いまだ郊外化が進む中で人口減少の時代を迎える地方都市の中心部の姿をどのように思い浮かべればよいのか。空き地が増える今こそ緑と宅地の共存する庭園都市的な中心市街地像、都市生活像を描こうという議論は多い。この場合、宅地として使われない部分は計画者に都合のよい「緑地」という範疇で整理される。
しかし、私たち(とくに建築・都市計画の側から都市を考える人間)はこの「緑地」をもう少し、実態的に考えてみる必要がある。編著者の大野秀敏先生が送ってくれた『シュリンキング・ニッポン』1)という本の中に2つの面白い論考がある。
一つは石川初氏の「郊外の原風景」。縮小都市において私たちは都合よく「緑地」をイメージする。すなわちそこには自立した生態系があり、放っておけば私たちが散歩したり眺めたりするのに好ましい「動的平衡状態」にある「緑地」ができると思ってしまう。
しかしそのような「緑地」を作るのには多くの時間と周到な維持管理が必要になる。一般的には500円/㎡の費用がかかるという。
都市が縮小した後を緑地にしようという議論はよく聞くが、実際に緑地の側から考えてみると話しはそう簡単ではなさそうである。石川氏は「公園」的な緑地ではなく、ガーデンとして個別に管理される共有地の姿を示唆する。また縮小の時代にあっては都市デザインの対象がプロセスと時間になり、これはまさにガーデニングのスキルであることを指摘している。
もう一つはランドスケープアーキテクト三谷氏の「『庭』からの発想:緑の量から質へ」。
著者は近代都市計画が大規模で量としての「緑地」に注目するのに対し、個人という一人称に対応する「庭」のあり方に新しい可能性を見ている。「庭」の概念は近代においては私的な領域に閉じ込められているが、ルネサンス、バロックの庭園も都市との不可分の関係のもとにつくられていたことを指摘する。また、町家の坪庭など小さな庭も、建築形式と結びついた都市の構成要素として都市形成の文法となっていたことを思い出さねばならないという。
個人のレベルでの身近な自然環境との付き合い方、すなわち文化的な態度(著者の言葉で「庭の発想を持つ都市文化」)が成熟していることが将来多く生まれる「緑地」が生きたものになるかどうかを決めるという。
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これからの地方小都市の中心部では必然的にアキのスペースが多く生まれる。
コンパクトシティというが郊外に散逸した人口を再び中心に今より密度を上げたかたちで呼び込むことは難しいだろう。ヨーロッパ型のコンパクト(密実で実質のある)な市街地は地方小都市では難しい。ヨーロッパ都市と違い中心に高密度に人が集まっていたのは、人口が急激に増えた近代のことである。地方都市の多くが城下町の歴史を持っているが、江戸時代の町人地にしても街道町型の人口密集はあったものの、城下のほとんどは寺社地や武家地であり、低密度市街地であったことと思われる。
また近代になり、武家地の宅地化が進むが住居形式としてはところどころに近年開発された高層マンションはあるもののその周りは戸建て住宅地というのが現状であろう。この点でも集合住宅を前提とするヨーロッパ大陸型のコンパクトシティは少なくともフィジカルな都市像としては参考にならない。むしろ拡散しながらも車で移動するのには大変便利なアメリカ型のまちのようになる過渡期にあるようにも思われる。
ちょっと他人事のように描いてしまった。然し、当面のまちの姿ははっきりしている。若者が去り、老人が残されたまちの中に空家、空き地が増えていく。その空家、空き地をどのように利用再編し、残りの宅地スペースと良好な関係を作り出していくのか。庭/建築、庭/戸建て住宅の隙間、庭/緑地の関係、そして建築から庭、外部空間、都市空間とつながる空間構成を、その維持管理のシステムと共に考え、人々が共有できるイメージを提示することが建築・都市に関わるものに問われている。
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以上にあげた他にも『シュリンキング・ニッポン』のなかには公園や水際の利用の意味など、多くを考えさせられる論考が多い。私たちの研究室(東北公益文科大学大学院)の院生が取り組んでいる内川発見プロジェクト2)なども、縮小都市の「利用」の提案として長期的な展望の中で位置づけることもできよう。
1)大野秀敏編著 『シュリンキング・ニッポン 縮小する都市の未来戦略』鹿島出版会2008
2)鶴岡市の中心部を流れる内川を人々が中心部での生活を楽しむ場として再生していこうというイベントとその効果についての研究。川および河畔の外部空間を中心にした内川再発見プロジェクトⅠに引き続き、川沿いにある歴史的建築(かつての芝居小屋建築の可能性もあるある)を市民と共に利用する内川再発見プロジェクトⅡを2008年に実施。
高谷時彦記 Tokihiko Takatani
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