水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (59)価値

2020年09月20日 00時00分00秒 | #小説

 100円硬貨5枚と500円硬貨1枚とは同じ価値だということは誰しも分かる。だが、はたしてそうだろうか? …と考えるのが、経済学を志す者の立ち位置だ。確かに物を購入出来る価値は同じだが、その利便性は見えず異(こと)なる。そこが価値の分からない違いの面白さである。今日は、そんな馬鹿馬鹿しいお話だ[経済学の貨幣論とは違います ^^]。
 とある町の商店街である。どこにでもいそうな中年男が店頭で何やら物色している。そこへ配達帰りの若い店員が戻(もど)ってきた。
「お客さんっ! 何かお探しですかっ!?」
「んっ!?いやなに、ちょいとねっ…」
 中年男は煮え切らない返事で暈(ぼか)した。
「さよですかっ! じゃあ、ごゆっくりっ!」
 店員は店奥へ消えようとした。そのとき、店員の背に中年男が声を投げた。
「あっ! タコ焼きの棒だけど、ないっ!?」
「? タコ焼きの棒(ぼう)? なんですか、ソレはっ?」
「だから、タコ焼きの棒だよ、棒! 分からないかなあ?」
「分かりません…」
「ほれっ! なんというかなぁ~。あるだろっ? 棒! クルッと回すっ!」
「ああ! 固まってきたところをクルッ! とやるやつですか?」
「そうそう、ソレっ!!」
「アレ専門の棒ってのは、ありません。あんなの、箸(はし)でも竹串(たけぐし)でも、なんでもいいんですっ!」
「そりゃ、ダメだろっ! タコ焼き専門の棒ってのがあるだろ? 箸とかとは全然、価値が違うっ!」
「価値の違いはねぇ~でしょう。クルッ! と回すだけですからっ」
「いやいや、それは邪道(じゃどう)だっ! タコ焼きはタコ焼き専門の道具で作らないとさっ!」
「そうなんですか?」
「ああ…」
 このように、価値はその人その人で違い、決まるようだ。^^

 ※ タコ焼きの棒はタコピックとか千枚通しというそうです。^^
 
                               


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