電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山野辺太郎『いつか深い穴に落ちるまで』を読む

2018年11月21日 06時01分27秒 | 読書
雑誌『文藝』の新人賞受賞作品で、山野辺太郎『いつか深い穴に落ちるまで』を読みました。理系的センスで言えば荒唐無稽でも、小説的面白さの観点からは、ある意味、痛快な話です。

戦後のある時期、ある官僚の発案で、日本から地球の裏側にトンネルを掘る計画が立てられ、なんともはや、その計画は実際にスタートしてしまいます。山梨県からブラジルへ、温泉を掘削するというような偽装をしながら実際に温泉を掘り当てたりしつつ、穴は深部へ延びていきます。逆にリオ・デ・ジャネイロ側からも着々と掘り進められているのだそうで、広報係のもとへリオの広報担当の女性からメールも届きます。このあたり、歴史の大雑把な輪郭をたどりながら、地球深部には高温のマントル層があるという地球科学の知識などは一切無視して、ついに深い穴は貫通の時を迎えます。

この時点で、結末を予想してみました。おそらくは、男が穴に飛び込んで、地球中心部までは加速しつつ落下するけれど、地球の中心を過ぎれば引力のために次第に減速し、リオ側の穴から飛び出すことが出来ず再び落下していき、日本とブラジルの間で振り子運動を繰り返す、というオチではなかろうか?

残念ながら、実際の結末はまるで違いました。物理学の法則などまるで無視して、地球の中心を過ぎてもぐんぐん加速を続け、やがてリオの側で受け止めようと網を張っていたのも突き破り、宇宙空間へピューン!(^o^)/
そうか、ブラジルでは重力が反対向きに働いているんだ。すると、ブラジルではリンゴは上方に落下するんだ(^o^)/



作者は、たぶん意図的に地球科学や物理学的制約を外し、想像のおもむくままに物語を作り上げたのでしょう。ライトノベルの魔法や転生や、ありえない想定と根っこは一緒です。想像のおかしみ、真面目な相貌を持つ破天荒な空想力。深読みして、何か別なふうに読み解こうとすることもできるでしょうが、この作品の「呆気にとられる」ほどの可笑しさを楽しむことといたしましょう(^o^)/

コメント