へんてこりんな行列が続いております。
ようやく、花見の会場へやってまいりましたご一行でございます。
「大家さん、ずいぶん大勢、人が出てますねぇ」
「たいへんな人だなあ」
「この人通りを見て、考げぇたんですけどねぇ・・・」
「なんだい?」
「これだけの人から一銭ずつもらってもこりゃぁ、大変なお金にないりはしねぇかと・・・」
「おぃ、そんなみみっちぃことを云うもんじゃぁねぇ。もっと大きなことを云えねぇかぃ」
「大家さんッ!」
「な、なんだぃ?急に大きな声だして・・」
「ここんとこ、札で鼻をかんでませんね!」
「よせよ、下らないよ。通る人が笑ってるじゃぁねぇか。しょうがねぇなぁ、まったく。・・・それ、上野だ。きれいに咲いてるじゃぁねぇか」
「あぁ、こりゃぁいいや」
「さあ、このすりばち山の上の方が見晴らしがいいぞ」
「いや、なるべく下の方へ行きましょうよ」
「下の方?またどうして・・」
「下の方がいいですよ、下の方。な、みんな!」
「そうそう」
「どうして? 下の方はほこりっぽくて、いけねぇやな!」
「いゃぁねぇ。ほこりなんざどうでもいいんですよ。それよりね、上の方で本物を呑んで、食ってるでしょ。ひょっとしたら何かの拍子に、うで卵か何かが転がってこないとも限らねぇしぃ・・」
「そんな賤しいことを云うんじゃぁないよ・・・まぁ、どこでもいいや。おめぇたちの好きなところへ毛氈を敷きな」
「も・・・へっ、そうそう。毛氈でした。毛氈。おい!どこ行った?」
「おぃ、見ろよ、毛氈の係りを・・あんなとこへ突っ立って、本物呑んでんのをうらやましそうに見てるぜ。見てたってしょうがねぇじゃぁねぇか・・・おーぃ、毛氈!毛氈だよ!おぃ!毛氈を持って来なよ!何だよぉ、ぜんぜん、気がつかねぇじゃねぇか・・」
「だめだめ。そんなんじゃぁダメだよ!いゃ、だめなんだよ。本人は毛氈なんぞ持ってる了見じゃぁねぇんだから・・」
「おーい、毛氈のむしろ、持ってこい!」
「おぃおぃ、毛氈のむしろたぁなんてぇ言い草だ?」
「だって、そう言わなくちゃ気がつきませんから・・ほうら、持って来た」
「すいやせん。いえね、あそこで、あんまりうまそうに本物やってるもんですから、つい・・・」
「こっちだって、始まるんだよ。がぶがぶのぼりぼりが・・・・」
「よせよ、そんなことを言うもんじゃぁないよ。さぁ、毛氈を敷くんだ!おぃ、どうするんだ、こんなに細長くならべて敷いて・・・」
「違うんですかい?こうやって、一列に坐りまして、通る人に頭を下げて・・」
「なにを言ってんだぃ。物乞いの稽古をしてどうするんだぃ。みんなでまぁるくなって坐れるように敷かなきゃいけねぇじゃぁねぇか・・そう、そうだ。それでいいんだよ。じゃぁ、さっそくお重と一升瓶を真ん中に出して、湯飲み茶碗はめいめいが取るんだ。さぁ、きょうはおれのおごりだと思うと気詰まりだろうから、ンなこたぁ忘れて、遠慮なくやってくれ」
「だれがこんなもん、遠慮して呑むやつがいるもんか・・・」
「なにィ?何か言ったかい?」
「いぇね、こっちのことで・・・あぶねぇ・・あぶねぇ・・っと」
「さぁ、幹事、ぼんやりしてちゃぁいけねぇ。どんどん酌をして回らなきゃいけねぇじゃぁねぇか」
「へ、へい、じゃぁ留さん!一杯(いっぺぃ)やろうじゃねぇかい!」
「そ、そうかい? じゃぁ、ついでもらおうか・・ほんのおしるしでいいよ。ほんのおしるしで・・・お、っ・とっ・とっ・と・・・とっと・・・も、もういいよ!おぅ! おしるしでいいってぇのに、どうしてこんなにつぎゃぁがった! おれが茶碗を引いてるってぇのに、おめぇ、グィグィ押し付けて注ぎやがったな! おぅ、おめぇ、おれに何かうらみでもあるのか? 覚えてやがれ、べらぼうめ!」
「なんだな、いっぱい注いでもらったら喜ばなくっちゃぁいけねぇじゃねぇかぃ」
「『喜べ!』ったって・・・冗談じゃぁねえやね・・・あっしゃあ、小便がちけぇから、あんまり湯や茶はやりたくねぇんで・・・」
「おう、おれにくんねぇ。さっきから喉が渇いてしょうがねぇんだ・・・うん、うん・・・なるほど、へへっ、こりゃぁ色だけは本物そっくりだ。これで呑んでみると違うんだから情けねぇなぁ・・ねぇ、大家さん!」
「なんだ?」
「お!お・大家さん!?・・・・・いい酒ですねぇぇぇぇぇ」
「そうか。そりゃぁ嬉しいことを云ってくれるじゃぁねぇか」
「こりゃぁ宇治ですかぃ?」
「酒が宇治てぇことがあるか。灘だよ。灘の酒だと思いなさい!」
「いゃぁ、これだけの酒ともなると、宇治にちげぇねぇや・・静岡かなぁぁ?」
「さぁ、酒らしく、『一献、献じましょうか』くれぇのこと、云ってみなよ」
「じゃぁ、勝っちゃん、一献、献じましょう・・か・・っと」
「いいぃゃぁぁぁ・・おらぁ献じられたくねぇぇぇぇ」
「おぃ、断る奴があるかい!みんな呑んだんじゃぁねぇか。おめぇひとりだけ逃れようったってそうはいかねぇ。これもすべて前世の因縁だと思って、諦めて・・南無・・・・ちぃーーーん」
「おぃ!妙な勧め方するなよ」
「一献、献じよう。紙くず屋の大将!」
「それを言うなら、紙屋の大将と言いなよ。聞こえがいいじゃぁないか」
「そうですかねぇ・・・おぅ、紙屋の大将!クズの方の・・」
「それじゃぁ、おんなじじゃぁねぇかぃ」
「さぁさぁ、どんどんやっとくれ!そっちの猫の皮剥きの親方!」
「そう、いちいち商売を言うなさんな!さあ、どんどん遠慮無しにやってくれ。おい、亀さん、お前、さっきからみてるけど、ほんのひと口しか呑まないな。どんどんおやりよ」
「いゃ、あっしゃぁ下戸なんで・・・」
「そんなこと言わずに、やってごらんよ!この酒はいい酒だから下戸でも呑めるから・・」
「えぇねぇ・・あっしゃぁ、ふだん、あまり冷てぇのをやらないんで・・」
「そうかい?冷やは、やらねぇのかい?」
「ええ、いつも焙じたのをやってるんで・・」
「酒を焙じてどうするんだよ・・・辰っあん、お前さんもやんな!」
「下戸です!」
「下戸なら下戸で、食べるものがあるじゃぁないか」
「・・一難去ってまた一難ときたか・・・」
「なにぃぃぃ?」
「い・いぇ・・なんでもねぇんです・・・え? 卵焼きですか? あっしゃぁね、このごろすっかり歯が悪くなっちゃって、この卵焼きはよく刻まねぇと、食べられねぇかと・・・」
「卵焼きを刻むやつがあるもんか・・・じゃぁ、寅さん、おまえさん、肴はどうだぃ?」
「じゃぁ、その白い方を下さい」
「色で言うなよ。かまぼこなら、かまぼこと、大きな声で言いなよ・・」
「じゃぁ、そのぉぉ・・でこぼこを!」
「『でこぼこ』ってぇやつがあるか! そら、『蒲鉾』だよ!少し厚めのをやるよ」
「へぃ、すいません。あっしゃぁねぇ、このかまぼこが好きでしてねぇ・・」
「そうかい、そりゃぁよかった。そんなに好きかい?」
「えぇ、なにしろ、毎朝、千六本に刻んで、おつけの実にします、へぃ。それに、秋にでもなりゃ、秋刀魚と一緒に、かまぼこおろしにして・・」
「なんだぃ?」
「このごろは練馬の方へ行きましても、すっかりうちが建て込んじまって、かまぼこ畑が少なくなりやしたねぇ」
「かまぼこ畑なんてぇものがあるかい!」
「でもね、あっしゃぁ、どっちかてぇとかまぼこの葉っぱを浸しにして・・」
「いい加減にしな! ばかばかしい、早く食べちまいな!」
「へぃ・・・う、こ、こりゃぁ、漬けすぎてすっぺぇや」
「酸っぱいかまぼこがあるか・・お前はもういいよ! 竹さん、おめぇさん、なんかやりなさいよ」
「すいません、じゃぁ、卵焼きをひとつ・・・」
「うまいねぇ、向こうのやつがこっちをヒョィと見たよ・・へへっ、じゃぁひとつ、卵焼きらしく、音を立てねぇように食べておくれ」
「えっ? 音を立てねぇで?こりゃぁ驚いたねぇ、この卵焼きを音を立てずに食うのは至難の業と・・・」
「そこをひとつ『やっとくれ』と、頼んでるんだ。さ、やっとくれ」
「『そこをひとつ』ったって・・おぅっ・・あむっ・・う・う・ぐうぐっ!・・うぐ・ぐぐっ・・ぐっ・・ぐっつ!・・・ぐっ・・」
「お・おい!竹さん!どうしたんだい!しっかりしなよ!」
「かわいそうに、卵焼きを丸呑みにして、喉につっかえたんだよ。背中をひっぱたいてやりな。どーんと、ひとつ」
「そーれ!(『ドンドン』と背中を叩く)竹さん!しっかりしろい!」
「あー・・フワァ・・た・助かったぁぁぁぁ・・みんな!卵焼きは気をつけろ!これを音を立てずに食うのは命懸けだぜぇぇぇ」
「さぁ、さぁ!酒が回ったところで、威勢良く都都逸でも始めなよ!」
「冗談じゃぁねぇや・・これで唄なんか唄ってりゃぁ、狐に化かされてるようなもんだ・・」
「おぃおぃ、いちいち変なことを言ちゃあいけねぇなぁ。お花見なんだよ。なんかこう花見に来たようなことをしなくちゃぁ・・そうだ。六さん、お前さん、俳句をやってるそうだな。どうだ、花見に来たような句を詠んじゃぁ・・」
「そうですねぇぇ・・花見の句ねぇ・・どうです『花散りて 死にとうもなき 命かな』てぇなぁ?」
「なんだか、おい、寂しいじゃねぇかい!他には?」
「では『散る花を なむあみだぶつと いうべかな』てぇなぁ」
「なお陰気だよ!」
「なにしろ、がぶがぶのぼりぼりじゃぁ陽気ンなりようがねぇですぜぇ・・」
「愚痴を言ちゃぁいけねぇなぁ・・誰か陽気な句はないかい?」
「大家さん、いま作った句を書いてみたんですが、こんなのぁどうですぅ?
「おぅ、勝っあん、できたい?お前さん、矢立てなんぞ持って来たとは、風流人だねぇ。いや、感心したよ・・どれどれ『長屋中・・』うんうん、長屋一同の花見てぇことで、長屋中と始めたところは嬉しいねぇ。『長屋中 歯を食いしばる 花見かな』えっ?何だって?この『歯を食いしばる』てぇなぁ、一体何なんだい?」
「なーに、別に小難しいこたぁねぇんで、あっしのウソ偽りのねぇ気持ちを詠んだまでしてぇ・・まぁ、はえぇ話しが、どっちを見ても本物を呑んだり食ったりしてるでしょ。ところがこっちは、がぶがぶのぼりぼり・・あぁ、実に情けねぇ、と思わずバリバリッと歯を食いしばったという・・・」
「おいおい、止めとくれよ。第一、周りの連中だって、なにを食ってるか分かりゃぁしねぇぜ。あんな顔したって、どこもおんなじようなもんだ」
「へっ、ンなこと言ったって、『おこうこ』で番茶なんぞ呑んでるやつが他にいてたまるけぇ・・・」
「おいおい、どうも弱った連中だなぁ。おめぇたちはどうも心構えが後ろ向きでよくねぇ。気分直しに、今月の月番、景気良く酔っ払っとくれ!」
「えっ!?酔うんですかぃ?酔わねぇふりをしろってんならできますけどね、酔ったふりなんて、考げぇたこともねぇから・・」
「そこをひとつ、まげて酔っとくれ。あたしゃ別に恩を着せる気はねぇが、お前さんの面倒はずいぶんみてるはずだよ」
「へぃ、その通りでござんす。へぇ!大家さんにこう言われちゃぁ、あっしゃぁ一言もありません。一宿一飯の恩義に絡まれて、あっしゃぁ酔わせていただきます」
「まぁ、ご苦労だが、ひとつ頼むよ。威勢良く酔っ払って、べらんめぇかなんか言っとくれ!」
「へぃ!それじゃぁ、大家さん!」
「なんだい?」
「さて、つきましては・・・酔いました!えぇ、改めまして・・べらんめぇぇぇ」
「なんだい、そりゃぁ・・そんな酔っぱらいがあるもんかぃ・・じゃぁ、来月の月番、おめぇも幹事だろう。さぁ、うまいところ酔っとくれ!」
「いやなときに幹事になっちゃったなぁ・・・へぇ、そりゃぁ幹事の役目でござんすから、酔えとおっしゃられれば、酔いますけど、なにぶん手ぶらじゃぁ酔い難いや・・その湯飲み茶碗を貸してくれ・・さぁ、酔ったぞぉぉぉ、あぁ、酔った!酔ったとも!」
「その調子、その調子」
「おりゃぁ酒呑んで酔ったんだからな!番茶で酔ったと思うかぁ!ふざけるねぇ!」
「余計なことを言わなくたっていいよ!」
「いゃぁ、断らなきゃぁ気が違ったと思われちまいますから・・・さぁ、酔っぱらった!あぁ酔っぱらった!すっかりいい気持ちになってきたぞ!こうなりゃぁ土地でも売り飛ばしちまおぅ」
「いいねぇ、景気がいいねえ!。しかし、土地なんぞあるのかい?」
「ガキのこさえた箱庭が・・・」
「しまらねぇなぁ、言うことがぁぁ・・」
「さぁ、酔った!酔ったぞぉぉぉ!貧乏人だ、貧乏人だと馬鹿にすんねぇ!借りたもんなんざぁどんどん利息をつけて返してやらぁ!」
「いいぞ!いいぞ!」
「本当だぞ!大家がなんでぇ!店賃なんざ払うもんかぁぁ!」
「悪い酒だなぁ。どうも・・どうだぃ、いい酒だろぅ。えぇ? 酒がいいから、いくら呑んでも頭に来ないだろ?」
「頭にゃぁ来ないけど、腹がだぶってしょうがねぇ・・・もうちゃぷちゃぷ・・」
「どうだぃ?酔っぱらった心持ちは?」
「酔った心持ち?・・・そうですねぇ、去年の秋に井戸へ落っこちたときとそっくりでぇ」
「変な心持ちだなぁ。でもおめぇは感心だ。よく酔ってくれた。長屋の連中の手本だ。おぃおぃ、みんな、どんどんとお酌してやっとくれ!」
「さぁ、こうなりゃぁ、おれだけがひでぇ目にあゃあいいんだ! さぁ、みんなのぶんもまとめて面倒見るから、どんどん注いでくれ!おっとっと。ずいぶんこぼしちまった・・どうせこぼすんだったら中にこぼしてもらいてぇもんだ!・・もっとも、こぼしたって惜しいような酒じゃぁねぇや・・さぁ、さぁの・む・ぞぉぉぉぉ!あっ!大家さん、大家さん!・・・・・」
「なんだぃ?」
「近々、うちの長屋にいいことがありますよ、きっと!」
「おぅ、嬉しいねぇ。そんなことが判るのかい?」
「わかりますとも!解ります!」
「どうしてぇ?」
「茶碗の中を覗いてご覧なさい。酒柱(ちゃかばしら)が立ってます」
一気の落ちでございました。今年の桜の開花は例年より早いとか。仙台でも、入学式には桜の風景もみられたのではないのでしょうか・・。
もう、ここまで来ましたら、このお話のうんちくは、やめましょう。
やはり、この時期聞きたくなる、噺でございました。
昨日、シティラピッド君の高校で、入学式が催されました。満開の桜の元。
クロンシュタット様のご子息が入学されました。この場ではございますが、おめでとうございます。
「塩竈桜」の様子はどうでしょうか?まだ、咲くには早いでしょうか。
自身の携帯の待ちうけ画面は塩竈神社の「塩竈桜」丹治さんご提供のものです。
小学校の校章は「塩竈桜」でした。
今は塩の結晶がモデルでございますが、旧制「塩竈中学」の校章も「塩竈桜」でした。本日、湘南は22度。仙台と同じ最高気温の予報です。
「仙台の花見」そうそう、日本酒とウィスキーのオンパレードでした。
ようやく、花見の会場へやってまいりましたご一行でございます。
「大家さん、ずいぶん大勢、人が出てますねぇ」
「たいへんな人だなあ」
「この人通りを見て、考げぇたんですけどねぇ・・・」
「なんだい?」
「これだけの人から一銭ずつもらってもこりゃぁ、大変なお金にないりはしねぇかと・・・」
「おぃ、そんなみみっちぃことを云うもんじゃぁねぇ。もっと大きなことを云えねぇかぃ」
「大家さんッ!」
「な、なんだぃ?急に大きな声だして・・」
「ここんとこ、札で鼻をかんでませんね!」
「よせよ、下らないよ。通る人が笑ってるじゃぁねぇか。しょうがねぇなぁ、まったく。・・・それ、上野だ。きれいに咲いてるじゃぁねぇか」
「あぁ、こりゃぁいいや」
「さあ、このすりばち山の上の方が見晴らしがいいぞ」
「いや、なるべく下の方へ行きましょうよ」
「下の方?またどうして・・」
「下の方がいいですよ、下の方。な、みんな!」
「そうそう」
「どうして? 下の方はほこりっぽくて、いけねぇやな!」
「いゃぁねぇ。ほこりなんざどうでもいいんですよ。それよりね、上の方で本物を呑んで、食ってるでしょ。ひょっとしたら何かの拍子に、うで卵か何かが転がってこないとも限らねぇしぃ・・」
「そんな賤しいことを云うんじゃぁないよ・・・まぁ、どこでもいいや。おめぇたちの好きなところへ毛氈を敷きな」
「も・・・へっ、そうそう。毛氈でした。毛氈。おい!どこ行った?」
「おぃ、見ろよ、毛氈の係りを・・あんなとこへ突っ立って、本物呑んでんのをうらやましそうに見てるぜ。見てたってしょうがねぇじゃぁねぇか・・・おーぃ、毛氈!毛氈だよ!おぃ!毛氈を持って来なよ!何だよぉ、ぜんぜん、気がつかねぇじゃねぇか・・」
「だめだめ。そんなんじゃぁダメだよ!いゃ、だめなんだよ。本人は毛氈なんぞ持ってる了見じゃぁねぇんだから・・」
「おーい、毛氈のむしろ、持ってこい!」
「おぃおぃ、毛氈のむしろたぁなんてぇ言い草だ?」
「だって、そう言わなくちゃ気がつきませんから・・ほうら、持って来た」
「すいやせん。いえね、あそこで、あんまりうまそうに本物やってるもんですから、つい・・・」
「こっちだって、始まるんだよ。がぶがぶのぼりぼりが・・・・」
「よせよ、そんなことを言うもんじゃぁないよ。さぁ、毛氈を敷くんだ!おぃ、どうするんだ、こんなに細長くならべて敷いて・・・」
「違うんですかい?こうやって、一列に坐りまして、通る人に頭を下げて・・」
「なにを言ってんだぃ。物乞いの稽古をしてどうするんだぃ。みんなでまぁるくなって坐れるように敷かなきゃいけねぇじゃぁねぇか・・そう、そうだ。それでいいんだよ。じゃぁ、さっそくお重と一升瓶を真ん中に出して、湯飲み茶碗はめいめいが取るんだ。さぁ、きょうはおれのおごりだと思うと気詰まりだろうから、ンなこたぁ忘れて、遠慮なくやってくれ」
「だれがこんなもん、遠慮して呑むやつがいるもんか・・・」
「なにィ?何か言ったかい?」
「いぇね、こっちのことで・・・あぶねぇ・・あぶねぇ・・っと」
「さぁ、幹事、ぼんやりしてちゃぁいけねぇ。どんどん酌をして回らなきゃいけねぇじゃぁねぇか」
「へ、へい、じゃぁ留さん!一杯(いっぺぃ)やろうじゃねぇかい!」
「そ、そうかい? じゃぁ、ついでもらおうか・・ほんのおしるしでいいよ。ほんのおしるしで・・・お、っ・とっ・とっ・と・・・とっと・・・も、もういいよ!おぅ! おしるしでいいってぇのに、どうしてこんなにつぎゃぁがった! おれが茶碗を引いてるってぇのに、おめぇ、グィグィ押し付けて注ぎやがったな! おぅ、おめぇ、おれに何かうらみでもあるのか? 覚えてやがれ、べらぼうめ!」
「なんだな、いっぱい注いでもらったら喜ばなくっちゃぁいけねぇじゃねぇかぃ」
「『喜べ!』ったって・・・冗談じゃぁねえやね・・・あっしゃあ、小便がちけぇから、あんまり湯や茶はやりたくねぇんで・・・」
「おう、おれにくんねぇ。さっきから喉が渇いてしょうがねぇんだ・・・うん、うん・・・なるほど、へへっ、こりゃぁ色だけは本物そっくりだ。これで呑んでみると違うんだから情けねぇなぁ・・ねぇ、大家さん!」
「なんだ?」
「お!お・大家さん!?・・・・・いい酒ですねぇぇぇぇぇ」
「そうか。そりゃぁ嬉しいことを云ってくれるじゃぁねぇか」
「こりゃぁ宇治ですかぃ?」
「酒が宇治てぇことがあるか。灘だよ。灘の酒だと思いなさい!」
「いゃぁ、これだけの酒ともなると、宇治にちげぇねぇや・・静岡かなぁぁ?」
「さぁ、酒らしく、『一献、献じましょうか』くれぇのこと、云ってみなよ」
「じゃぁ、勝っちゃん、一献、献じましょう・・か・・っと」
「いいぃゃぁぁぁ・・おらぁ献じられたくねぇぇぇぇ」
「おぃ、断る奴があるかい!みんな呑んだんじゃぁねぇか。おめぇひとりだけ逃れようったってそうはいかねぇ。これもすべて前世の因縁だと思って、諦めて・・南無・・・・ちぃーーーん」
「おぃ!妙な勧め方するなよ」
「一献、献じよう。紙くず屋の大将!」
「それを言うなら、紙屋の大将と言いなよ。聞こえがいいじゃぁないか」
「そうですかねぇ・・・おぅ、紙屋の大将!クズの方の・・」
「それじゃぁ、おんなじじゃぁねぇかぃ」
「さぁさぁ、どんどんやっとくれ!そっちの猫の皮剥きの親方!」
「そう、いちいち商売を言うなさんな!さあ、どんどん遠慮無しにやってくれ。おい、亀さん、お前、さっきからみてるけど、ほんのひと口しか呑まないな。どんどんおやりよ」
「いゃ、あっしゃぁ下戸なんで・・・」
「そんなこと言わずに、やってごらんよ!この酒はいい酒だから下戸でも呑めるから・・」
「えぇねぇ・・あっしゃぁ、ふだん、あまり冷てぇのをやらないんで・・」
「そうかい?冷やは、やらねぇのかい?」
「ええ、いつも焙じたのをやってるんで・・」
「酒を焙じてどうするんだよ・・・辰っあん、お前さんもやんな!」
「下戸です!」
「下戸なら下戸で、食べるものがあるじゃぁないか」
「・・一難去ってまた一難ときたか・・・」
「なにぃぃぃ?」
「い・いぇ・・なんでもねぇんです・・・え? 卵焼きですか? あっしゃぁね、このごろすっかり歯が悪くなっちゃって、この卵焼きはよく刻まねぇと、食べられねぇかと・・・」
「卵焼きを刻むやつがあるもんか・・・じゃぁ、寅さん、おまえさん、肴はどうだぃ?」
「じゃぁ、その白い方を下さい」
「色で言うなよ。かまぼこなら、かまぼこと、大きな声で言いなよ・・」
「じゃぁ、そのぉぉ・・でこぼこを!」
「『でこぼこ』ってぇやつがあるか! そら、『蒲鉾』だよ!少し厚めのをやるよ」
「へぃ、すいません。あっしゃぁねぇ、このかまぼこが好きでしてねぇ・・」
「そうかい、そりゃぁよかった。そんなに好きかい?」
「えぇ、なにしろ、毎朝、千六本に刻んで、おつけの実にします、へぃ。それに、秋にでもなりゃ、秋刀魚と一緒に、かまぼこおろしにして・・」
「なんだぃ?」
「このごろは練馬の方へ行きましても、すっかりうちが建て込んじまって、かまぼこ畑が少なくなりやしたねぇ」
「かまぼこ畑なんてぇものがあるかい!」
「でもね、あっしゃぁ、どっちかてぇとかまぼこの葉っぱを浸しにして・・」
「いい加減にしな! ばかばかしい、早く食べちまいな!」
「へぃ・・・う、こ、こりゃぁ、漬けすぎてすっぺぇや」
「酸っぱいかまぼこがあるか・・お前はもういいよ! 竹さん、おめぇさん、なんかやりなさいよ」
「すいません、じゃぁ、卵焼きをひとつ・・・」
「うまいねぇ、向こうのやつがこっちをヒョィと見たよ・・へへっ、じゃぁひとつ、卵焼きらしく、音を立てねぇように食べておくれ」
「えっ? 音を立てねぇで?こりゃぁ驚いたねぇ、この卵焼きを音を立てずに食うのは至難の業と・・・」
「そこをひとつ『やっとくれ』と、頼んでるんだ。さ、やっとくれ」
「『そこをひとつ』ったって・・おぅっ・・あむっ・・う・う・ぐうぐっ!・・うぐ・ぐぐっ・・ぐっ・・ぐっつ!・・・ぐっ・・」
「お・おい!竹さん!どうしたんだい!しっかりしなよ!」
「かわいそうに、卵焼きを丸呑みにして、喉につっかえたんだよ。背中をひっぱたいてやりな。どーんと、ひとつ」
「そーれ!(『ドンドン』と背中を叩く)竹さん!しっかりしろい!」
「あー・・フワァ・・た・助かったぁぁぁぁ・・みんな!卵焼きは気をつけろ!これを音を立てずに食うのは命懸けだぜぇぇぇ」
「さぁ、さぁ!酒が回ったところで、威勢良く都都逸でも始めなよ!」
「冗談じゃぁねぇや・・これで唄なんか唄ってりゃぁ、狐に化かされてるようなもんだ・・」
「おぃおぃ、いちいち変なことを言ちゃあいけねぇなぁ。お花見なんだよ。なんかこう花見に来たようなことをしなくちゃぁ・・そうだ。六さん、お前さん、俳句をやってるそうだな。どうだ、花見に来たような句を詠んじゃぁ・・」
「そうですねぇぇ・・花見の句ねぇ・・どうです『花散りて 死にとうもなき 命かな』てぇなぁ?」
「なんだか、おい、寂しいじゃねぇかい!他には?」
「では『散る花を なむあみだぶつと いうべかな』てぇなぁ」
「なお陰気だよ!」
「なにしろ、がぶがぶのぼりぼりじゃぁ陽気ンなりようがねぇですぜぇ・・」
「愚痴を言ちゃぁいけねぇなぁ・・誰か陽気な句はないかい?」
「大家さん、いま作った句を書いてみたんですが、こんなのぁどうですぅ?
「おぅ、勝っあん、できたい?お前さん、矢立てなんぞ持って来たとは、風流人だねぇ。いや、感心したよ・・どれどれ『長屋中・・』うんうん、長屋一同の花見てぇことで、長屋中と始めたところは嬉しいねぇ。『長屋中 歯を食いしばる 花見かな』えっ?何だって?この『歯を食いしばる』てぇなぁ、一体何なんだい?」
「なーに、別に小難しいこたぁねぇんで、あっしのウソ偽りのねぇ気持ちを詠んだまでしてぇ・・まぁ、はえぇ話しが、どっちを見ても本物を呑んだり食ったりしてるでしょ。ところがこっちは、がぶがぶのぼりぼり・・あぁ、実に情けねぇ、と思わずバリバリッと歯を食いしばったという・・・」
「おいおい、止めとくれよ。第一、周りの連中だって、なにを食ってるか分かりゃぁしねぇぜ。あんな顔したって、どこもおんなじようなもんだ」
「へっ、ンなこと言ったって、『おこうこ』で番茶なんぞ呑んでるやつが他にいてたまるけぇ・・・」
「おいおい、どうも弱った連中だなぁ。おめぇたちはどうも心構えが後ろ向きでよくねぇ。気分直しに、今月の月番、景気良く酔っ払っとくれ!」
「えっ!?酔うんですかぃ?酔わねぇふりをしろってんならできますけどね、酔ったふりなんて、考げぇたこともねぇから・・」
「そこをひとつ、まげて酔っとくれ。あたしゃ別に恩を着せる気はねぇが、お前さんの面倒はずいぶんみてるはずだよ」
「へぃ、その通りでござんす。へぇ!大家さんにこう言われちゃぁ、あっしゃぁ一言もありません。一宿一飯の恩義に絡まれて、あっしゃぁ酔わせていただきます」
「まぁ、ご苦労だが、ひとつ頼むよ。威勢良く酔っ払って、べらんめぇかなんか言っとくれ!」
「へぃ!それじゃぁ、大家さん!」
「なんだい?」
「さて、つきましては・・・酔いました!えぇ、改めまして・・べらんめぇぇぇ」
「なんだい、そりゃぁ・・そんな酔っぱらいがあるもんかぃ・・じゃぁ、来月の月番、おめぇも幹事だろう。さぁ、うまいところ酔っとくれ!」
「いやなときに幹事になっちゃったなぁ・・・へぇ、そりゃぁ幹事の役目でござんすから、酔えとおっしゃられれば、酔いますけど、なにぶん手ぶらじゃぁ酔い難いや・・その湯飲み茶碗を貸してくれ・・さぁ、酔ったぞぉぉぉ、あぁ、酔った!酔ったとも!」
「その調子、その調子」
「おりゃぁ酒呑んで酔ったんだからな!番茶で酔ったと思うかぁ!ふざけるねぇ!」
「余計なことを言わなくたっていいよ!」
「いゃぁ、断らなきゃぁ気が違ったと思われちまいますから・・・さぁ、酔っぱらった!あぁ酔っぱらった!すっかりいい気持ちになってきたぞ!こうなりゃぁ土地でも売り飛ばしちまおぅ」
「いいねぇ、景気がいいねえ!。しかし、土地なんぞあるのかい?」
「ガキのこさえた箱庭が・・・」
「しまらねぇなぁ、言うことがぁぁ・・」
「さぁ、酔った!酔ったぞぉぉぉ!貧乏人だ、貧乏人だと馬鹿にすんねぇ!借りたもんなんざぁどんどん利息をつけて返してやらぁ!」
「いいぞ!いいぞ!」
「本当だぞ!大家がなんでぇ!店賃なんざ払うもんかぁぁ!」
「悪い酒だなぁ。どうも・・どうだぃ、いい酒だろぅ。えぇ? 酒がいいから、いくら呑んでも頭に来ないだろ?」
「頭にゃぁ来ないけど、腹がだぶってしょうがねぇ・・・もうちゃぷちゃぷ・・」
「どうだぃ?酔っぱらった心持ちは?」
「酔った心持ち?・・・そうですねぇ、去年の秋に井戸へ落っこちたときとそっくりでぇ」
「変な心持ちだなぁ。でもおめぇは感心だ。よく酔ってくれた。長屋の連中の手本だ。おぃおぃ、みんな、どんどんとお酌してやっとくれ!」
「さぁ、こうなりゃぁ、おれだけがひでぇ目にあゃあいいんだ! さぁ、みんなのぶんもまとめて面倒見るから、どんどん注いでくれ!おっとっと。ずいぶんこぼしちまった・・どうせこぼすんだったら中にこぼしてもらいてぇもんだ!・・もっとも、こぼしたって惜しいような酒じゃぁねぇや・・さぁ、さぁの・む・ぞぉぉぉぉ!あっ!大家さん、大家さん!・・・・・」
「なんだぃ?」
「近々、うちの長屋にいいことがありますよ、きっと!」
「おぅ、嬉しいねぇ。そんなことが判るのかい?」
「わかりますとも!解ります!」
「どうしてぇ?」
「茶碗の中を覗いてご覧なさい。酒柱(ちゃかばしら)が立ってます」
一気の落ちでございました。今年の桜の開花は例年より早いとか。仙台でも、入学式には桜の風景もみられたのではないのでしょうか・・。
もう、ここまで来ましたら、このお話のうんちくは、やめましょう。
やはり、この時期聞きたくなる、噺でございました。
昨日、シティラピッド君の高校で、入学式が催されました。満開の桜の元。
クロンシュタット様のご子息が入学されました。この場ではございますが、おめでとうございます。
「塩竈桜」の様子はどうでしょうか?まだ、咲くには早いでしょうか。
自身の携帯の待ちうけ画面は塩竈神社の「塩竈桜」丹治さんご提供のものです。
小学校の校章は「塩竈桜」でした。
今は塩の結晶がモデルでございますが、旧制「塩竈中学」の校章も「塩竈桜」でした。本日、湘南は22度。仙台と同じ最高気温の予報です。
「仙台の花見」そうそう、日本酒とウィスキーのオンパレードでした。
玉子も新鮮。都内には、まだこう言った農家が残っているのですね。
藤沢周辺も、農地が結構あることに気づきます
ご子息のご入学、おめでとうございます。
早く、学校に慣れて、有意義な高校生活をおくられるといいですね。
やはり、春山が好きでした。
お出かけの際は、お知らせ下さい。
今週は「学生諸君とお花見」するのですか?
「三ケ峰公園」「西公園」七ヶ浜は「君ケ岡公園」と・・。
やはり少し、早い開花でしょうか。
ひー様ブログのテンプレートの塩竈神社は、懐かしく見させていただきました。
どのように変わるのか、また楽しみでもございます。
散り始めた桜吹雪に迎えられた入学式でした。
鉄道会社からの祝電が多かったことが印象的でした。
まったく正直なところ、自分が入学して学んでみたい気になりました
教材が時刻表ですからね。まあ、実際の勉学は厳しいのでしょうけれど。
私の高校の入学式は一人で出席しました。
そう、両親は高校も大学も、一度も訪れたことがありません。
大雪あけの川内の校舎は、空気が冷たく澄み切り、痛いような想いでした。
まあ、息子の世代とは時代が違いすぎますからね・・・
ところで。
カミさんの家の畑では、大根を栽培しております。あ、いや卵焼きの元ですな。
「酔漢を見た」と言っていただければ、みなさん抜いてっていいですヨ。
場所は東京都三鷹市○○○・・・へへへ。
ちなみに鶏もウジャウジャですので、本物の卵もどうぞ、おっとこれは雄鶏の攻撃が・・・
八木山でも、小生の職場や東北放送構内の日当りがいいとこにある木が咲き始めています。
そうでなくとも、どの木もつぼみが膨らんで、桃色っぽくなってます。
先日松島に行ったのですが、瑞巖寺の臥龍梅が咲き始めてましたよ。
小太郎と紅蓮尼の比翼塚は満開です。
春ですね!!!
去年の塩竈神社の桜は満開を見計らっていきましたが、どうも塩竈桜は、気持ち遅れて咲くようです。
テンプレート用の写真を取り直したいので満開には、今年もしおがま様に行きたいと思います。
そうそう、落語は全部読んでから聞くと内容がよくわかり、噺家さんの特徴というかテクニックというか…
よくわかるのです。
早速、明日帰ったら茶の酒でも飲みながら聴きますかね…