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繁栄の国づくりを目指す②

2019年07月31日 | 政治・経済
(覇権国家から滑り落ちた「英国病」とは何だったのか)
「英国病」とは、かつて繁栄を誇った英国が、1960年以降、手厚い福祉政策と基幹産業の国有化などの社会主義的政策により、経済は停滞し、国民の勤労意欲が失われ、ついには「ヨーロッパの病人」と言われるまでに衰退した現象です。

その始まりは、「教育改革」だったと指摘されています。終戦間近の1944年、チャーチルが戦争遂行に集中せざるを得ない間、連立を組んでいた労働党が「教育法」を改正したのです。その内容は、進歩主義的な子供中心教育と、自虐的な歴史教育でした。

英国は自国の子供たちに「七つの海を支配した覇権国家の栄光」ではなく、「世界中で植民地をつくり、奴隷を酷使した残忍な侵略国家だったこと」を教えました。こうした教育で育った子供たちは、読み書きが満足にできず、彼らが大人になった1970年頃、「英国病」が深刻化する大きな要因ともなったのです。

1945年に第二次世界大戦が終わると、英国民は翌年の総選挙で、アトリー率いる労働党政権を選びました。国民的人気の高かったチャーチルの保守党が下野したのはなぜでしょうか。それは、戦時中の1942年にベヴァリッジ卿が発表した福祉国家のプランが国民の心を掴んだからでした。

この政府案のパンフレットが書店で売られると、1ヵ月で10万部の大ベストセラーとなり、ベヴァリッジは講演会やラジオで、戦争に勝利した暁には誰もが幸せになれる社会が計画されている、と国民に訴えたのです。

労働党は政権につくと、この「ベヴァリッジ報告」をもとに、次々と社会主義的政策を実現していきます。児童手当を給付する「家族手当法」、疾病、失業、寡婦、孤児、妊婦、死亡に至るまで給付金を与える「国民保険法」、困窮者への「国民扶助法」、中でも医療費を無料化する「国民保健サービス法(NHS=ナショナルヘルスサービス)に、国民は大喜びでした。世界初の「ゆりかごから墓場まで」の福祉国家が確立されたのです。また、労働党は、党綱領に基づいて、基幹産業を次々に「国有化」しました。

1651年、保守党に政権が戻りましたが、国民の予想に反して、福祉国家体制は維持されました。一度導入した国民保健サービスを覆せば、国民の反発が予想されたからなのですが、「チャーチル政権下で解体を免れた結果、英国人は無償の医療は恩恵ではなく当然の権利だと考えるようになった」と言われます。

戦争で疲弊した国を立て直す市場経済と計画経済の「混合経済体制」はうまくいくように見えましたが、1961年、事態は一変します。重い社会福祉と国営化の費用を支え切れなくなり、深刻な貿易赤字と財政赤字が露呈したのです。国営企業は、赤字になっても税金からその損失分が補填されます。ロンドンは古くさい工場ばかりとなり、品質の劣化で輸出は減り、国際競争力を失っていきました。

富を使い果たすと、今度は増税です。所得税(83%)と不労所得への課税(15%)を合わせた最高税率が98%という異常な累進課税で、人材は海外に流出しました。ちなみにビートルズのアルバム「リボルバー」(1966年)に、ジョージ・ハリスンがジョン・レノンの協力でつくった曲「タックスマン」が収録されています。95%の累進課税を嘆き、5%しか取り分がなくても全部取られないだけ感謝すべきだという、無茶苦茶な税制を皮肉った歌詞で知られています。

1973年のオイルショックは、英国経済に止めを刺しました。不況とインフレが同時に進行するスタグフレーションに陥ります。1976年、労働党のキャラハン首相は「もはや快適な時代は過ぎ去った。私たちは生産する以上に消費してきた。基本に返らなければならない」と訴えましたが、時すでに遅し。世界で最も豊かだった英国は、財政破綻し、国際通貨基金(IMF)から融資を受けるまでに落ちぶれたのです。

それでも労働組合は、賃上げを求めてストライキを続けました。街はごみの山となり、墓掘人は棺を放棄し、食料や灯油などの生活必需品は市民に届かず、人々は寒い夜を震えて過ごすようになりました。英国民は、市民生活を人質に政府を追い詰めようとする労働組合を憎み、労働党から民心が離れていきました。

1979年、総選挙で保守党が勝利し、サッチャーが登場します。「鉄の女」はベヴァリッジ・プランとその理論的裏づけをしたケインズを批判した。ハイエクの思想を武器に、英国の再生に取り組んだのです。

---owari---
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