うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

夕焼け--吉野弘の詩

2009年01月12日 07時40分28秒 | 俳句・短歌、またはエッセイ

夕焼け

いつものことだが
電車は満員だった。
そして
いつものことだが
若者と娘が腰をおろし
としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って
としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが坐った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。 
娘は坐った。
別のとしよりが娘の前に
横あいから押されてきた。
娘はうつむいた。
しかし
又立って
席を
そのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた。
娘は坐った。
二度あることは と言う通り
別のとしよりが娘の前に
押し出された。
可哀想に
娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も
次の駅も
下唇をキュッと噛んで
身体をこわばらせて-----。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて
娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持主は
いつでもどこでも
われにもあらず受難者となる。
何故って
やさしい心の持主は
他人のつらさを自分のつらさのように
感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで
つらい気持で
美しい夕焼けも見ないで。 
 [吉野弘全詩集- 青土社] [吉野弘詩集- ハルキ文庫 角川春樹事務所]

 昨日につづいて2編目である。相手の気持ちを純粋に思いやる、こんなにかなしいほどの優しさはわたしには辛すぎる。若い女性の未来を思うのだ。
 吉野弘の詩は平明さが特徴的である。しかし、自分でも真似して作ろうとするとなかなかうまくいかない。気取り、けれんみ、ペダンチックには無縁、ごく日常の言葉をつかって表現している。そして、その言葉はわたしをふり返らせてくれる。
 吉野弘さんは、今、長寿を全うしつつあるようだ。これからも、よりいっそうのご健康をお祈りしたい。
 いつか、わたしの隠れた特技(!)である詩の朗読の席があったら宮沢賢治の‘風の叉三郎’の一節、‘雨ニモ負ケズ’とともに、とりあげたい内容の詩だ。
   
コメント
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