図書館でひょいと手に取ったのが、「藤沢周平のツボ (至福の読書案内)」、編者;朝日新聞週刊百科編集部、発行所;朝日新聞社 2007年12月30日という変わった冊子だった。
22名の著名な作家が、一人一作品(二作品もあるが)の藤沢作品にたいして書評を書いたものだった。対象となった二十数件の作品のうち、既に小生が読んだものは半数にも満たないものであることを知った。小生の波長に会う作品もあれば,そうでないものもあるのだろうが、図書館で手に入る限り探し出して読んでみようと思った。
藤沢作品の面白さを小生の波長に一番合うように代弁してくれたのが、
”後藤正治が読む 「麦屋町昼下がり」”であった。波長が合った部分を幾つか引用してみよう。
1.・・・藤沢作品を映像としていえば、白黒のモノトーン色、さらにいえば光と闇がしっとりと溶け込んだ色調である・・・
2.・・・平易な文体で、ごくなんでもない風景を目に浮かぶように書き記す。・・・
3.・・・さらに、情景を描くなかで、登場人たちの心象風景もさらりと込めて記している。・・・
4.・・・さらに加えて、藤沢作品が多くの読者を獲得したのは、読後感のよさであろう。
5.・・・言葉を控え、あえて前途を記さず、かすかな暗示のみで締めくくる。藤沢調といえばそれまでであるが、余韻を残すすべを知りつくした筆致である。
描写力・光と影の深さ・ミステリー度・そして余韻、と藤沢作品の要素がきっちりと盛り込まれた佳作である。
このような批評がなされると「麦屋町昼下がり」を何とか図書館で探し出して読みたいと思っている。