不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Pala di San Zeno Restaurata

2009-05-05 06:48:46 | アート・文化

以前にも紹介したAndrea Mantegna
(アンドレア・マンテーニャ)の傑作のひとつ
Pala di San Zeno(サン・ゼノ祭壇画)は
4月に修復が完了し、
5月5日までフィレンツェのFortezza Da Basso
(バッソ要塞)のなかにある
Opificio delle Pietre Dureのラボラトリーで
短期の一般公開となっています。
この一般公開が終了すると
5月6日から5月11日の間に
この巨大な祭壇画は一旦分解され
厳重な警備の中ヴェローナの
Basilica di San Zeno(サン・ゼノ寺院)に移送されます。

4枚の板絵と3枚のプラデッラのコピー
そして金塗りの額縁で構成される作品の板絵の部分は
1930年代に当時の著名なミラノの修復家によって
修復されています。
キャンバスとして利用される木材は、
いずれも作品制作時には
木の成長が止まっていることが前提となっていますが、
自然の素材を利用していることから、
作品完成後も木材自体に
微妙な変動が起きる可能性は十分考えられます。
古い板絵が不自然に湾曲しているのは
製作完了後にも木の熟成が進んだ結果です。
マンテーニャの作品も
1930年代に若干の歪曲が見られたようで
修復時に板絵の裏側に水平に切り込みをいれ、
更に硬い木材で支えを加えて
無理やり歪みを矯正しています。
しかし、板絵がその後も自然の湾曲運動を続けたため
作品表面には小さな亀裂が入り、
色彩の剥落が起こっていました。
このため自然の動きを邪魔していた板絵裏の
水平の木材支柱を外し
綿密な計算の元、約2週間絵画を放置することで
自然の歪みを取り戻すようにすることから
今回の修復の仕事が開始され、
将来的な木材の小さな歪み運動にも対応できる
フレキシブルな支えが新しく取り付けられています。

板絵裏の修復が完了してから
表面絵画の洗浄などの詳細の修復が続けられ
2年2ヶ月をかけて、色彩の鮮やかさが蘇りました。

中央の板絵に描かれる
聖母子像と取り囲む天使達では
天使一人ひとりの表情が異なり、
誰もが真剣に歌っている姿が微笑ましくもあります。
聖母の足元にいる向かって左の天使は
リュートの調音をしており
真剣な表情で楽器の音に耳を傾けているのが印象的。

向かって左の板絵には
聖ピエトロ、聖パオロ、
福音書記者ヨハネ、聖ゼノ司教が描かれており
向かって右の板絵には
洗礼者ヨハネ、聖ベネデット司教、
聖ロレンツォ、聖グレゴリオ。
司教杖を持つ二人の司教が描かれていますが、
それぞれの司教杖の向きに
意味があることを今回初めて知りました。
杖の天辺は渦を巻くように装飾されていますが
宗教的にこの渦をどちらに向けるかで
意味が異なるのだそうで
いわゆるホームの司教(この場合聖ゼノ)は
渦を民衆に向けて持ち、
アウェイの司教(聖ベネデット)は
渦を自分のほうに向けています。
こうして描き分けることで、
マンテーニャははっきりとこの絵画の持つ意味合いと
オリジナルの設置場所を記していることになります。

2009年5月21日の聖ゼノの日以降、
ヴェローナのオリジナルの収蔵場所に戻されると
寺院主祭壇画として設置されるため
なかなか近くまで寄って鑑賞することが
難しくなるかもしれませんが
今後鑑賞の機会がある方は
是非細部までじっくり読み取ってお楽しみください。