ごすいでん その2
喜んだ九百九十九人の后達は、博士を担いで、大挙してごすいでんに押しかけます。驚いた大王に、蓮華夫人は、
「この度は、ごすいでん様のご懐妊、誠におめでとうございます。后九百九十九人、そろってお祝いに参りました。王子様の誕生を願って、隣国「ケイホウ国」より未来八十年の間を見通せる陰陽の博士を連れて参りましたので、この博士に、王子か姫宮かを占わせみてはいかがでしょうか。」
大王は、后達の恐ろしい計略とも知らずに、博士に占わせました。博士は、占方を開いて長い間考えていましたが、やがて、
「王子様であることは確実です。」
と、申しあげました。これを聞いて、大王を初め公卿、殿上人皆、喜びの笑みを浮かべて安心しましたが、后達は、作り笑いをしながらも、目は恐ろしいばかりに博士を睨みつけ、博士の次ぎの言葉を、じりじりとして待っていました。いよいよ、堪忍した博士は、蓮華夫人の命令通り、やや震え声で、
「さりながら、太子ではありますが、悪王子にてあられます。御手には、悪という字を握り、誕生より百年間、世の中は乱れ、三歳の御時、鬼神が来て人々の種を断ち、七歳の御時、大王の首を切り、母御、大臣、公卿を刺し殺し、十歳の御年には、唐の王に国を奪われ、その時、王子も滅びるという占いが出ております。」
と奏聞しました。后達は一斉に、わっとばかりに顔を伏せ、含み笑いを噛みしめました。一転して、座はしらけ、ざわめきましたが、さすがは大王です。
「目出度くも占ったり、天竺の中でもこのマガタ国の主になる身は、普通ではすまされまい。その上、未だ生まれぬ前に死んだり、生まれても育たぬうちに死ぬこともあるのに、七歳まで王子と共に生きられることは、誠に仏の果報である。」
と、喜び、博士に沢山の褒美を与えました。
さて、博士は、ほっとしながらも、ほうほうの程で、ごすいでんを逃げ出しましたが、門を出た途端に、血を吐き、目玉が飛び出て、口が裂け、狂い死にしてしまいました。
大王はこれを見て、
「目出度き王子を、そしった天罰。堅牢地神(けんろうじしん)に蹴り殺されたのも当然。」
と、いよいよご機嫌よく、御簾内に帰られたので、九百九十九人の后達は、がっかりとうなだれて、内裏に戻りました。
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</shape> 内裏に戻った九百九十九人の后達の憤りは頂点に達し、一間に群衆した形相は凄まじく、髪を逆立てた有様は、最早、鬼という外はありませんが、その日の夜半、真っ赤な着物を着て、顔も真っ赤に塗り上げて、腰に太鼓を結びつけると、暗闇の中を、金輪の燭台に火を灯して、しずしずとごすいでんに押し寄せる有様の不気味さは、例えようもありません。やがて、鬼のような一群はごすいでんを取り囲み、御殿を崩すばかりに九百九十九の太鼓を打ち鳴らし、天地を響かせると、一陣の風が吹き、小雨も混じっておどろおどろしいばかりです。九百九十九人の后達の声もいつのまにかしわがれて、口々にわめきたてるには、「ごすいでんの孕み(はらみ)たる悪王子、誕生ならば大王殺す
四方山(よもやま)火炎となり神仏去る
国は野干(やかん)の住み家とならん
早や、早や、閑居いたされよ
去らねば、禁裏の人々を
三日の内に取り殺し
大王の髻(たぶさ)つかんで虚空に昇らん
王子誕生無き先に
ごすいでん諸共に殺すべし
さもないと、今生後生のたたりあり
我こそ、堅牢地神なり」
鬼神が現れたと、ごすいでんは大混乱となり、臣下達も、このような不思議なことがある以上は、早く内裏に戻った方が良いと進言したので、大王もつくづくとお考えになり、とうとう、仕方なく、
「さてさて、縁の無い王子の過去の因果はいかなるものか。名残惜しや。」
と、心ならぬ、ごすいでんとの別れを嘆き、最後の夜を過ごすと、暁の鐘とともに、大王は禁裏へと戻りました。
引き別れさせられたごすいでんは、哀れにも、空しい床に一人残されて
「ああ、浅ましいことになった。最早、大王に逢うことも叶わない。恨めし浮き世やな。」と、絹のしとねに伏して、泣き崩れる有様は、言いようも無く、いたわしい限りです。
つづく
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