何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

葡萄が泣いている

2018-09-27 23:49:49 | ニュース
あのニュースを見て、押し入れをゴソゴソあさり、懐かしいのか腹立たしいのか分からないブツを引っ張り出してきた。

この鞄が あちこち埃だらけなのは、もう何年も押し入れの奥に放置されたままになっていたからだが、これを手にするために、葡萄のマークが目印の本を買い集めていた時期がある。

葡萄のマークの文庫本
子どもの頃の私にとって、それは大人の本の象徴だった。
母の本棚に並ぶヘルマン・ヘッセやアンドレ・ジードや石川啄木は、小学校の図書館にもあったが、葡萄のマークの文庫本は、何かが違っていた。
あの、微妙にくすんだ色の紙に程よい形と大きさの文字が並んでいる事や、又その紙質が薄いのに適度にコシがあるためページを繰る感じが何とはなしに良い事や、紙の上が切りそろえられていない事や、栞の紐がついている事など、全てが子供の目にはオシャレに映り、葡萄の文庫本は大人の世界だと思い込んでいた。
そんな葡萄のマークの文庫本を初めて読んだのは、友達が貸してくれた「オリエント急行殺人事件」(アガサ・クリスティ)だった。
あれ以来、数えきれないほどの葡萄マークの文庫本を読んできた。
だから、文庫本のカバーについている葡萄マークを50個ほど集めて応募すると、↑のトートバッグが漏れなくもらえるというキャンペーンが始まったときには、一も二も無く飛びついた。
50冊読むくらいのことは何でもないが、一定期間に50冊買うことは、なかなかに大変でだったので、かなり思い入れのある鞄だったのだが、ある時点からこの鞄を(捨てることはできなかったが)押し入れに奥に追いやってしまった。

その理由は、葡萄マークの出版社が出している雑誌に、今世間を騒がせている論調の萌芽とも云える論考が、掲載されたことが我慢ならなかったからだ。
そう、あの「生産性がない」とかいう、生産性のない文章を掲載したせいで、生産性のない雑誌が事実上の廃刊に追い込まれた、あの雑誌だ。

2013年、山折哲雄氏は『新潮45』3月号に『皇太子殿下、ご退位なさいませ』という論考を寄稿した。

一読すると、心を病む人に不寛容になってしまった国民性を嘆いているようにも読める体をとりつつ、結局は、病む人とその家族に心を寄せるのではなく、病む人を守ろうとする人を 社会から抹殺する動きにエセ宗教的根拠を与えようとした点で悪質度が高いものであったし、この人物が、それにより利益を得る辺りと諸々に連携している節があったことからキナ臭さすら感じさせるものでもあった。

さすがに このショッキングな見出しには世論の反発も強かったが、これに対して出版社や著者・関係者から正式なコメントが出されたことはない。

東宮に男児が誕生する可能性が低いことが明白になって以来、大っぴらに繰り広げられてきたバッシング。

男児を産めなかったことで心が病むまで苦しまれ、病んで尚バッシングに遭い続けてこられた雅子妃殿下。
生まれるなり母の枕辺で「次は男児を」という声を聞かされた女児は、たった4歳で、従弟誕生の露払いとばかりに男児誕生の直前(葡萄マークの)雑誌に「笑わない愛子様」と大見出しでバッシングされて以来、様々な罵詈雑言でバッシングされ続けてこられた。

あの、見ているだけでも心折れるような命をも脅かすような大バッシングの根底にある、「女児では意味がない」「女児しか産まぬ女は役立たず」「女児しかなさない東宮は取り潰せ」という思想を、長年葡萄マークの文芸部(ー今回は文芸部が内部から抵抗運動をしたというがー)も、言論界も、人権派をきどる界隈も放置しておきながら、何を今更「生産性がない」という言葉ひとつで狼狽えているのか。
それは自分達が、2001年に始まり、2006年あたりから明確な思惑をもって誘導しようとした、一つの思想ではないか。

そんな腹立ちから、あれほど憧れていた葡萄マークの文庫本を、自分では買わなくなった。
読みたいものがある時は、たとえ数十人の待機者がいても、図書館で借りて読むことにしている、新潮社の本。

にもかかわらず、フランスから皇太子様の素敵なエピソードを届けてくれた辻仁成氏の本で、我が家にあるのは、新潮社の文庫本「海峡の光」
にもかかわらず、近々 野球小僧たちにプレゼントしたい「球道恋々」(木内昇)は、新潮社の単行本。

良い本は、素直に読みたいのだ。
良い本は、どうしても大切な人に贈りたいのだ。

にもかかわらず、それを生み出す人々が、人権蹂躙にダンマリを決め込むどころが煽っているのが、悔しいし、哀しい。

ここ数年 出版社や書店などが、「図書館に新刊や文庫本を置くことの弊害」を訴えているが、言論界に属する者として、正しい道を歩んでいるのか自ら問い直す時期ではないだろうか。



記録
<「新潮45」が休刊 「事態招き、おわび」と新潮社>  産経新聞 2018.9.25 17:43配信より一部引用
性的少数者(LGBT)への表現が差別的だとして批判を受けている月刊誌「新潮45」の特集を巡り、同誌を出版する新潮社は25日、同誌を休刊すると発表した。同社は「部数低迷に直面し、試行錯誤の過程で編集上の無理が生じた。企画の厳密な吟味や十分な原稿チェックがおろそかになっていた」と謝罪。

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