なにもテレビ番組の宣伝をしている訳ではないが、骨董(こっとう)は実益と趣味を兼(か)ねた人々の楽しみである。実益とは万一の場合の財産になる意を示し、趣味は集める楽しみになる・・ということだ。^^ どうしてこんなものがっ! と思える品(しな)が重要文化財級の逸品(いっぴん)だったりして、なかなか奥深い世界だ。^^
早朝の、とある骨董屋である[この骨董屋は過去の短編集に幾度(いくど)か登場している]。店主が店奥(みせおく)から現われ、表(おもて)に陳列(ちんれつ)された品々(しなじな)の埃(ほこり)をパタパタと叩(はた)き始めた。そこへ、現われなくてもいいのに現われたのが、これもいつやら登場した客である。
「あの…」
「んっ? …おはようございます? ? いつやら、お見かけしましたねっ!?」
店主は振り返って訝(いぶか)しげに客を窺(うかが)った。
「ああ、はい。この前…」
「そうそう! 寒山(かんざん)の掛け軸を持ちこまれたお方ですね、確か…?」
「ええ、その客です」
「その後、どうなりましたっ!?」
「いや、それがねっ! 偉(えら)い騒(さわ)ぎになりましてっ!」
「どんなっ!?」
「私がペラペラ喋(しゃべ)ったのが悪かったんですがね。国の文化財ナントカの偉いお方が来られてまして、是非、お譲り願いたいと…」
「懇願(こんがん)された、と、こういうことですかっ!?」
「ええ、そうなんですっ! どうしましょう?」
「どうしましょうと言われましてもねぇ~。こうしましょうと、私の口からは申(もう)せません。お客さんのお気持次第ですから…」
「いや、ですから、アドバイスかなにか、お聞きしたいと思いましてっ!」
「さよですか~。そういや、そんなことが以前ありましたね、確か…。随分、前の話になりますが…」
「そ、その方、どうされましたっ!?」
「いや、後々(あとあと)の話なんですがね。なんでも、まだお考え中だとかなんとか…」
「ええっ!!? 今でも、ですかっ!?」
「はい、今でも…。どうしていいのかよく分からないそうで、先延ばしされているそうです」
「それって、かなり前ですよねっ!?」
「ええ、かなり前です。なんでも、最近は、国から余り来なくなった、とか言ってられましたねっ!」
「いいこと聞きましたっ! 私もそうすることにします。どうもっ!」
いつやらの客は、喜色満面(きしょくまんめん)にスゥ~っと風のように消え去った。
「なんだよ、朝っぱらからっ! ああ! 時間をムダに、しちまった!!」
店主は少し怒れたのか、パタパタパタッ…! と少し粗(あら)めに、ふたたび叩き始めた。
骨董はよく分からない価値を秘め、人を一喜一憂(いっきいちゆう)させるようである。^^
※ 寒山とは、私が創作したあの超有名絵師、猿翁寒山(えんおうかんざん)です。^^
完