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内向きになるアメリカ

2021年01月23日 | 政治・経済
今日は日下公人著書「『日本大出動』トランプなんか怖くない」から転載します。

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第二次世界大戦後の世界で、経済的にも軍事的にも大きな役割を果たしてきたアメリカですが、今やそのアメリカが自ら世界のリーダーの座から降りようとしています。

オバマ元大統領は2013年9月10日のテレビ演説で「アメリカは、世界の警察官ではない」と口にして、次のような言葉を続けました。
「私は、武力行使の必要性に対して抵抗した。なぜなら、イラクとアフガニスタンの二つの戦争の末、これらの国の内戦を解決することはできなかったからだ」

なぜオバマ大統領はそんな自信のないことを言い始めたのでしょうか。
原因のひとつは、2008年に起きたリーマン・ショック以降続いているアメリカ経済の低迷にあると言っていいでしょう。

もちろんアメリカの経済力は今でも世界一です。
2015年の名目GDPは17兆9470億ドル(約2171兆5870億円)にも上ります。第2位の中国の10兆9828億ドル(約1328兆9188億円)、第3位の日本の4兆1232億ドル(498兆9072億円)を遥かに凌駕(りょうが)しています。つまり、世界のGDPの2割強を占めているのです。

しかし、そこにかつてのような勢いはありません。
約60年前の1955年、アメリカのGDPは世界の36.3%を占め、圧倒的な強さを誇っていました。まだソ連は存在しており、東西冷戦は続いていましたが、アメリカは世界の中で圧倒的なトップの座に君臨していました。

ところが、世界のほぼ4割を占めていたGNPが、その半分の2割強まで下がってしまったのです。GDPとGNPは若干違いますが、いずれにせよ、圧倒的だった優位性が大きく揺らいでいることを意味します。

そのアメリカを最初に追い上げたのは日本でした。1955年段階で日本のGNPはアメリカの8%に過ぎませんでしたが、1980年代初めにはアメリカのGNPのおよそ半分の規模まで成長します。

さらにそれに続いたのが中国です。中国はここ10年あまりのうちにアメリカの4倍近い経済成長率でアメリカに肉薄してきたのです。

アメリカが自国の経済力が低下してきたと感じるのも、まあ、当然のことと言えるでしょう。そしてアメリカ国内でも「中国のほうがアメリカより経済的に強い」と考える人が増えているのが現状です。

また、長引く「テロとの戦い」もアメリカ国民に大きな影響を与えています。
2001年アメリカ同時多発テロ以降、アメリカはアフガニスタン、イラクへと侵攻しましたが事態は泥沼化し、さらには国際テロ集団IS(イスラム国)を生むことになってしまいました。

この対テロ戦争の犠牲者はすでに世界で200万人を超えたと言われていますが、アメリカ軍関係者に限っても、イラク戦争だけで4500人を超える死者を出しています。

世界と祖国のために戦おうと戦場に出ていった若者たちが死体袋に入れられて帰ってくるのです。それを目の当たりにした人々の間には厭戦(えんせん)ムードが高まり、「アメリカはもう世界のできごとにかかわるべきではない」という空気が広がりました。

さらに、前述したアメリカ国内では貧富の差の拡大も大きな問題となっています。
リーマン・ショック後の2009年から2010年にかけて、アメリカの家計を平均した実質所得は2%しか伸びなかったのに、所得上位の1%の人の実質所得は12%も増加、この1%の勝ち組が手に入れた所得は、全体の93%にも達したというのです。

その一方で、家賃や物価が上昇するので、アメリカの子どもの5人に1人は、貧困線(1人当たり、1日1ドル25セント)以下の生活を送り、老人も5人に1人が貧困線以下の生活を送っていると言われています。

また、アメリカの若者の多くは奨学金で大学に進学して、卒業後にそれを返していくというのが当たり前でした。日本のように親がかりで大学や大学院に進むのはよほどの富裕層だけです。

ところが、その奨学金ローンの金利が急激に上がっています。そのため、大学を卒業したとたんにたいへんな借金を抱えることとなり、生活もままならないという若者が増えています。とても将来に希望を持って生きることなどできなくなっているのです。

そこで危機を感じた金融資本は、数年前、奨学金の返済は月給から優先的に徴収できるという法律をつくりました。

で、“学校は出たけれど、就職はしたけれど、給料はもらっているけれど、手もとには何も残らない・・・・・アーコリャコリャ”という歌をつくったら、さぞ流行するのではないかと思います。

日本では、安倍前首相が財界のトップを回って、「給料を上げろ」と言ってくれました。なんともありがたい国です。

それに対して労働組合はストライキ用積立金をたくさん徴収したのが貯まっているのになんにもしません。いっそ、自民党に献金したらと思っています。

そんな中、2015年のアメリカの軍事費は5960億ドルに上ります(出展:ストックホルム国際平和研究所)。2015年のドル/円為替レート(年次)は121円でしたから、約72兆1160億円です。それだけの軍事費を負担するのがつらくなっているのです。

そんな状態ですから、アメリカ国民はどんどん内向きになっています。
「そんな状態で世界どころじゃないだろう。他国の戦争どころじゃないだろう。それより国民を大切にしろ」というわけです。

そんな内向きのアメリカに日本が対抗する手段があります。
アメリカは各州が国家ですから、州単位でいろいろなことができます。日本もそのアメリカの各州に対していろいろなことができます。

たとえば、親日州にだけ日本企業の工場建設を許可すればどうでしょうか。
そうすれば、アメリカ大統領選挙が変わると思います。今回の選挙には間に合いませんが、「日本はアメリカの地方創生に協力する」と言えばいいでしょう。次の選挙では、アメリカの日本に対する姿勢がずいぶん変わるでしょう。

---owari---
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