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ある年の11月のある日、ウエーブビギナーのオレたちはパークに出かけた。
西風の予報だったんだ。
大き目のセイルをセットして始めは優雅に遊んでいた。
徐々に雲行きが怪しくなり、突然西の強風がオレたちを襲った。
波のサイズは上がり、パークウエーブという表現がピッタリなほど吹き上がった。
インサイドで巻かれて、沖で撃沈して、徐々に恐怖感も募ってきた。
沖でボードにしがみつきながらオイラは腕時計を見た。4時だ。
もう上がらなくちゃいけない。
何故って、その日はポールマッカートニーのコンサートなのだ。
ウオータースタートしてはぶっ飛ばされ、ストラップインしたかと思えばぶっ飛ばされ、
なんとかリストラポイントにたどりついて、そこから道具を走って引きずり上げて撤収をした。
怖さとか、無念とか、全然無かった。気持ちは東京ドームへ行ってたのだ。
どっちかというとその日はウインドしなくてもよかったんだよな。
。。。。
Hey JudeはBeatlesの曲で知らない人はいない。
そこらへんの高校生だってみんな知ってるだろう。
実はオイラはこの曲が世界で一番好きなんだ。
誰がなんと言おうとだ。
例えば北朝鮮が核爆弾を相模湾にぶっ放した瞬間も
100000分の1秒はこの曲が脳裏をよぎるくらいだ。
御前崎で仮に1時間漂流して命からがら助かって車に戻ったらこの曲を聴くだろう。
大好きな彼女とこの曲を聴くし、別れてズタボロになっても聴くな。
だから普段はあまり聴かない。
普段聴くにはオイラ的にはヘヴィーなのだ。
40年前にリリースされて、オイラは中学1年に初めて聴いてぶっ飛んだ。
その後、それなりのポイントでこの曲は精彩を放っている。
高校に合格したときや、大学に落ちたとき。
女の子と初めてつき合ったとき、親父が死んだとき、
娘が生まれたとき、離婚したとき、大きな波に乗れたとき、
3.7㎡の風で乗り倒したとき、彼女がいなくなったとき。
その日、実は初めてオレたちがまともに大西を食らった記念すべき日なのだ。
結構疲れた身体で東京ドームへ行き、コンサートを涙ながらにたっぷり楽しんだ。
ラストソングで、ポールが『HEY Jude,,,,』と歌いだした。
あの鳥肌は今まで経験したことがない。
音楽を聴いて、過去のことが走馬灯のようにグルグル回るんだ。
もう目の前が見えなくなった。
しかもこれはただの曲ではない。『本人』がオイラの目の前で歌ってる。
最後の大コーラスが来たよ。
ユーミンが客席で歌ってたな。きっと日本のほとんどのミュージシャンがいたろうな。
身震いがするコーラス。オイラもその中にいる。
ポールと一緒にDADADADAって歌ったんだぜ!
本当に素晴らしい曲だ。
悲しい曲だって、ハッピーになるじゃん そんなにめげるなよ だってさ。
Hey Jude VIDEO