根津公子の都教委傍聴記(2014/7/24)
茶番でしかない、教育委員による教科書採択
レイバーネットhpより転載
この日の公開議題は、①来年度の都立特別支援学校の小学部及び中学部教科書の採択について ②来年度の都立中学校及び中等学校(前期課程)用教科書の採択についてのみ。他は校長の任命や懲戒処分等、非公開議題であった。
①②では、文科省検定済み教科書を使用する都立特別支援学校(小学部・中学部)用、都立中学校・中等学校(前期中学校課程)用2015年度使用の教科書採択が行われた。すでに都教委ホームページに採択の結果が掲載されている。義務教育段階の学校の教科書は、教科用図書の無償措置に関する法律によって、4年間同一教科書を使用することが定められている。中学校課程は2015年度が4年目となるため、今年度と同じ教科書を使用することが確認された。小学校課程は今年で4年を経過するので、この定例会で新たに採択された。
指導部長から採択の流れの説明と議案提案がなされた。採択方法は、「『文科省検定済み教科書一覧』の中から学校種別、教科(種目)ごとに1種の教科書を教育委員が選定し、採択する」と定めている。委員長は「事務局があらかじめ採択すべき教科書の候補を1種又は数種に限定する、いわゆる絞り込みを行ってはいけないとされている」と説明を加えた。高校日本史教科書選定の際、都教委が「文部省検定済み教科書一覧」に掲載された実教出版社版を事前に除外し、選定させなかったのは、「絞り込み」とどう違うのか、その説明を抜きにこれを言えてしまう厚顔無恥さ。私は思わず、委員長の顔を見上げてしまった。
提案を終え、選定記入用紙が各教育委員に配られ、選定、回収、集計、結果発表された。高校や中学校用の採択では、「都教委の考え」と異なる教科書は選定・採択できないように都教委は介入するが、小学校用では、その必要がない。法律に則って粛々と採択したという印象を与えるかのよう。茶番でしかない。各教育委員からは一言の発言もなかった。意見を擦り合わせることによって考えは深化するのに、それはしないのだ。私は八王子市教委の教科書採択を何度か傍聴したことがあるが、そこでは、きちんと論議がされていた。一人も発言せずに選定・採決となるようなことはなかった。
前回7月10日の定例会において、都教科用図書選定審議会が「適正と答申した「教科書調査研究資料」が配布されていた。前回の定例会は傍聴できなかったために、その資料を傍聴された人から譲っていただいた。 それを見ると、都教委のこだわりがよくわかる。高校の教科書選定・採択の時と同じだ。
国語の教科書については「神話や伝承を知り、日本文化や伝統に関心を持たせる資料」であるか否か、と並列して、「北朝鮮による拉致問題の扱い」があるか否かを表示する。結果は「なし」とされているが、これを調査し表示することは、普通の感覚ではしないであろうに、資料作成にかかわった人の誰一人、異議を述べなかったということなのか。
社会科では、「我が国の位置と領土をめぐる問題の扱い」「国旗・国歌の扱い」「神話や伝承を知り、日本文化や伝統に関心を持たせる資料」「北朝鮮による拉致問題の扱い」「防災や、自然災害時における関係機関の役割等の扱い」「一次エネルギー及び再生可能エネルギーの扱い」「オリンピック、パラリンピックの扱い」があるか否かを表示する。東京書籍の地図帳については、「大きな地図と写真で都心の様子を表してあり、2020年オリンピック・パラリンピックの主な会場予定地を確認することができる」と紹介する。こうした資料を参考にし、「都教委の考え」と異なるものは排除する方針の下、教育委員によって教科書採択がされるのは、迷惑な話だ。オリンピック・パラリンピックの主な会場予定地を確認したら、差し迫った課題である貧困や原発汚染が解決に向かうとでもいうのだろうか。
安倍政権は小学校教科書検定に際し、日本政府の立場を教育現場で徹底させるように迫った。それを受け、どの教科書会社も小学校学習指導要領には書かれていない「領土問題」を入れるなど、国定教科書化に向かっている。敵愾心をあおり、戦争要員として子どもたちを戦場に送り込む教育に、教科書会社も加担していることの問題が大きい。