ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

イスラエルのアイアンドーム

2014-08-09 | Weblog
 ガザでの戦争終結はやっと実現する気配です。この1ヶ月間、ガザの犠牲者は約1900人といいますが、ほかにも世界ではいたるところで戦争が続いています。シリアやイラクでは、痛ましいことにもっとたくさんの死者が出ています。

 紛争やテロ事件が相次ぐ中東諸国で、今年7月だけで死者が計約9000人に上ったことが分かった。2011年の民主化要求運動「アラブの春」以降、1カ月の死者としては最悪となった。
 シリア内戦やパレスチナ自治区ガザ地区の紛争に加えて、イラク、リビア、イエメンで紛争が拡大。エジプトやチュニジアでもイスラム過激派によるテロや軍との衝突が頻発した。8月に入っても各地で武力衝突が継続しており、中東の混迷は深まっている。
 国連や各地の保健当局・人権団体によると、7月の紛争に関連した死者は
▽シリア5342人
▽イラク1737人
▽ガザ地区約1400人(註:7月8日開戦から8月一時停戦までの死者は、ガザ1900人以上。イスラエル兵士64人、民間人3人)
▽イエメン約300人
▽リビア約120人。【8月6日 毎日新聞カイロ 秋山信一】



 イスラエル軍がガザからのロケット弾を迎撃するミサイルシステム、驚愕の「アイアンドーム」の記事を先日紹介しましたが、伊吹太歩さんの解説も詳しくわかりよい。ダイジェストで紹介します。http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1407/31/news018.html(7月31日)


「なぜ、ガザに比べてイスラエルの死者数は圧倒的に少ないのか?」(伊吹太歩の時事日想)

 報道を見ていて不思議に思うことがある。死者数で取り上げられるのが、ガザ地区にいるパレスチナ人ばかりということだ。もちろん米国に支援を受けたイスラエル軍がハマスを圧倒しているのは間違いないが、ハマスも負けじと反撃の砲撃を激化させている。にもかかわらず、イスラエル側にガザのような多数の死者が出ているというニュースは見ない。
 実際に、イスラエル側の死者数が圧倒的に少ないのは数字を見れば一目瞭然だ。30日時点でイスラエルは3289発のミサイルをガザに着弾させ、1221人を殺害した。一方のハマスは、2612発のミサイルをイスラエルに放っているが、死者数は56人。その多くはイスラエル軍の兵士である。
 この圧倒的な差の裏には、イスラエル軍が誇る「アイアンドーム(鉄のドーム)」の存在がある。アイアンドームとは、イスラエルが世界に誇る迎撃ミサイルシステムのことだ。このアイアンドームは、その正確性についての議論から、紛争のあり方すら変えてしまう可能性を持つ兵器として物議をかもしている。

 アイアンドームは、弾道軌道の無誘導ロケット砲をミサイルで撃ち落とすものだ。そうすることで、イスラエルに向けられたミサイルが自国内に着弾することなく被害を防げる。いわゆるミサイル防衛だ。
 アイアンドームは可動式で、発射を発見するレーダーユニットと、弾道と着弾点を計算する戦闘管理・コントロール車両、そして迎撃ミサイル3発を発射できるランチャーからなる。どんな天候でも迎撃が可能で、複数の砲撃にも対応が可能だ。しかも予想着弾点に人的被害がない場合には、あえて迎撃しないコスト意識も備わっている(迎撃ミサイルは1発5万ドル=約510万円)。
 例えばガザ地区からミサイルが発射されると、レーダーがミサイルを感知し、コントロール車両が弾道を計算し、迎撃ミサイルの発射を命じる。ミサイルを返り討ちにするまではあっという間だ。アイアンドームの守備範囲は約64キロ。近隣からの砲撃を想定する短距離型の兵器である。人口が密集する都市部のエルサレムやテルアビブなどに向けて放たれたミサイルを中心に迎撃しており、イスラエルの重要地域は、ほぼ完全にドームに覆われて守られていることになる。
 特筆すべきは迎撃の成功率だ。イスラエル軍によれば約86%だという。軍事専門家の中には成功率を“盛っている”と指摘する者もいるが、イスラエル軍は、アイアンドームが迎撃するのは都市部を狙った砲撃であり、迎撃する必要がないものも少なくないと反論している。

 イスラエルを「ドーム」で防衛するこのシステムは、イスラエルの3企業が開発したものだ。開発費は、米国政府からの9億ドルを越える財政支援が大部分を占めている。レーダーユニットはエルタ社、戦闘管理・コントロール車両はインプレス社、そして迎撃ミサイル「タミル」を開発したラファエル先端防衛システム社だ。ラファエル社が制作したプロモーションビデオでは、ナレーションが「技術的なブレークスルーだ」と絶賛している。
 かつてイスラエルのエフード・バラク国防大臣(当時)が「ほぼ完ぺきだ」と絶賛したアイアンドームは、2011年3月に導入されてからイスラエルのアラブ勢力との戦い方を変えたと言っても過言ではない。今回のハマスとの戦いでもアイアンドームがイスラエルへの砲撃を防いでいるために、民間人への被害は圧倒的に少なく済んでいる。

 それでも、アイアンドームに課題がないわけではない。例えば、破壊された砲弾はどうなってしまうのか。破片は地上に落ちてくるはずで、それによって被害を受ける人が出る可能性はある。このリスクについては開発者も認識しているが、現時点ではどうすることもできないという。
 コストの問題もある。ハマスが放つカッサーム・ロケットは1発1000ドル(約10万円)。これを迎撃するアイアンドームの迎撃ミサイルが1発5万ドル(約510万円)では高過ぎる。戦闘が長引けば長引くほど、イスラエルも財政的にどんどん首が絞まっていくことになるだろう。

 欧米ではアイアンドームの存在により、紛争のあり方についての議論を起こすまでになっている。英エコノミスト誌は、この迎撃システムへの確度や信頼性が高まれば「イスラエルは、紛争を早急に終わらせようとする国内世論や軍事的なプレッシャーに逆らって、ガザへの攻撃をいつまでも継続させることが可能になる」と警鐘を鳴らす、元政府高官のコメントを紹介している。
 自陣に犠牲を出さないため、紛争を長引かせて「ハマス戦闘員をせん滅させる」という大義のもと、死者数を無駄にどんどん増大させることにつながりかねないというのだ。恐ろしいシナリオだ。ちなみにガザ地区は人々が密集して暮らす地域であり、砲撃を受ければ巻き添えになる人が出る。それも、現在民間人の死者数を増加させている要因の1つだ。
 アイアンドームという優れた自衛の軍備が、結果的に敵陣にいる民間人を大量に虐殺する現実には、複雑な思いを抱いてしまう。今後、迎撃ミサイルの守備範囲が広がって確度がますます上がれば、「相手が先に攻撃してきた」という“専守防衛”という大義をかざして、敵陣を攻撃しまくることも可能になりかねない。
 イスラエルで今まさにそんな事態が発生している。自衛が無差別殺人を生む――“専守防衛”を掲げる日本でも自衛そのものについて、こうした角度から考えてみる視点も必要だろう。

<2014年8月9日 オバマ大統領はイラク空爆開始を承認し、米海軍FA18戦闘攻撃機2機が空爆を開始。日本時間8日午後7時45分、現地午後1時45分>

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