電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

文藝春秋編『藤沢周平のこころ』を読む

2018年11月27日 06時03分03秒 | -藤沢周平
文春文庫の10月新刊で、文藝春秋編『藤沢周平のこころ』を読みました。もちろん、藤沢周平の未公開作品を収録したものではありませんで、帯によれば「佐伯泰英、あさのあつこ、江夏豊、北大路欣也らが語る〜私が愛してやまない藤沢作品の魅力」について語ったものを収めたアンソロジー風の「永久保存版」です。内容を大まかにまとめれば、

1 名作を紡ぎ続けた作家の軌跡
   対談、インタビュー、直木賞選評、選考委員座談会など
2 藤沢作品の魅力を徹底紹介
   対談、エッセイ、作家と作品について
3 新たなる映像の世界へ
   映画、ドラマ、対談、役者として

といった構成になっており、多彩な内容で楽しめるものです。

いくつか、どこかで読んだ文章もありましたが、興味深い指摘もたくさんありました。例えば、松岡和子×あさのあつこ×岸本葉子さんの熱愛座談会(^o^)/

岸本 『蟬しぐれ』でいいますと、私はタイトルから気になって、どんなときに蟬が鳴くのかを調べてみたんです(笑)。そうすると、後悔というテーマが出てくるところではよく鳴くんです。

この指摘には、うーむ、なるほど。

また、宮部みゆきさんがミステリーの観点から選んだ三冊、『秘太刀馬の骨』、『闇の歯車』、『ささやく河〜彫師伊之助捕物覚え』というのも納得ですし、児玉清さんが『霧の果て』の神谷玄次郎にゾッコン惚れ込みながら、「小説の面白さ」について、「娯楽性というものを大事にしたい」と書いた作家の一節を紹介して文を終えている点も納得です。

作家・藤沢周平は、教師・小菅留治として教え子たちとの再開を果たした後に、先生の作品の暗さを指摘する元生徒に「もう少し待って欲しい」と答えながら、徐々に「彼らにも読まれる」ことを意識していったのではなかろうか。運命に抗う自分の負の感情のはけ口としての小説から、世の中で懸命に生きている読者に対してそっと差し出せるのは小説の持つ面白さだろうと考えたのかもしれない、と思います。

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