多くの人が社会の中で生きているのだから、当然、要領(ようりょう)のいい人と悪い人の差は自(おの)ずと表面化して現われる。同じ人間でも、この差だけは神さまや仏さまがお決めになられて生を授けられたのだから私達の人智の及ばざるところで、分からないのは仕方がない。^^
二人のサラリーマンが隣り合ったデスクに座りながら話をしている。
「あいつ、またいないぜっ! 課長が戻(もど)って来るときは、いつもコレだっ!」
「ああ、遅井(おそい)だろっ! あいつ、早いなっ! 苗字(みょうじ)の逆だっ! 早井に変えた方がいいんじゃねぇ~かっ! ははは…」
「そうだなっ! いつだって、都合が悪くなるとスゥ~っといなくなっちまいやがるっ!」
「おい、静かにっ! 課長が部長室から戻ってきたぜっ!」
「チェッ! また部長に怒鳴られたよっ! 君達、もっとしっかりやってくれんと困るじゃないかっ! …んっ? 遅井君はっ!?」
「さぁ~」「さぁ~」
二人は異口同音(いくどうおん)に首を捻(ひね)った。
「さぁ~って、君達っ! ったくっ! 遅井めっ! ほんとっ、要領のいい奴だっ!」
それ以上は怒れず、課長は鎮火(ちんか)するように押し黙った。
遅井がふたびスゥ~っと現われたのは昼食休憩の五分前である。
「おいっ! 遅井君! どこへ行ってたんだっ!?」
「はっ!? 専務に頼まれていた植木の取り木苗を届けたんですが、それが何か?」
「あっ! そうなの? …」
課長の強面(こわもて)は、急に柔和(にゅうわ)な顔つきへと変化した。
よくは分からないが、要領がいいと、まあこういうことが多くなるのは確かだ。^^
完