夜の桜は狂気を秘めている。
日本人は一年に一度、狂う。
桜が咲くと、頭の中の何もかもが桜色に染まり、
まるで生まれた瞬間からの務めであるかのように、
桜を見に行き、集い、ざわめく。
弁当や、酒やつまみを持って、
見上げ、歌い、騒ぎ、
さながら桜の開花のように、人生の喜びを爆発させる。
それは、一人静かに眺める者の胸のうちにも、
同じようにある熱狂。
「桜が咲けば」
私たちの胸にある、ひとつの希望。
私たちの『桜』は、一般的にこの『ソメイヨシノ』を指すが、
その色は白に近い、けれど決して白ではない、桜色。
私たちが愛する儚い色。
桜は寒さの中、
静かに、強く咲き始め、
花盛りは一瞬で、散り際は鮮やかだ。
ことに、
その花びらがはらはらはらと、一気に舞い散る様は、
本当に見事である。
人々が熱狂する理由は、
きっと、その『潔さ』にもあるのだろう。
少なくとも、私はそうだ。
そんな風に生きられるとは思っていないけれど。
桜は花で花ではない。
人生そのもの。
きっと、眺める人、それぞれの胸に、
それに似た思いがある。
桜が咲けば。
もうすぐ桜も咲くからね。
桜が咲いた。
桜咲け!
いや、酒!?
曇り空ならそれもまた。