ふろむ播州山麓

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イスラエルは なぜガザのトンネルを必死に潰すのか

2014-08-11 | Weblog
 奥田真司さんがジェラード・ディグルート氏の「眼下の敵:なぜハマスのトンネルはそれほどまでイスラエルを恐怖を与えているのか」を翻訳紹介しておられます。以下、ダイジェスト。
http://geopoli.exblog.jp/23125752/
奥田真司 2014年8月9日


●トンネルというのは古代から続く戦時の問題、つまり「防御の固い敵をどのように攻撃すればいいか」という問題を解決するためのシンプルな方法である。

●ガザに対する攻撃を正当化するために、イスラエル政府はハマスの武装グループが数十もの「テロ・トンネル」をイスラエル領内に向かって掘っているというシナリオを公開し、彼らがキブツやイスラエル軍の拠点を爆破しようとしているというストーリーを発信している。

●このようなシナリオはたしかに強力だ。悪魔が地獄からやってくるようなイメージによって、トンネルは不快な恐怖感を引き起こすものだからだ。

●もしターゲット側がイスラエルのように強固な守りを固めている場合は、攻撃する側は地上の戦場を横切って交戦するのはむずかしくなる。

●ところがトンネルというのは交戦の瞬間まで味方の姿を隠してくれる作用を持っているために、労力という面ではたしかに大変ではあるが、かなり安価な代替案を提供することになる。

●ハマスの政治機関のあるメンバーが最近誇らしげに語っていたのは、トンネルがパレスチナにとって戦争を有利にしてくれたということであった。彼によれば「われわれがイスラエルを侵攻する番なのです。彼らはわれわれを侵攻してませんから」という。このような結論はもちろん誇張したものだが、それでもトンネルは大きく感情的な反応を呼び起こすものだ。

●2000年以上の戦いの歴史において、トンネルというのは戦場の結末よりも、むしろ戦闘員(攻撃側・防御側の双方の)の心理面で重要な役割を果たしてきたといえるのかもしれない。

●たとえば1世紀頃のゲルマン人部隊はローマとオープンな戦場では戦えないことを悟り、トンネルによってつなげられた隠れた塹壕を掘り、これによって彼らはまだ占領されていないようにみえる土地でローマ側を待ちぶせすることができるようになったのだ。

●ローマ側はこのやり方に恐れをなすようになったのだが、それに対する効果的な対処法を見つけることができなかった。そしてこれは今日のイスラエルが直面している問題でもあるのだ。

●その数世紀後の256年にはササン朝ペルシャ軍が、現在のシリアにあるデュラ・ユーロポスのローマ側の砦を攻略することができず、代わりに壁の下にトンネルを掘っている。

●これに危機感をおぼえたローマ側は、ペルシャ側のトンネルに入り込むための対抗するトンネルを掘っているのだが、ペルシャ側は硫黄を混ぜた不快なガスをトンネル内に充満させており、これは歴史上知られている最初の化学兵器の使用となった。ローマ側の兵士は窒息死し、砦も最終的に陥落した。

●第一次世界大戦の時は、イギリスの炭鉱労働者たちがトンネルの専門会社に雇われており、ここでは西部戦線での塹壕戦を突破することを期待されていた。

●彼らの最も有名な行動は、メシヌにドイツが築いていた塹壕の地下に22本のトンネルを掘ったことだ。このうちの19本は1917年の6月7日に爆破され、約1万のドイツ兵を殺害した。ところが戦略的なインパクトは小さかった。この爆破でできた巨大なクレーターのおかげで、イギリス側は逆にここを越えて進撃することができなくなってしまったからだ。

●このような例から、通常戦におけるトンネルの効果には限界があることがわかっている。トンネルの建設には時間がかかるし、包囲戦のような動きのない戦いにしか使えない。その狭さからそこを通れる兵士の数にも制限があるため、攻撃の規模にも限界が出てくる。

●もちろん北朝鮮は20本ほどのトンネルを掘っており、それぞれが非武装地帯の地下をソウルの攻撃のために1時間で1万人の兵士を通すことができると言われている。それでもこのようなネットワークは、トンネルの存在が相手に知られてしまえばおしまいなのだ。出口が見つかってしまえば、簡単な対処によって大虐殺も可能だ。

●トンネルの価値は、小規模な反乱軍が大規模で強力な正規軍に対抗するような、非対称戦の場合に増加する。ユダヤ地区のバル・コクバの乱(132-136年)ではユダヤの反乱側はローマ側に奇襲をしかけるためにトンネルを使ったのだが、この時の狙いは相手に恐怖を植えつけて士気を落とさせることにあった。

●アメリカ人もベトナムでこれとほぼ同じ事態に陥っている。この戦争で米軍が直面した最大の問題は敵との戦いではなく、敵をいかに見つけるかのほうであった。ベトコン側は「クチの地下道」のような広大なトンネルを造って隠れており、突然現れて奇襲をしかけては消えるということを行っていた。

●「クチの地下道」は全長が320キロ以上あり、数千人の兵士を長期間にわたって収容できた。この施設には弾薬庫から宿舎、会議室、さらには病院や映画館まであった。

●イスラエル側が恐れているのは、まさにこのトンネルが反乱側に与える潜在性にある。地下に潜む敵は見えない存在として実像よりも恐ろしく感じられ、実際に相手が行ってくることよりも、むしろいつでもどこでも出現してくるという恐怖によって士気に影響を与えるのだ。したがって、トンネルというのは恐怖を運ぶ「媒介」なのである。

●2006年にハマスの戦闘員たちはイスラエル軍の基地を攻撃する際にトンネルを使っている。短距離で対戦車砲を集中的に浴びせてイスラエルの兵士を2人殺した後に、彼らは19歳のジラッド・シャリットという兵士を誘拐している。

●この一連の作戦は6分以内に終了したのだが、その影響は今日まで続いている。シャリットは5年間ハマス側に捕らわれており、1000人のパレスチナ側の囚人と引き換えに解放されている。ハマスはこのような作戦をもう一度成功させようとしているのだ。

●先週の月曜日にはトンネルから出てきたイスラエル軍の制服を来た10人のハマス兵士が、ニルアムのキブツのたった200メートルの地点から襲撃している。ハマス側の兵士は全員死亡したが、イスラエル兵士を四人殺害している。

●ニルアムで起こった事件に関して、地域の緊急担当委員は「ここまでトンネルが掘られているとは全く思いませんでした。ものごとの見方が変わりました」と述べている。

●この担当委員の嘆きは、トンネル戦の重要な一面を含んでいる。トンネルは反乱側に交戦のルールを変える大きなチャンスを与えてくれるのであり、相手はこのトンネルの脅威に対抗しなければならなくなるのだ。

●テクノロジー面で優位に立つ側も、少なくとも一時的にはトンネルを掘った側の原始的な世界で戦わなければならなくなり、その際には自分の優位を使えなくなってしまう。しかも反乱側はトンネル内部の構造をすべて知っており、敵側はその知識を知らないために、そのトンネルに入っても不安におののくことになる。

●ベトナムのトンネルに対処するためにアメリカがとった行動は「トンネル・ネズミ」という兵士を潜り込ませることであった。これは米軍が兵士に課した任務としては最悪のものであると言っていい。毒虫や蛇のいう暗くて狭いトンネルに潜り込ませるのだ。敵はそこら中にいてワナが仕掛けられている中を進むのである。

●トンネルはテクノロジーや物量などではるかに優越する敵に対して、反乱側を地下に隠すことによって戦いの助けとなるものだ。アフガニスタンやパキスタンやイエメンでイスラム系の過激主義者たちがアメリカの無人機からの攻撃に対してトンネルを作っていると見られている理由もここにある。

●トンネルに対抗するためのハイテクな解決法はまだ微妙だ。このため、米軍は「トンネル・ネズミ」を復活させるという不愉快な可能性を考えているという。

●ところがトンネルの最大の特徴は、それがプロパガンダ面での潜在力を持っていることだ。たしかに「トンネルがイスラエル・パレスチナ紛争の流れを変えた」という考えはナンセンスである。ところがこれがナンセンスであるからこそ、パレスチナ側は自信を深めている。トンネルは団結と戦いを表す効果的なシンボルとなっているのだ。

●「クチの地下道」が教えているのはまさにこれだ。トンネルはその建設の難しさから、これがベトコンの覚悟を表しているとも言えるのだ。ベトナム政府がこのトンネルを観光施設として熱心に推進しようとしているのは、それが愛国的な戦いのシンボルとなったからだ。

●ところがプロパガンダというのは「諸刃の剣」である。イスラエル側にとって、トンネルは自分たちが戦いのさなかにあることを示す効果的な手段である。人間は見えないものを最も恐れるからだ。そしてこの場合、地下から迫ってくる恐怖というのは、実際の脅威よりも数倍の大きさの反応を呼び起こすものである。

●トンネルはガザでのバランス・オブ・パワーを変化させる新たな脅威となるのだろうか?おそらくそれはないだろう。実際の歴史でも、トンネルを使う戦術によって戦争の流れが変わった例を見つけるのは難しい。トンネル戦というのは他に集団が無くなったために使われるような、必死の戦術でしかないからだ。

●ところがトンネルというのは、恐怖を巻き起こすという意味では常に効果的であった。国際的な非難を避けたいイスラエルがここまでガザのトンネルを必死で潰そうとしているのは、まさにこの恐怖にあるのだ。

<2014年8月11日>

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