同業他社なら何でもライバル視してしまうという考えは、自らの会社を迷走させてしまう……。14万人以上の読者を誇る人気の無料メルマガ『ビジネス発想源』の筆者・弘中勝さんは、最近読んだ書籍の内容から、「モスバーガー黎明期」のエピソードを例に挙げて警鐘を鳴らします。
同業者はライバルに非ず
最近読んだ本の内容からの話。
1971年7月にマクドナルドの1号店が銀座にオープンしてから、日本の本格的なハンバーガーの歴史が始まったが、その年の秋、元証券マンの櫻田慧氏はアメリカに渡りハンバーガーの修行をした。
そして翌1972年3月、東京都板橋区の成増でモスバーガーの1号店を開店する。
その創業者の甥で、当時21歳だった櫻田厚氏は、アルバイトとして成増店で働き始め、1978年には成増店の店長に昇格した。
櫻田厚氏は、成増店で教育した社員やアルバイトは日本一のスタッフであると自負できるほど、誰もが欲しがるような人材を育てていった。アルバイト全員が店長やマネージャーと同じく日計表作成や棚卸、シフト組むなどのマネジメントができ、家族のような結束力だから人が辞めることはなく、「働かせてください」と頼みに来る人も多くて、「そう簡単には入れない」という精鋭ぞろいの店になった。
ところがその年、成増店の通りを挟んで向かい側に突然、マクドナルドが出店してきた。
開店以来6年が経っていたモス成増店の最大の危機である。成増の商店街の人たちも、後から聞けば「絶対モスが潰れるとおもっていた」と言っていたほど。
立派な建物に、工場のようなバックヤードで、それに比べると、モス成増店は小さい家の台所。設備では圧倒的に負けている勝負が始まるが、櫻田氏は特に何をした、ということはなかった。
オープン日の前日の木曜日にスタッフに言ったことは、「とにかく掃除をいつも通りきちんとやろう。店内もご近所もいつもと同じように掃除し、商品は気持ちを込めてお客様にお渡ししよう」といった程度のことだった。
そして、マクドナルドが開店した金曜日、モス成増店の売り上げは23万7000円で平日の新記録であった。
翌日の土曜日は37万円で、日曜日の売上はなんと約50万円。さらにはその月にの売上は847万円で、マクドナルドを上回っており、現在だと2500万円の売上に相当する額である。
日本には判官贔屓なところがあるから、「地元で自分たちが応援してきたモスバーガーがマクドナルドのせいで無くなるのは困る」ということで、1週間に2回来ていたお客様が3回も4回も来てくれていた。
それは創業から6年間、ずっとやり続けてきた「お客様との信頼関係を育てていこう」という地元に根ざした気持ちが形になったのである。
結果的に、成増店の近くにマクドナルドが来てくれて、スタッフやお客様などみんなの連帯感が再確認でき、さらにその連帯感が強まったと言える。そして地域密着型というモスのやり方が正しかったということも、この結果で再認識できた。
櫻田厚氏はその後、1990年に海外事業部長として台湾へ赴任し、モスバーガーのアジア進出の礎を作り、1998年には代表取締役社長に就任し、2014年からは会長職も兼ねることになった。
櫻田氏は、よくメディアなどが取り上げる「マクドナルドvsモスバーガー」という対立構図に、ずっと違和感を抱き続けているという。
櫻田氏はハンバーガー業界におけるシェア獲得ということをほとんど気にしたことがないし、実施、モスの経営会議でもそんな話題は出て来ない。モスバーガーは、飲食店であると同時に、地域のコミュニティーでもあるような場所を作る、というのが創業以来の考え方である。
モスバーガーにとって「真の競合」があるとすれば、町のとんかつ屋さんやお好み屋さんである、と櫻田厚社長は述べている。
『いい仕事をしたいなら、家族を巻き込みなさい!』櫻田厚氏著 KADOKAWA/中経出版
同業他社はライバルと考えやすいですが、本来、信念も価格帯も異なるのであれば、本当の競合相手は同業他社にならないはずです。
例えば、高級ワインと廉価ワインがあれば、「どちらのワインが勝つか」というのは、本来はおかしな話なのです。高級ワインの競合はシャンパンやブランデーで、廉価ワインの競合はビールやコーヒー、というような感覚であるはずです。
近くに乾物屋が2店あったとしても、食のアドバイザーを目指している乾物屋と、ダシのプロフェッショナルを目指している乾物屋では、お互いが競合ではなく、全く別物です。
同業他社を競合だと視点を定めてしまうから、どちらも似たり寄ったりになってきます。
他業種をライバルに見立てることで、自分たちは一体どこへ向かうべきなのか、自分たちの立つステージはどこなのか、ということがはっきりしてきます。
ラーメン店を経営していれば、近くのラーメン店が競合だと思ってしまうと、その時点で狭いせめぎあいになります。飲食店は決してラーメンだけではないのですから、競合になりうる相手はもっと広いはずです。
お客様のランチタイムを獲得し合う相手が、牛丼店なのか、それともホテルのレストランなのか、町の定食屋なのか、それともウナギの名店なのか、そう考えると、自分たちがいなければならない場所がどういうステージなのかがはっきりしてきます。
そして、それが経営に色濃く反映されていくのです。
御社の他業種におけるライバルは、誰ですか?