電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ファゴット&ストリングス「室内楽の夕べ」を聴く

2013年04月09日 06時05分33秒 | -室内楽
新年度に入って二週目、あわただしさは続きますが、合間をぬって演奏会を聴きました。ファゴット&ストリングス「室内楽の夕べ」と題する演奏会です。夕暮れの文翔館議場ホールでは、すでにかなりのお客様が入場しておりました。そして、いつものステージには八本の照明と円周状に衝立が置かれ、反響板の役割を果たすようです。

本日の曲目は、

(1) カール・シュターミッツ ファゴット四重奏曲第2番
(2) ジャン・バリエール デュオ・ソナタ
(3) フランツ・ダンツィ ファゴット四重奏曲第3番
   (休憩)
(4) フェリーチェ・ジャルディーニ 3 Duetti a Fagotto e Viola concerta
(5) フランツ・シューベルト 弦楽三重奏曲 D.471 B-dur
(6) フランソア・ドゥヴィエンヌ ファゴット四重奏曲 ト短調 Op.73 No.3

というものです。クラシック音楽を好んで聴くようになって、すでに半世紀近くなりますが、LPやCD等で耳にしたことのない、初めての曲ばかりです。その意味では、きわめてマニアックな選曲のプログラムです。これを聴かずにいられようか、いやいられない(反語)というわけでした。

ステージには、左からファゴット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが座ります。ファゴットの高橋あけみさんとヴァイオリンの犬伏亜里さんは、いつもの黒い演奏会用衣装ではなくて、春らしい柔らかさを持つスタイルで、ヴィオラの成田寛さんはえんじ色のシャツと、いくぶんカジュアルさを意識したようです。ところが、チェロの小川和久さんは、すごい!男子中学生か高校生の運動会応援団用学ランかと見紛うほどに、背中に赤い刺繍を背負った黒い上着です!思わずのけぞりました(^o^)/

でも、演奏が始まれば、そんな雑念はすっ飛びます。
第1曲、カール・シュターミッツの「ファゴット、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための二つの四重奏曲・第2番」です。第1楽章:アレグロ。ヴィオラの音色が魅力的なものであることを、あらためて再確認しました。第2楽章:ロマンツェ。ファゴットから始まります。いつもは裏でリズムを刻む役割が多いファゴットが、美しい音色と旋律を聞かせます。第3楽章:プレスト。オープニングの曲にふさわしい、軽やかな音楽です。

第2曲は、ファゴットとチェロでジャン・バリエールの「デュオ・ソナタ」です。左にファゴット、右にチェロという配置です。第1楽章、アンダンテ。もともとは2本のチェロのために書かれたソナタだそうですが、木管楽器のファゴットと擦弦楽器のチェロという低音楽器どうしの音色の対比も面白い。第2楽章:アダージョ。よく歌い、訴える力もある緩徐楽章です。短いけれど、すてきな音楽です。第3楽章:プレスト。一転して速い音楽に変わります。

第3曲、フランツ・ダンツィの「ファゴット、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための三つの四重奏曲・第3番」です。楽器の配置はシュターミッツと同じ。第1楽章ではファゴットとチェロという低音楽器どうしのかけあいもあって、チェリスト作曲家らしさを感じさせます。ヴァイオリンとヴィオラが軽快な動きを見せる楽章です。第2楽章、ラルゲット・ノン・トロッポ。ファゴットが旋律を奏で、弦が三拍子のリズムを刻む始まりです。ヴァイオリンとファゴットが、美しい短調の旋律をかけあいで奏するところもステキです。第3楽章、メヌエット、アレグレット。3拍子の舞曲にあわせて踊る中で道化が口上を述べる、そんな役回りをファゴットが演じます。けっこう雄弁に口上を述べているようです。第4楽章:アレグレット。四人の奏者がそれぞれに独立した動きを見せながら、しかも緊密なアンサンブルを聴かせます。

ここで、15分の休憩。余談ですが、休憩の終わりのチャイムは、マイクで拾った時計の音ではなかろうか?実は秒針の音が聞こえていましたので。



4人目の作曲家は、フェリーチェ・ジャルディーニです。曲は「3 Duetti a Fagotto e Viola concerta」とありますが、なんと訳せば良いのやら。ファゴットとヴィオラの協奏的な三つの二重奏曲?はて?
しかし、ヴィオラとファゴットの二重奏曲なんて、実際に聴くことができる機会はそうそうあるものではありません。ステージにはヴィオラの成田寛さんが左側に、ファゴットの高橋あけみさんが右側に立ち、二人の立奏です。高橋さんは、楽器を支えるストラップをたすき掛けにかけて、まるで今から「八重の桜」に出演するような風情です。第1楽章:アンダンテ。ヴィオラとファゴットの音色が、実にしっくり合う。元々は二本のヴァイオリン、あるいはヴァイオリンとチェロのための曲か、と解説にはありますが、元々がこの編成であったかのように、双方の楽器の特徴を発揮して、実に魅力的です。第2楽章:アダージョ。くつろいだファゴットの音色、重音でヴィオラが寄り添います。このあたりの呼吸も、いいなあ。第3楽章:テンポ・ディ・メヌエット・グラツィオーソ。「メヌエットのテンポで、優美に」くらいの意味でしょうか。ファゴットという楽器は、相手をうまく引き立ててしまうと感じます。ヴィオラという地味な音色の楽器も、うまく魅力を引き立ててしまいます。自分の個性をよく心得たしっかり者の役どころといったところでしょうか。

5人目は、フランツ・シューベルトの「弦楽三重奏曲 D.471」です。高橋あけみさんはお休みで、弦の三人の演奏。1楽章のみの短い曲で、若いシューベルトらしい、途中の転調も印象的な、親しみ深い音楽です。でも、とてもマニアックな選曲には違いありません。

最後は、フランソア・ドゥヴィエンヌの「ファゴット、ヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための四重奏曲、ト短調 Op.73 No.3」です。再び高橋さんが加わり、本日のフルメンバーで。第1楽章:アレグロ・コン・エスプレッシオーネ。ファゴットを中心とする四重奏曲です。ヴァイオリンもヴィオラもチェロも緊密なアンサンブルを聴かせますが、何といってもファゴットがエスプレッシオーネに活躍します。こんないい曲があったんだ~!第2楽章:ファゴット、ヴァイオリン、そしてヴィオラが主題を歌い、チェロがピツィカート。弦楽がこれを引き継ぎ、哀傷の情感を歌います。背景にファゴットが静かに音を添えます。やがて再びファゴットが戻ってきて、この楽章を閉じます。第3楽章:ロンド、アレグレット・ポコ・モデラート。短調のロンドです。ヴァイオリンもしっかり見せ場を作り、ファゴットと弦トリオや、ファゴットとヴァイオリンなど、多彩な組み合わせで聴かせどころを用意しています。なかなか充実した音楽でした。

来場したお客様の人数は、決して「非常に多い」とは言えませんが、よく考えれば、こんなマニアックな選曲でも、山形の聴衆はしっかりと聴いてくれました。これは、驚くべきことではないでしょうか。高橋あけみさんが最後に挨拶したときの「アタシが欲張りなものだから、盛り込みすぎてこんな時間になってしまいました。アンコールはできません、スミマセン」の言葉に、聴衆は笑いの中で拍手をしていました。一生懸命な演奏家を聴衆があたたかく受け止める幸せな演奏会を象徴するような情景でした。う~ん、いい演奏会を聴きました!

【追記】
チェロを「撥」弦楽器と書いてしまっていましたので、擦弦楽器に訂正しました。ギターは指で撥(はじ)いて音を出しますが、チェロは弓で擦って音を出します。ある日のアクセス記録を調べていたら、この記事にずいぶんアクセスがあり、文中の間違いに気づきました(^o^;)>poripori

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