TDA(景観デザイン支援機構)のまち歩きイベントでさいたま新都心駅へ向かいます。集合は午後なので、少し早く来て東武線大宮公園(さいたま市、大宮)を目指しました。ホームの幅が大変細いですね。危ないけど、2編成の電車が隣り合うのは面白い。
盆栽村に来るのは本当に久しぶりです。まだ槇事務所にいたころ、面白い歩行者空間の調査ということで、T自動車やS大の先生たちと見学したことを思い出します。沿道の盆栽農家は少なくなっていましたが、立派なお屋敷町になっていました。
公共施設も整備されています。立派な式台玄関のある屋敷です。
ケヤキの小屋組みでしょうか。
ということで、足は埼玉県立「歴史と民族の博物館」に向かいます。前川圀男先生です。打ち込みタイルの外壁と、中庭型建築の完成形といってよいと思います。このタイプのマスターピースだと思います。
受付もいいですね。打ち込みレンガタイルでどっしりとした印象はありますが、面材(プレート)を組み合わせた、構成主義的な作りで、決して鈍重な雰囲気はありません。
中に入っても、外のランドスケープとの一体感があります。
天井(屋根スラブ)も舟底型で、軽快です。照明もオリジナルでしょう。
中庭型の平面構成が効いています。
今回は、一つの階段が気になりました。打ち込みレンガタイルの面から、階段幅分だけ手前に、三角と長方形で白い壁を持ち出しています。
近づいてみます。打ち込みタイルの重い壁と対比的に、白い明快な形の造形が浮き上がります。実に幾何学的造形です。コルビュジェです。クレーの絵を思い出します。
手すり笠木のフラットバーと三角形の補強材が絶妙にバランスしています。実に巧みなデザインです。打ち込みタイル時代の前川建築には、幾何学的な軽快さや、軽やかなデザインはあまり期待できないのかと思っていましたが、私(だけ?)の誤解だったようです。
まち歩きの集合時間のこともあったので、展示は見ませんでしたが、外にはこんな懐かしいものが・・・。
もう一つ。これも展示でしょうか?
前川建築のすばらしさを堪能して、ふと思い出しました。先月の18日、世田谷区役所1期工事の関係者内覧会がありました。私は、建て替えを検討する委員会に参加したので、案内状をいただきました。残念なことに、前川建築の初期の傑作は壊される途上にあります。
下の写真は壊される前です。やはり市民に開かれた中庭ですね、前川先生がこだわったのは。
上写真のピロティ前には、下のような水の遊びがありました。
反対側から見た広場。
尾根と谷筋の織りなす大地にできた世田谷を彷彿させる、こんな庭もありました。庭を見ながら食事をしたものです。
中はどうでしたか。ホールのホワイエです。
こちらは今の姿です。オフィスビルですね・・・しようがないと言えばしようがない・・・。
まだ前川建築の作っていたまちなみの一部は残っています。
見学会では上にも上らせてもらいました。中庭は高層ビルに囲まれてしまいます。
一部、懐かしい煙突はまだ壊されていません。
エントランスホールです。昔のエントランスにあった、レリーフを少し小さくして再現したそうです。
どうでしょうか。
執務スペース。
議会。
ホール。壁の形状は元のデザインを踏襲したそうです。
コミュニティスペースの導入空間。
水遊び場があったあたりを見下ろします。
前川圀男さんのどこか泥臭いしかし熱情のこもる造形といった趣はなく、スマートなオフィスを作ってくれたということでしょう。これが機能的?な解決案ということでしょうか。
大宮の、埼玉県立、歴史と民族の博物館はこれからも大事に使われていくのだと思います。一方その一つ前の時代の前川建築である世田谷区庁舎は壊されてしまいました。どうすればいいのでしょうか。
世田谷区庁舎の建て替えを検討する委員会で議論をしていた時に、その委員会宛てに弘前市民のかたから手紙をいただきました。弘前市には前川圀男さんの建築が多く残っています。市庁舎や市民ホールをはじめ今も手を加えながら使われています。世田谷区もそうできるように励ましてくれる内容だったと記憶します。
下の写真は弘前市役所ですが、壁にクラックなどはありますが、丁寧に補修しながら使っていました。市役所職員の方に、建て替えてしまうという意見はないんですかと聞きましたが「えっ、修復しながら使えばいいじゃないですか」と普通に言われたのが印象的でした。
高谷時彦
建築・都市デザイン
Tokihiko TAKATANI
architecture/urban design
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