水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (67)やりきる

2020年09月28日 00時00分00秒 | #小説

 物事は、やりきることが肝心らしい。^^ 途中で止(や)め、「ちょっと、休憩!」などと呑気(のんき)に合いの手を入れている間に、なにくそっ!! と頑張り続ける方が先にゴールする・・などという話は、[ウサギとカメ]の童話で皆さん、よくご存じのはずだ。^^ よくは分からないが、どうもその休憩中に魔が暗躍(あんやく)するようなのである。^^ 皆さん、ご油断なされぬがよろしかろう![ここは古典の時代劇風表現 ^^]。
 とある映画がロケ地で撮られている。監督は雨模様を気にしながら空を見上げ、撮影中だ。
「監督、どうも降るようです…」
 セカンドの助監[助監督]が腫(は)れ物に触(さわ)るかのように遠慮(えんりょ)しながら監督の顔を見る。というのも、この監督の怒(おこ)り性(しょう)は業界屈指(ぎょうかいくっし)で、食事タイムと眠っている間以外は、ほぼ怒っているのでは・・と揶揄(やゆ)されるほどの怒り監督だった。^^
「くそっ!! 降りやがるのかっ! 俺が撮影してんだぞっ!! おいっ! 聞こえてんのかっ!!!」
 監督は全天を覆(おお)う薄墨色(うすずみいろ)の空を見上げながら、ひと声、吠(ほ)えた。
「ど、どうされますっ!? 一端(いったん)、止めますかっ?」
「馬鹿野郎っ!! やりきるんだよっ! 雨が降ろうと槍が降ろうとっ!! や・り・き・るぅ~~~!!!」
 助監は、上手(うま)いっ! と監督のダジャレ風の返しに一瞬、思ったが、とてもそんなことは言える訳もなく、思うに留(とど)めた。サード[三番目の助監督]に取って変えられる恐れがあったからである。
「は、はいっ! や、やりきりますっ!!」
 助監は撤収(てっしゅう)した方がよろしいのでは…と言おうとしたが、それも言えず、素直に従った。そのとき、全天を劈(つんざ)くような稲妻(いなずま)が走ったかと思うと、ザザァ~~!!! と雨粒(あまつぶ)がきた。助監は、そら見たことかっ! …と一瞬、思ったが、一瞬思わない方が身のためか…と思い返し、監督の顔色(かおいろ)を、もう一度、窺(うかが)った。
「よしっ! 始めるぞっ!!」
「はいっ!!」  かくして撮影は、スタッフ、キャストともズブ濡れになって続けられることになった。
 後日、この作品が世界のアカデミー賞に輝いたというのだから、世の中はどうなるか分からない。
 よく分からないが、やりきらないより、やりきる方が結果はいいようだ。^^ 
  
                               


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