まつら長者(小夜姫)⑥ おわり
懐かしい我が家も朽ち果て、母の行方も知れず、小夜姫は途方に暮れていましたが、
母を尋ね歩いている小夜姫に、里の人がこう教えました。
「いかに姫君、母上様は、あなたが居なくなってからというもの、明け暮れ、姫が恋しいと泣き暮らし、程なく両眼を泣き潰しました。それから、母上様の行方はとんと知れません。」
これを聞いて小夜姫は、驚き悲しみましたが、諦めることなく、母親を探し続けました。あちらこちらと探し回っているうちに、小夜姫は、再び奈良の都まで戻って来ましたが、ふと道端で子供たちの囃し声を耳にしました。
「松浦物狂い、こなたへきたれ、あなたへまいれ。」
一人の物乞いらしい老女が、子供たちに嬲(なぶ)られていたのでした。はっとばかりに小夜姫が駆け寄ると、紛れもなく、探し求めた母上様です。小夜姫は思わず、
「母上様、小夜姫です。」
と涙と共に抱きつきました。しかし、御台は、
「小夜姫とは誰がことぞ、確かに昔、小夜姫という娘がいたが、人商人が謀って行方も知れぬ、今はもうこの世に無き者なり。盲目の杖に打たれて、我を憎むなよ。」
と、杖を振り上げて、むちゃくちゃに振り回します。小夜姫は、懐から大蛇にもらった玉を取り出すと、杖に打たれながらも再び母に抱きつきました。その玉を両眼に押しつけて、なで回し、
「善哉なれや、明らかに、平癒なれ。」
と、必死に唱えると、なんと、母の両眼はぱっと見開いたのでした。類まれなる親子の対面、喜び合うことも限りなく、親子抱き合って再会を確かめ合うのでした。
それから、松谷に戻った二人でしたが、やがて昔の奉公人達も戻ってきて、再び富貴の家を興し、奥州の権下の太夫夫婦も召し抱えて、さらに繁盛させ、松浦長者の跡を継がせたということです。これも一重に、親孝行の心の優しさを、天が哀れんでくれたためです。
年月重なり、小夜姫は八十五歳で大往生をされました。その時、花が降り、音楽が聞こえ、異香(いきょう)が薫じ、三世の諸仏を共として、西に紫雲がたなびいたと言われます。こうして、小夜姫は、近江の国竹生島の弁財天とおなりになり、大蛇との縁から、その頭には大蛇を乗せられておられるのです。
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</shape>※写真のように竹生島宝厳寺の弁財天の頭部には顔が乗っていて、蛇には見えないが、これは、宇賀神という人頭蛇身の神である。竹生島にはさらに宝珠をくわえた蛇が河川沼湖を守る八大龍王として祀られている。
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</shape>昔も今も、親に孝行ある人は、この事、努々(ゆめゆめ)疑うべき
不孝の輩は、諸天までも加護なし
生きたる親には申すに及ばず
無き後までも孝行尽くすべし
また、女人を守らせ給う故
我も我もと、竹生島へ参らん人はなかりけれ
身を売り姫の物語
証拠も今も末代も
例(ためし)少なき次第とて
感ぜぬ人はなかりけれ
寛文元年五月吉日 山本久兵衛板
おわり