらしかったよ」と一言。正直、うれしかった。
そして、昨年この演目に挑戦しました「独断亭偏見」さんのおかげでもあったのでした。多くの友人、先輩に支えられて完成した「芝浜」でした。

今年も後わずか。大晦日と芝浜はどうしても一緒に浮かぶのでした。
勝五郎と年が近づくにつれ、「あそこは、もう少し、こう演じればよかった」とふと気づくことがあるのです。
落語をするなんて機会はないのです。これ酔漢の癖となりました。
「大晦日」やはり「芝浜の日」なのでした。

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18 コメント

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いよぉ ♪ (ぐずら)
2008-12-26 23:36:06
新海亭
学生落語も結構な大ネタ掛けるもんなんですねぇ~
こいっずぁ、ひとっつライブで聞かせてもらいでもんでがす

ところで今日は東京方面もそうとう冷え込んでるみたいですが、
仙台でも明け方からの雪が一日中降ったり止んだりで、
仕事納めとかち合って何処もかしこも大渋滞。
おかげで車通勤のオイラは、
出勤に1時間半、帰宅に3時間半もかかってしまいました・・・
返信する
我が家の裏金といえば (クロンシュタット)
2008-12-27 07:24:45
年取っちまって、人情噺にゃー弱いのよ。
うちのおっかぁに、爪の垢でも・・・て、俺もただの酔っ払い親父だしな・・・

我が家はカミさんしか運転しないのですが、車を購入する際は、カミさんの裏金で現金一発買いです。
しかも、私には前日「明日新車買うから」の一言のみです。これが2台連続ですぜ!
俺のボロスーツは?穴の開いた靴下は?
ま、裏金を貯め込む能力は驚異的です・・・

ま、とにかく昨日が仕事納め。酔漢さんには申し訳ないですが、カミさんからもらった吟醸酒を、朝から飲むべ。

ぐずら様。3時間半あれば、吉祥寺から笠神まで楽勝で着いちゃいますよ。
東京も冷え込んでますが、DNAの関係上、へっちゃらさっ。
返信する
落語 (おんせんたまご)
2008-12-28 00:14:14
酔漢さんは落語をやってらしたのですね~
たまにブログを拝見した時の楽しさが納得できました。

仙台は本来の冬に戻って本当に寒いですよ。
もし帰省されるならお風邪などひかれぬようお気をつけください。

良いお年をお迎えくださいませ。
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本当の最後は・・ (酔漢です )
2008-12-29 01:23:16
ぐずら様へ
国立花山少年自然の家で、子供達に「子ほめ」をしたのが、人様の前で落語をしたのが最後でした。
大ネタは憧れ。練習の厳しさが、本番の結果となる瞬間。
その感動が忘れられず、続いたのかなぁと考えています。
本当に上手い人が大勢おりました。
これから少しづつ語ってまいります。
返信する
ありがとうございました (酔漢です )
2008-12-29 01:27:09
クロンシュタット様へ
シティラピッド君が「塩竈はおもしろい」と言っております。
クロンシュタット様、そして丹治さんと、大人の人達と接する機会が多くあった年だと思います。
はてさて、親がいい加減だと、「愚息」などと言えなくなってしまいます。
来年も宜しくお願いいたします。
返信する
おんせんたまご様へ (酔漢です )
2008-12-29 01:35:07
どうしても、「落語的」な語りになってしまいます。
染み付いているのでしょうね。ですから、話しの最後を「どうしよう」などと考えていたりしております。
「門前の小僧、習わぬ・・・」
よく言ったものです。
子供の頃に覚えました話は、本当に忘れられないものですね。
来年も何卒宜しくお願い申し上げます。
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やっと読めました。 (ひー)
2008-12-29 15:28:40
遅れました。
いや~面白い! はまりますね。
小説より面白いですよ。
夢で落としたかと思いきや真実だったとは・・
不思議と読むと自分の中で、落語調の語りに変換して本当に聞いてるような錯覚に陥ります。
ばっちりですよ

今年は最後ですかね。
今から塩釜市場の写真でも載せようかと・・・

来年もよろしくです。
返信する
今年もお世話に… (六花)
2008-12-31 01:17:43
「芝浜」面白かったです~ぐんぐん引き込まれてしまいました。
酔漢さんの味のあるお話は落語出身ということでつながってたんですね~
粋で楽しくて人情味があって…今更ながら落語ってすごい
今年もあと一日ですが仙台は今雪が降ってます。お体に気をつけてよいお年を…
来年もよろしくお願いします
返信する
そろそろ宮城道雄の店内BGMが・・・ (クロンシュタット)
2008-12-31 18:06:17
「塩竈はおもしろい」からなのではなく、酔漢さん親子の存在が皆を引き付けているのでしょう。
まじめでまともで暖かい、奥様も含めて、そんな雰囲気の家族から発信される「何か」に、全面的に救われたような一年でした。
・・・って、これじぁあホメ殺しですな。
悪酔いさせてしまいそうです・・・

まずは、良いお年をお迎えください!

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ひー様へ (酔漢です )
2009-01-04 08:56:07
年末、年始の多忙な時期からやっと逃れました。コメントが年を越してしまいました。
落語、結構はまります!
ぐずら様がかなりお詳しいご様子ですね。
ひー様もこの機会に是非落語に触れてみてください。
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