(「富の集中」が国富を増やす)
税率が高くなりすぎると、財閥(ざいばつ)などの豊かな家系は、おそらくなくなるでしょうから、結果として、多くの人を雇(やと)って事業を起こすような人の進出を妨(さまた)げる効果もないわけではありません。
資本主義において、やはり「富の集中」が非常に大事であって、「富が集中しないと大きな事業ができない」ということは、ここ百年余りの歴史になかで、当然、起きていることです。
要するに、富の使い方をよく知っている人のところに富を集めたほうが、この世の経済原理はうまく働くことが、経験則上、分かっているわけです。「財閥は悪だ」という見方もあるかもしれませんが、「財閥をつくれるような人のところに富が集まることによって、大きな会社ができ、大勢の人を雇えるようになる。そして、大きな仕事ができるようになり、国富が増えていく」という考えもあるので、このへんの兼ね合いは、実に難しいところでしょう。
戦後、アメリカの占領軍が日本の財閥解体を進めたのを見れば、「財閥のあることが国を強くする」ということを、彼らはよく知っていたのだろうと思います。財閥を解体して中小企業に分けていけば、国力が落ちることを十分に知っていたと思われるので、このへんには微妙な兼ね合いがあるのです。
財閥に関して言えば、今の芙蓉(ふよう)グループの前身である安田財閥の創始者で、東大の安田講堂を寄付した安田善次郎(ぜんじろう)という人がいます。彼は、実際には、ほかにもいろいろと寄付をしていたようなのですが、「実名で行うと品位を穢(けが)す」と考えて匿名(とくめい)で行っていたため、世間からは“銭(ぜに)の虫”“銭儲(ぜにもう)けの虫”と思われ、最期は暗殺されてしまいました。
現在は、「安田講堂」などが遺(のこ)ってはいるものの、名前を出さずに寄付を行っていたという善行(ぜんこう)が仇(あだ)となり、恨(うら)みを買って殺されるようなこともあったわけですから、このへんの兼ね合いは重要でしょう。
世の中に貧しい失業者がたくさん出てくると、富んでいる者が恨まれることもあるため、このへんの調整機能役としての政府がどうあるべきかは、本当に難しい問題だと思います。
この調整の仕方を間違えると、医者が診断を誤った場合と同じように、国力が急速に落ちていくことになるわけです。
---owari---
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