不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Fico

2011-09-13 23:40:00 | アート・文化
ローマ神話ではGiove(ゼウス)の怒りに触れ、
その雷電で打たれる間際を
息子たちによって救われたといわれるGea(ガイア)が
身を隠したのがイチジクの木だったといわれています。
このエピソードから
今でもイチジクの木は
落雷被害に遭わないといわれたりもします。

古代ローマではイチジクは豊穣と繁栄の象徴であり
肯定的な意味を持っていました。
また双子のRomolo(ロムルス)とRemo(レムルス)が
かごに入れられテヴェレ川のほとりに捨てられ
テヴェレの流れに運命を任せていくと
奇跡的に野生イチジクの木の根元で止まったとも
言い伝えられています。

旧約聖書の創世記ではアダムとイブが神の言いつけを守らず
蛇にそそのかされて
知恵の実を食べてしまうシーンがあります。
全裸でいることを急に恥ずかしく思い
体を覆うために用いられたのがイチジクの葉です。
それを見た神は
アダムとイブが知恵の実を食べてしまったことを知り
これを機に蛇は地を這う運命を背負い、
人類はエデンの園を追放されるのです。
これが有名な原罪の逸話です。
知恵の実については聖書などではその果実が何であるのか
詳細には触れていませんが、
一般にはりんごだといわれています。
ただ、上記のエピソードと絡めて
時折イチジクの実だといわれることもあります。

またわずかな金銭のために
イエスキリストを売り飛ばしたユダが
後に己の行為を後悔し、やがて首を吊って命を絶ったのは
イチジクの木の枝であるとも言われています。

イチジクは、原罪をテーマにした作品をはじめ
絵画彫刻作品にも頻繁に引用される植物のひとつです。
Bergamo(ベルガモ)の
Accademia Carrara(アカデミア・カッラーラ)に所蔵される
Lorenzo Lotto(ロレンツォ・ロット)の
「Sacra Famiglia con Santa Caterina d'Alessandria
(聖カテリーナ・ダレッサンドリアと聖家族)」では
本を片手に横になる聖母マリアの後ろに
イチジクが描かれています。
これはイエスキリストの十字架を
示唆しているとも言われていますし、
聖母マリアとジュゼッペ(ヨセフ)が新たなイブとアダムである
という解釈によるものという説もあります。
欄干の上に横たわり眠る幼子イエスの姿は
人類の原罪を償うために
やがて彼の身に降りかかる受難を暗示する表現方法のひとつ。
この作品の中で
イチジクの反対側に描かれるのはジャスミンですが
こちらは神の恩寵と愛を象徴するもの。
Lorenzo_lotto_sacra_famiglia
こうして観ていくと非常に深い意味の込められた作品です。