藤沢周平全集(文芸春秋)16巻の解説(向井敏著)が実に上手く小生が感じたことを表現していてくれたので、それを小生なりに編集して引用する。
剣の名手が白刃を一閃して黒白を決する、あの爽快と単純。そのもたらす一瞬の快感には・・・さからい切れるものではない。
ただし、周平の描く剣豪は、武蔵・小次郎・葵新吾・眠狂四郎などのような剣の道一筋の武芸者ではない。彼の描く剣客は、辺地の小藩の下級武士という、現代で言えばありきたりの中小企業でまじめに懸命に働く下級サラリーマンである。
そのような平凡などちらかというと風采の上がらない主人公が、大きなトラブルにいやおうなく巻き込まれ、持ち前の非凡な唯一の特技で鮮やかにトラブルを解決するのであるが、しかしこれといって人からも企業からもさしたる評価や恩恵を受けるものでない、という話となることが多い。
その上、これらの剣の達人のほとんどが特異な性癖を持っているのが特徴である。例えば、大変な臆病者・酒乱・偏屈・盲目・貧相・好色・ごますり・泣き言屋・だんまり・などという、いわゆる主人公は、風采の上がらない・見栄えのしない・あまり良くない癖ややっかいな癖のあるどちらかといえば美男剣士とは程遠いどこにでもいる人物なのである。
クラーク・ケントが風采の上がらない点では同様で、そして悪を退治するが、ケント自身は一向に誰からも評価されることがないという設定となっている、こういった点では実に藤沢の剣豪良く似ていると思っている。
言ってみれば、藤沢流風采の上がらない日本版スーパーマンを生み出したのだと小生は思っている。それでも実に痛快で爽快感や温かみを感じることが出来るのが藤沢文学である。