酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

仙台与太郎物語 兄弟というものは 伝えたかったこと

2009-05-04 08:46:28 | 落語の話?
「うーーーーん。うーーーーーん」
「(咳込みながら)こんだにまぁ、夜寝ている間に唸る奴ァ見た事ぁねぇだに・・(竹次郎を揺り起こす。兄)おい!竹。起きろ!竹、起きろ!・・・おい!」
「(びっくりして飛び起きる。竹次郎)ははっはははは・・・どこ?どこだぁ?ここはぁ・・?」
「何言ってるだぁ・・・汝・・俺ん家(ち)だべ」
「あんたぁぁ・・・兄ぃぃ・・さん?・・・火事はぁ?」
「何?」
「鼠穴?あ・・・な・・・?」
「火事なんかねぇちゅうだに・・・竹、俺ん家に泊まったでねぇか・・」
「あーーーーーーーっ!夢だぁぁぁぁぁ・・ははっははっははh・・・・」
「まったく、賑やかな奴だなぁ、全く。唸ったと思ったら今度ぁ笑ってやがる。どうした竹?悪い夢でも見た?うん?なしただ?話して・・・・?うん?・・・おらん家さぁ泊まった晩に汝(わら)んとこで火事・・火事なんかあっちゃねぇ・・そいで家と身代丸ごと焼けて・・うん、うん。商売の元手借りに俺ぁんとこさ来たら、銭は出さぁねぇし、殴られてぇぇ?・・・なんだ俺ぁ相当に悪者(わるもん)になっちまったなぁ・・そんで・・・うん、うん・・・娘ッ子吉原で・・金捕られたぁぁぁ・・・ははっは・・一晩で、また相当長ぇ夢見やがったなぁぁ・・(にこにこと笑いながら)しかしなぁ、竹よぉ。夢は逆夢ちゅうに、昔から火事の夢は焼けほこるちゅうに、縁起のいいもんだで!汝ん身代は、これからますますでかくなるのぉぉ!竹!えかったのぅ!」
「あぁぁぁ、兄さん!ありがてぇ、ありがてぇぇ。俺ぁあんまし鼠穴気になっていただ」
「あははは・・・夢は土蔵(五臓)の疲れだ」

ありがとーござーいましーたぁぁぁぁぁぁぁぁ。

一瞬、誰しもが、拍手をするのを忘れております。
少しばかり、解説を致しておきますが、落ちの種類で言いますと「途端落ち」に近い噺です。「五臓⇒土蔵」とはかけておりますが、途端に噺を打ち切る形になっております。例えば「大工調べ」でお白洲の場面の前で落とす場合であるとか、先に御紹介いたしました「野晒し」の落ち(「あの人針取っちゃったよ」)と同じです。ですが、「鼠穴」はこの落とし方が逆に噺全体を引き締めているように感じます。そして、この噺の魅力が凝縮されている言っても過言では無いほど見事な「落ち」でございます。

落語が終了しました。拍手を忘れていた観客ももう大喝采でございます。
彼、泣いているようでした。
僕はいてもたってもいられなくなり、舞台袖へ走りました。
「琴舎豊作」部長。「織苑亭しおん」さんも泣いております。
噺はたしかに人情噺ではあります。でもそれだけではありません。
「枝現は、この噺を高座にかけるまで半年以上の準備をしていたんだ」
と豊作君。
彼のこの噺にかけた情熱が伝わってきたのでした。
普段は飄々とした彼です。(ヤクルト前監督古田さんに風貌が似てました)そして、爆笑をとる落語というよりは、古典を忠実に再現する丁寧な噺を聞かせてくれていました。その彼が全身全霊をかけて仕上げた完璧までの高座。
正直「やられた!」というのが感想です。
どんなに受けた噺をしても、アマチュアがプロの噺家を凌駕できるほど、この世界は甘くはありません。
が、「アマチュアがプロを凌駕した」と感じました。決して、テクニックではなかったのです。噺にかける情熱。「この噺は今自分が語らなければ、誰がやる!」というような情熱が勝れば、テクニックをも吹き飛ばす。そういう事を彼が見事に証明したのでした。ですが・・この思いは、落語をする我々も同様です。彼には、それ以上のものがあったのです。

今一度(しつこいようですが)写真のポスターをご覧下さい。
「快亭枝現  宮戸川」で中取りでございます。
この話より約1ケ月後、酔漢他3名が主宰します「寄席集め会」に出演していただいたときのものでございます(この会で取りを努めました「あん好」は私目です。⇒何度もすみません)
この会の打ち合わせの際。
「枝現君には、『鼠穴』で取りを取ってもらいたいんだけど」と話をしました。
実は、この会、「あん好 芝浜」は発足から決まったいたのでした。ですが、学院大学のこの高座を見て、「あの話を超えることは決してできない」と感じた酔漢です。ですから、素直な気持ちでお願いいたしました。
「何言っているんですか。あん好さんの芝浜でしょ。絶対俺聞きたい。そして・・」
彼は途中で口を噤みました。
「これ、誰にも話そうとは思わなかったんですけど、もう二度と『鼠穴』は高座にかけないと思っているんです」
「なして?あんなに素晴らしい出来ではなかったすか!」
「自分でもあの瞬間を越えることは出来ないと思うし。それに・・」
「なにっしゃ?」
「実は僕には弟がいたんです」
彼がやっと口を開きました。
「弟?いた?・・・ってことは・・・今は・・・」
「そうなんです。今は・・・いないんです」
僕はかける言葉を失いました。彼は続けます。
「もし、今弟がいたら、こんな兄貴でいたかった・・・この噺を談志師匠で初めて聞いたときにそう思いました。そして、落語をやっている以上、この噺は、僕が一番表現できるだろうと・・そう信じて練習してきました。練習中はOBからボロクソ言われましたけど・・ネ」
彼は、淡々と話しておりましたが、この弟への思いが、あの高座の鬼気迫る表現に繫がったのだと改めて思いました。
「んでも、寄集め会には出てけんだすぺ」
「もちろんですよ!家からは『豊作』と『しおん』も出るって言ってました」
「学院御三家、三首脳が総出かや。俺が取りでいいんだすぺか?」
本当に自信喪失の酔漢=あん好でした。

寄集め落語会。この会は向山高校落研OB三名が主催しました。「翔家からす」「強家語児羅」そして「新海亭あん好」(この時は「新開亭あん好」といたしました)
です。第一回が「落語するものこの指とまれ」第二回が「仙台落語オリンピック」
(ちょうどロス五輪の年)最後がポスターにあります「噺家伝説」でした。
実は・・・
「しおんがアルバイト長引いて遅れるって」と豊作さんから連絡がありました。
「んでも、出番がこの後だっちゃ」と酔漢。
「なんじょすっぺか」とからすと語児羅。
「んで、しおんちゃんの出囃子そのまま流してけさいん。『織苑亭しおん』のままでいいからっしゃ。俺何かやっから」
と、腹をくくった酔漢です。
「何やんのすか?」
「座ってからきめっちゃ!」
なんとも、無謀な話です。
ですが、ことの他落ち着くんですね。
枕を話していたら自然と「子ほめ」が出てまいりました。
登場する際「しおん」ちゃんが出てくると期待していた客席が驚いたのも無理はありません。ですが、このハプニングが会場を爆笑にさそったのでした。
あん好の一声「織苑亭しおんでございます」でした。

先だって、テレビのニュース専門チャンネルを見ていたときの事です。
「仙台では、アマチュアの落語家達が活躍しています」と。
「何?俺達だっていねぐなったのに誰がやってんのっしゃ?」
真夜中午前0時に思わず声をあげた酔漢です。
「この『桂文好』さんは、サラリーマンを引退後、アマチュアの仲間を集めて落語のグループを結成。定期的に寄席を開催しています」
「桂なんて、大それた高座名だっちゃ。相当自信があんのかや?」と思っておりましたら。
「NTT東北初代社長であった『桂文好』さんは、『桂文楽』師匠の弟子でもありました。今社長を引退後、好きな落語をもう一度と落語のサークルを結成。老人ホームなどでボランティアをしながら、高座を開催しております」
「あの社長すか!文楽師匠の弟子!仙台さぁいんのすか?」
「俺達の会さぁ出てもらいたかったなや!」

もっともっと、愛すべき「落語家」達の話を紹介できればよろしいかとも思いました。僕らの世代、アマチュアの落語家は30名以上いたのです。だれもが、個性溢れる噺をしておりました。

冬の北風が吹く青葉通り。土曜午後。日立ファミリーセンター前。
ものきを着ながら、呼び込みとパンフレットを配る落研部員。
今はなき仙台の風物詩を僕らは作ってきたのかな。今はそう思っております。

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6 コメント

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Unknown (ひー)
2009-05-04 16:53:28
落語の面白さ、教わりました。
ありがとうございます。
NTT東北…勿論面識があるわけではありませんが、意外な落語との繋がりですね。
いい思い出があったのですね。
昨日、ニコ動を聞きましたよ、塩竈神社の団子屋を描きながらね。
わかりますわかります…
最後に落ちちた瞬間!気持ち間があって拍手が続きます。 あれは、安堵感でホッとしたのかな…と感じました。
土蔵と五臓…わかりましたよ。

また、他の噺家さんの鼠穴を聴きたいと思います。

これで落語の話は終わりですかね?
また、思い出したらUPしていただきたいと思います。
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秋刀魚の丸干し (クロンシュタット)
2009-05-04 17:14:35
我らが仙台には、新興の都市には到底持ち得ない「何か」があります。
大藩の城下町であったという理屈だけでは解明しきれない「何か」があります。
出張族のサラリーマンが終の棲家を持つ際の人気ナンバーワンでありました。
東京の人間に「仙台出身」と告げると必ず肯定的な反応があります。
酔漢さんたちの落語の世界が存在しえたのもその「何か」故かもしれませんね。

今日は下の息子と熱海まで行ってきました。
好物の「秋刀魚の丸干し」を少々購入してきました。
なぜだか藤沢駅のJRと小田急の敷地境界がやたらゴミだらけなのが記憶に残りました。
GWで脱力しきっていますのでそのような風景が目に入ってしまいましたよ。
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ひー様へ (酔漢です )
2009-05-04 18:41:09
お聞きになったようですね。
いかがでしたでしょうか。談志師匠で、それとも小三治師匠でしょうか。今、志の輔師匠がいいです。
落語を特集してまいりましたが、仙台で出合った「不思議な連中」をテーマにしてまいった次第でございます。
次回更新分から、再び原点に戻って、塩竈、仙台、宮城をやはり出合った連中を軸に語ろうかと考えております。
その時、また落語を思い出すかもしれません。
その際にはまた「落語」を語ろうかと考えております。
酔漢に取りまして、仙台だから落語だったわけでした。
お聞きくださいましてありがとうございました。
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クロンシュタット様へ (酔漢です )
2009-05-04 18:46:09
藤沢市民の間では、JRと小田急は中が悪いとか。あの階段の清掃にも確執があるとか噂があります。
お近くまでいらしたのですね。
秋刀魚の丸干し、一杯呑みたいところです
返信する
ニコ動は (ひー)
2009-05-05 21:12:07
本日も聞きまして、立川談志さんと柳家小三冶さんの両方を聞きました。
談志さんのあのテンポは凄いなぁと思いましたよ。
微妙なアレンジは、噺家さんの個性になるのですかね。
これを聞きながら書いた絵は、今日だいたい出来ましたので、明日でもUPしておきます。
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ひー様へ (酔漢です )
2009-05-07 12:47:27
小三治師匠と談志師匠の解釈の違い。これは同時に聞きませんと、判らない部分だと思うのです。
この噺の主人公は竹次郎のようですが、兄の方だと思うのです。
談志師匠は兄を相当悪ぶった人に演じておられていると感じます(酔漢の主観です)小三治師匠は実は善人と、ところどころ臭わせながら噺を勧めております。
この違いが、噺家さんの個性だと思うのです。
ですが、確かに談志師匠のリズムは突出しております。
ニコ動のはおそらく「立川流一門会」で演じたものだと考えます。この会もちろん取りで「鼠穴」を演じました。その際の録音かと。
ビートたけし師匠もこの会で落語を演じていたかと記憶しております。二十数年前のものだと記憶しております。
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