陳述書
2020年6月16日
梅原 聡
私は府立高校の教員として36年間勤務し、2017年3月末に定年を迎え、再任用を希望しましたが、府教委はこれを拒否しました。府教委が私の再任用希望を拒否する理由は、総合的判断とはいうものの、「君が代」に関する私の思想良心を強制的に回答させるよう意向確認に私が応じなかったことのみを理由とするものであり、明らかに不当なものです。この裁判では私の再任用が拒否された過程を、嘘偽りのない形で検証し、事実に基づく公正な結論が導かれることを望みます。
私は2012年3月の卒業式の「君が代」斉唱時に起立しなかったために戒告処分を受けました。さらに、2014年3月の卒業式でも同様の戒告処分を受けています。2014年の処分では、「君が代」の起立斉唱をしたくないと考えていた同年の卒業生から相談されていたこともあって、同年7月に同僚・元生徒・保護者と共に大阪弁護士会に人権救済申立を行いました。これについては、2016年3月に、教員に対する職務命令や機械的な処分が、教員や生徒の思想良心の自由を侵すことになることを認めて、府教委に対して起立斉唱の職務命令やそれに違反したことに対する処分をやめるように勧告書が出されました。
2014年の戒告処分のおよそ2年後の2016年1月8日、この処分についての研修を1月21日の朝、授業前に受けるように命じられました。処分から2年も経ったこの時期に、また、授業準備にも支障をきたすような日時を指定して、研修を命じられたことに抗議し、説明を求めました。時間が経過したことについては2年間にわたって研修のための準備をしていたという冗談のような説明で、研修を行うこと自体が非常に恣意的に行われている印象を強く受けました。また、なぜこの時期かということについては、次の卒業式に同様のことが起こらないようにと答えたので、ではなぜ昨年行わなかったかと聞きましたが、答えはありませんでした。授業の時間が近づいたので、納得がいかないまま、研修に臨まざるを得ませんでした。
研修の内容は、前半は公務員の服務について、後半は国旗・国歌の問題について、学校教育法や指導要領・国旗国歌条例などの条文を読み上げるような内容でした。当日は講義を行うだけで質問は受けないとのことでしたが、それでは意味がないと、質問したところ、若干の応答がありました。その中で、命令の内容に疑義があっても従うべきであるというような説明があったので、疑問を呈すると、「明らかに違法なものでなければ、権威ある機関などによって取り消されるまで命令には従わなければならないと法律は解釈される」という返答がありましたが、「これについては、根拠などについて説明する準備ができていない」と付け加えられました。
研修の後、文書名も宛名もなく「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令には従います」とだけ印刷され、署名捺印をする形式の書面(甲第24号証参照])を渡され、署名捺印をして提出するように府教委の職員に言われました。私が確認すると、「提出は任意である」「書き換えてもいい」ということは認めました。誰が何のために書かせるのかと聞くと「教員力向上支援グループが研修結果の確認のために書いてもらう」と答えていましたが、さらに、再任用等の判断材料になるのではないかと問うと、「意向を確認するためのものということしか言えない」と答えた後に、「いったん、提出していただいたものは行政の内部でどのように使おうと自由だ」という内容の言葉が付け加えられ、唖然としてしまいました。
この書面については、命令に疑問を感じる場合の対応が十分に説明されなかったことや、不服申立てのような制度があるはずなのにそれについても説明されなかったことなどから、「憲法などの上位法規に触れると判断する場合は留保する」ということと、「担当グループが研修結果の確認をするため以外の目的に使わないこと」を書き加えて提出しました。(甲第11号証)
定年を迎えるにあたって、2016年末の再任用希望調査には、フルタイムでの再任用を希望しました。年が明けて、2017年1月24日の朝、○○校長から校長室に呼ばれました。「再任用に関連してお聞きします」と言われ、これまでの君が代不起立による戒告処分の履歴を確認された後、「今後、入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従いますか? はいか、いいえで答えて下さい」と言われました。
これまでに他の方に同様の質問がなされたことは聞いていましたが、こんな質問を本当に教育委員会が聞くのかという思いが強く沸き起こりました。私たちは生徒の就職指導にあたって、採用の面接で思想・信条に関わるような質問をされたら「そのような質問にはお答えしないように学校で指導されています」と返すように教えています。愛読書や尊敬する人物など、一見問題がなさそうな質問でも思想信条に関わる可能性があるので、同様の説明をして答えないように指導しています。これは厚労省の「公正な採用選考の基本」に沿って府教委自身が指導させているものです。その府教委がこんなことを聞くのか、答えないよう生徒に指導している私たちが、これに答えられるはずがないではないか、と強い憤りを憶えました。
また、「はい」という答え以外は認めない=再任用はさせないという聞き方にも心が震える思いがしましたが、「これが再任用に関わる質問であるということなら、生徒の就職の面接でも、このような質問には答えないように指導しているので、答えることはできません」と返答しました。○○校長は「意向確認はできなかったことになるがよいか」と言うので、私は「今の回答でそうなると判断するというのなら仕方がないが、なぜ答えないかと言うことをきちんと伝えて下さい」と念を押しました。
2日後の26日に、「なぜ答えないかということをきちんと伝えたか」ということを校長に確かめ、「思想・信条に関わる質問を再任用に関連して聞くことは不適切ではないか」という点を府教委に確認するように依頼しました。すると、翌27日に校長から「こちらからこの件に関して答えることはない」という全く誠意のない府教委からの回答を伝達されたのです。校長は意向確認に答えない理由を伝えたと言っていましたが、最終的な校長の報告書には「意向が確認できなかった」ことだけが記されていました。(甲第25号証)この内容は府教委からの指示によるものであると校長から聞いています。私の再任用を拒否することを正当化するために、あえて私が答えない理由を記載させなかったのだと思います。
「意向確認」の内容は、厚労省が示し、府でも企業などを指導している公正採用の基本に反するものであることは明らかなので、2月1日に私も加わっている市民グループ(「日の丸・君が代」強制反対!不起立処分撤回を求める大阪ネットワーク)から、大阪府の商工労働部労政課に対して相談と府教委に対する指導の要請を行いました。翌2日には私自身も労政課の○○氏らと面談をさせてもらいました。その席では「意向確認」が研修の一環として行われることについては、担当としてものを言う立場にはないが、再任用であれ、採用に関わって質問されているのであれば、厚労省の示す14項目に触れるものであるから、質問すべきではないという認識をお聞きすることができました。後日、私たちからの相談を受けて商工労働部の○○氏らが府教委の教職員人事課の亀甲氏や石村氏と面談し、「意向確認」が公正な採用選考に関する14項目のうち「思想・信条に関わるもの」に該当するので十分注意するように、との改善要請を行ったことを聞いています(甲第1号証の1、2)。府教委は、この時点で意向確認の内容に問題があることが確認できたのですから、当然、非を認めて意向確認をやり直し、私の再任用を認めることができたのに、これを怠ったのです。
教員力向上支援グループが労政課との面談の結果をどう受け止めているのかを、府教委に出向いて確認を求めたところ、○○氏がこれに対応しました。その中で、1月24日の「意向確認」が研修の一環として行われたと始めは答えているのに、さらに確認すると再任用審査会の際に聞かれて答えられるようにするためと答え方を変えたことに不信感を憶えました。労政課との面談で再任用の審査に使うために聞くのはまずいと指摘されたからではないかと思いました。労政課との面談で「意向確認」がまずいと指摘されたことで困っている状況がありありと感じられ、思想信条に関する質問で、厚労省の示す14項目に触れるのではないかと問いただしても、結局はっきりと答えないままでした。しかし、「意向確認」の内容に思想良心に関わる文言が入っているから「答えられない」、と対応をせざるを得ないので、その文言を除くように求めても、あくまで必要なことと考えていると答えていました。その後、私たちが○○氏らと持った数度の話し合いの中でも「意向確認」の中の「…国歌斉唱時の起立斉唱の…」という部分は不要ではないかと再三指摘しましたが、一貫して必要な文言であると修正を拒んできました。ですから、その数ヶ月後の入学式での不起立処分者に対する研修に用いられた意向確認の書面の文言が「今後、上司の職務命令に従います」だけに変更されていたことを知ったときには、開いた口がふさがりませんでした。(甲第14号証)それならば、私にも同じ聞き方ができたはずではないか… と考えてしまいました。
また、「意向確認」に示される「意向」を勤務実績として審査会に報告するという説明には非常に強い違和感を憶えました。どんなことを考えているかという私の内心を勤務実績として評価することは、思想良心の自由・沈黙の自由を侵すことにもなり、絶対に許されないことだと思いました。
2017年2月17日、校長より「総合的に判断して再任用結果を否とします」と口頭で連絡を受けました。その理由については任命権者から知らされている決定事項を伝えているだけなのでわからないとのことであったので、人事課の教員力向上支援グループに聞いたところ、総合的判断であるという以上のことは説明されませんでした。本当に総合的判断で再任用を「否」とされたのであれば、この年に再任用を希望した数百人の教員の中で、私が最低の教員であるという烙印を押されたということになります。そんな屈辱的な評価を受け入れることはとてもできません。しかし 、後に開示請求によって明らかになった再任用審査会の議事録(甲第2号証の2)によれば、不起立による処分をうけたことと、意向確認ができなかったこと以外は全く話題にのぼっておらず、また、校長の再任用に関する内申も4項目すべてが「適」とされている(甲第2号証の3)ことからも、国歌斉唱時の起立斉唱に関する意向確認に答えなかったことのみを問題として再任用を拒否したことは明らかです。それを総合的判断などとごまかすのはなぜでしょうか。
府教委は総務省の通知を尊重するといいながら、事実上無視して、私の再任用を拒否し、実質的に首斬りを行いました。これは、私の教員としての経歴を全面的に否定するもので、絶対に許すことはできません。これによって私は2017年4月から年金の支給が開始されるまで収入を失いました。私と同じ年に同様の理由で再任用を拒否された○○氏は、非常勤講師としての採用がいったん決まり、使用する教科書まで受け取っていたのに、府教委からの横やりが入り、非常勤講師の採用を取り消されました。(甲第21号証:今年の弁護士会勧告)このような中で、貯金を切り崩して生活することを余儀なくされ、現在は年金の支給を一部受けていますが、全額が支給されているわけではないので、今も大変苦しい生活を続けています。
府教委は、私の再任用に関してとった対応と、再任用を拒否した結果について、過ちを認め、請求通りの賠償を行うよう強く求めます。
以上