正直(しょうじき)という言葉がある。耳にしただけで、よくは分からないが、なんとなくいい気分にさせる言葉の一つだ。ただ、不正直な人が聞けば、身を隠したくなる言葉でもある。^^ 正直の頭(こうべ)に神(かみ)宿(やど)る・・などというから、そのように生きていると、正直者が馬鹿を見る・・ということになり、ガックリと肩を項垂(うなだ)れる。そういう人が増えつつある昨今(さっこん)の世相(せそう)は、実に嘆(なげ)かわしい。実は私もその中の一人である。笑っていただきたい。^^
とある家庭である。
「だから言ったろっ! 接待ゴルフのニ次会で使ったんだって!」
「ほんとかしらっ!? 減ってる額が少し多いんじゃないっ!」
妻は夫の財布の中身を確認しながら、その日の小使いの紙幣を加えた。
「嘘(うそ)じゃないって! 俺が馬鹿正直なのはお前が一番よく知ってるだろっ!」
「そりゃまあ、そうだけど…」
そこへ小学一年の長男が、さりげなく子供部屋から顔を出した。
「ママ! ご飯、まだっ!」
「もう少し待ってねっ! ハンバーグ、もう焼けるからっ!」
「じゃあ、呼んでねっ!」
長男は、ふたたび子供部屋へと姿を消した。
「そうそう! 馬鹿正直って点では、あなた、あの子に負けてるわよっ!」
「ははは…かもなっ! やつには勝てんっ!」
夫は素直に順位を子供に譲(ゆず)った。
よくは分からないが、正直という点では、邪気(じゃき)のない子供に大人は勝てないようだ。^^
完