不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Sindone di Torino

2008-03-18 07:17:58 | アート・文化

北イタリア・トリノのドゥオーモに保管されている
Sindone(聖骸布)は
十字架から降ろされた後の
キリストの身体を包んでいたといわれるシーツ。
復活したキリストの遺体が残っているわけはないので、
カトリック教会では最大級の聖遺物の一つとなっています。

Sindone(シンドネ)という言葉は
ギリシャ語の「麻布」に由来していて
元々は高品質の麻の織物のことをさしていたのですが
今ではイエスキリストの葬祭布という意味合いが強くなっています。

その保管上の問題からも通常は一般公開されず、
トリノで見ることができるのは写真とコピーです。
最近では1978年、1998年、2000年に公開され、
次回の公開は2025年と予定されています。

私も本物は見たことがありません。
一回コピーを観に行ったときに
なんともいえない畏れ多き異様な雰囲気に
実は身体に不調が起きたので
本物なんか見た日には
とんでもないことになるのではないかと思い
避けているのですが。
トリノは遠いし…。

聖骸布について
きちんとした歴史的記述が残されているのは1353年から。
フランスのリレの騎士
Goffredo di Charny(シャルニー家ゴッフレード)が
キリストの身体を包んだ麻布をもっていることを
公表したことから発覚。
その後約100年後にゴッフレードの子孫である
Margherita(マルゲリータ)がサヴォイア家に転売し、
サヴォイア家がフランスのシャンベリの教会に保管。
1532年にこの教会が火災に遭い、
聖骸布も火事の被害を受けています。
その当時幾重にも重ねて畳まれ
聖異物入れに保管されていたため
聖骸布の中央の人体イメージの周りにやけあとが残り、
また火を消すために水をかけたことによる染みも
シンメトリーな模様のように現在も残っています。
1578年からサヴォイア家のトリノ移住に伴い、
聖骸布もトリノに移され
イタリア最後の国王であるUnberto II(ウンベルト2世)が
その最期にこの聖遺物をヴァチカンに寄贈し、
1983年からヴァチカンの所有となります。
ヴァチカンはトリノ大司教にその管理の一切を任せているため
現在もトリノで保管されています。

歴史的な正確な記述が残される前の聖骸布の行方についても
それがイエスキリストの身体を包んだ布である
とする研究者たちの間では見解はほぼ一定しています。
最初はキリストの弟子たち、
つまり最初のカトリック教のグループが
師の形見もしくは師の受難の記憶として保管していた
と考えるのが一般的。
当時の迫害を恐れて厳重に隠されたとされる説もありますし
遺体と接触のあったものを
穢れたものとして忌み嫌うユダヤ教の考え方に基づいて
日常生活とは切り離され隠されたとされる説もあります。
その後544年にメソポタミアの
Edessa(エデッサ:現トルコ領)に持ち込まれ、
そこでMandylionという名の下で崇拝されていた
と考えられています。
944年にEdessaがイスラム教徒によって征服されると
ビザンティンの手により
Costantinopoli(コンスタンティノープル)に移されます。
1204年に十字軍によってコンスタンティノープルが陥落し、
聖骸布もこのときに略奪され
1353年のフランス・リレで発見されるまで
その行方がわからなくなります。

中世の時代のカトリックの世界では
聖異物は今以上に高い価値を持ち
崇拝の対象となっていたため、
聖骸布も数々の贋作が作られたことは十分に考えられます。
トリノに保管されているものも
そうした贋作の一つだという説もありますが
現在の技術をもってしても
まったく同じようなものを再現することができないのに、
中世の時代どのような手法で贋作を作ったのか
という点が常に残ります。
実際に絵画作品としても数々のコピーが残されていますが
どれも絵画の域をでないもので、
それに比べるとトリノの聖骸布は種を異にするといわれています。

その真贋性は中世の時代から現在に至るまで議論の的となり
様々な調査や研究が行われていますが、未だ解明はしていません。
1988年にオックスフォード大学、アリゾナ大学、スイス連邦工科大学の
3機関で行われた放射性炭素年代測定(炭素14法年代測定)の結果
1295年から1360年代のものであるという判定結果が出ており
研究者の多くはその説を支持しています。
しかし実際に麻布の保管状態が常に最良ではなかったことや
長い年月の間に繊維内でのバクテリアの繁殖などにより
正確な測定がなされていない可能性も十分にあるとも言われています。
1988年の判定結果自体に間違いがあったのではないかというのは
これまでも何度かいわれてきたことで、
オックスフォード大学で前回の測定を行った教授の弟子である
Ramsey氏が20年の時を経て、改めて測定を行っています。

オックスフォードでの新たな判定結果も含めて
BBCが特別番組の制作を進めてきており
その放映が復活祭前日に当たる2008年3月22日とされています。
Sabato Santo(聖なる土曜日)にイエスキリストにまつわる謎が
一つ解明されるかもしれないと、一部では話題になっています。
BBCの番組作成が報じられた1月末の時点では
最新の炭素測定は完了しておらず
現在でももちろんその研究結果については極秘とされていますが
1988年の測定結果で定められた時代よりも
かなり遡るであろうということが予想されています。

今回の再測定についてカトリック教会側は
「科学は相対的なものであり
前世代の研究結果が覆されることは十分にありえることである」
と見解を発表しています。
これまでもカトリック教会側はその真贋性については多くを触れず
ただ宗教的な意味合い、象徴としての価値を重視してきました。
その態度自体が変わることはなく
新しい調査結果がどのようなものであっても
教会側のスタンスは変わらないとしています。

キリストにまつわる謎やミステリーは色々あり
このトリノの聖骸布もその一つ。
科学的な興味をそそるもののの一つではあります。
その謎が今週末には明かされるかもしれないと思うと
ちょっとわくわく。
しかし、やっぱりそうした調査が行われるのも、
それを番組として制作するのもイタリアではないのが残念。