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オバマ大統領の広島訪問に当初は慎重だった米政府

2018年11月01日 | 政治・経済

日下公人著書「新しい日本人が日本と世界を変える」より転載します。 


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伊勢志摩サミットを終えた平成28527日夕、オバマ大統領は、安倍首相とともに広島市の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花した。

 

原爆を投下した米国の現職大統領が被爆地である広島、長崎を訪問したのは初めてのことで、オバマ大統領は慰霊碑前での演説で「悲惨な戦争で罪のない人々が殺された。私たちは歴史を直視する責任を共有している」と述べ、第二次世界大戦のすべての犠牲者に哀悼の意を表した。

 

米国の大統領がこれまで、広島と長崎に原爆を投下した事実を日本人に向けて謝罪したことは一度もない。今回のオバマ大統領の演説も、「10万人を超える日本の国民、何千人もの朝鮮半島出身者、12人の米国人捕虜など亡くなった人々を悼(いた)む」と、原爆による犠牲者全員を追悼する旨を語ったが、当時のトルーマン大統領が決定した原爆投下の判断の是非には触れず、「広島、長崎で残酷な終結を迎えたあの世界大戦は、世界で最も豊かで最も力を持つ国同士の戦いだった」と述べるにとどめた。

 

演説冒頭は、「71年前の明るく晴れわたった朝、空から死が降ってきて世界は一変した。閃光と炎の壁によって町が破壊され、人類が自らを破滅させる手段を手にしたことがはっきりと示された」というもので、「空から死が降って」とか「閃光と炎の壁によって」といった言い回しで原爆投下を表現し、「米国が投下した」とは明言しなかった。

 

そのうえで日米関係に関し、「あの運命の日以降、私たちは希望に向う選択をしてきた。日米両国は同盟を結んだだけでなく友情も育み、戦争を通じて得るものよりはるかに大きなものを国民のために勝ち取った」と語り、日米は未来志向の関係を築いたと強調した。

 

さらに、「破壊を生み出す核兵器の保有を減らし、この死の道具が過激な人たちに渡らないようにしなければならない」と述べ、核兵器の拡散防止の取り組みが必要であると訴えた。

 

オバマ大統領の演説を受け、安倍首相はこう語った。

 

<米国の大統領が、原爆の実相にふれ、「核兵器のない世界」への決意を新たにする。「核なき世界」を信じてやまない世界中の人々に、大きな「希望」を与えてくれました。(略)「核兵器のない世界」を必ず実現する。その道のりが、いかに長く、いかに困難なものであろうとも、絶え間なく、努力を積み重ねていくことが、今を生きる私たちの責任であります。(略)日本と米国が、力を合わせて、世界の人々に「希望を生み出す灯」となる。この地に立ち、オバマ大統領と共に、改めて、固く決意しています>

 

この安倍首相の発言には、いくつもの意味が込められている。それはあとで述べるが、オバマ大統領が一線を超えなかったように、米国はこれまで一貫して原爆投下は戦争を早期に終結させるために必要だった、原爆投下によって多くの米兵の犠牲を防ぐことができた、とその正当性を主張してきた。国内の学校教育でもそう教えてきたので、米国民の多くは、原爆投下はやむを得なかった、謝罪をする必要はないと思っている。

 

それだけに、米政府は、オバマ大統領の広島訪問には慎重だった。

ライス米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、515日放送のCNNテレビのインタビューで、オバマ大統領の広島訪問について「興味深いことに、日本側は原爆投下の再評価や謝罪を求めてこなかったし、私たちはいかなる状況でも謝罪しない」と述べ、オバマ大統領の被爆地訪問は「正しい決断だ」としたうえで、第二次世界大戦の全犠牲者への追悼とオバマ大統領が掲げる「核なき世界」への取り組みを訴えるのが目的だと述べたのは、彼らの本音であると同時に、謝罪を求めない日本側の姿勢に意外感と好感の両方を持ったのだと想像する。

 

---owari---

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