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兵庫県立美術館「伊藤清永」展で感じたこと

2012年01月24日 | 美術館を訪ねて

今月に入って阪神高速道路の神戸線を走るのは3回目です。
今回も朝早く出かけたおかげで、開館前に美術館に着きました。


兵庫県立美術館ウィキメディアより

今回の展覧会は昨年末の12月10日から今月22日まで開かれていた「伊藤清永展」です。
といっても、この画家については、今回見に行って、初めてその存在そのものを知りました。もちろん絵を見るのも初めてでした。
やはりまだまだまだ知らないことのほうが多いですね。

この画家は裸婦が得意だそうで、展示されているのも裸婦がほとんどでした。こちらに展覧会の内容が紹介されています。

展覧会のパンフレットによれば、伊藤清永さんは1911年に兵庫県出石町の禅寺に生まれ、戦前の代表作としては三重県の安乗で題材を得て描いた「磯人」が文部省の美術展覧会鑑査展で選奨に選ばれ、一躍有名になったとのこと。
第二次大戦後は裸婦を主体に創作に励み、文化勲章も受章しているとのことです。

素人の私は、この画家の裸婦を一目見て、直感的にルノワールを連想してしまいました。
明るい色彩に豊満な姿態、輪郭をぼかした描き方にルノワールとの共通性を感じます。
作者の名前を伏せて、「これを描いた画家は誰?」と聞いたら、ほとんどの人はそう答えるのではないでしょうか。

ただ、展示を時系列でみていくうちに、後年の作品では違いが際立ってきて、画家の独自性がよくわかってきました。とくに、少し離れて鑑賞すると画風の変化がよくわかります。輝くような裸婦像が印象的でした。

しかし私たちが一番感銘を受けたのは、晩年の《釈尊伝四部作》でした。

愛知学院大学百周年記念講堂の壁画として描かれた《釈尊伝四部作》は、禅寺に生まれ僧として育てられた伊藤清永が、約7年の歳月をかけて制作した力作です。
縦約4メートル、横約3メートルの大画面に釈迦の生涯を油絵で描いていて、私たちはその場にくぎ付けになりました。

仏教画として寺院などによくおさめられている絵画と違い、生き生きと立体的に釈迦が描かれていて、新鮮な魅力がありました。
他の観客のみなさんも立ち止まって見ほれていましたね。

ゆっくりと展示作品を見てから、併設されていたコレクション展を見て回りました。
本展としては「美術の中の“わたし”」と銘打って、館が所蔵しているコレクションの中から近年制作された画家の自画像をテーマとした油彩画や版画、写真や彫刻などが展示されていました。

あわせて小企画として「安井仲治の位置」という展覧会も開かれていました。
戦中に夭折した写真家・安井仲治(やすい・なかじ 1903-1942)のポートフォリオが近年この美術館館に収蔵されたのを機に、安井仲治と同時代の他作家の作品、旧蔵の資料類を展示し、この稀有な才能を持った写真家を検証するというものでした。

この人の写真には感動しましたね。
ナチスに追われて日本に滞在していたユダヤ人の日常を描いた写真や、当時の日本の世相を鋭く切り取った作品など、現代でも通用する作品ばかりで見ごたえがありました。
予期していなかっただけに満足感もひとしおでした。

ところで兵庫県立美術館の建物ですが、館内は分かりづらかったですね。

まず切符売り場がわからずウロウロしてしまいました。サインが目立たないのでまごついてしまいます。全体に照明も暗くて陰気な感じです。
新しい建物なのに障害者用トイレの設備も最低限で、温水洗浄便座などはありません。
でも入場料や駐車料金は割引後でも他の同種施設に比べてかなり高く、経営はガッチリしていますね。

展示会場へ移動するためのエレベーターも、ドア幅が車椅子ぎりぎりで、中も一台乗るのがやっとという感じで、エレベーターから展示場への通路の幅も狭いので、緊急避難時には混乱しそうです。

館内の配置もなかなか簡単には把握できないのですが、とくに併設展の展示室の配置がまた迷路のようで、作品を見ている間にどちらが入口か良くわからなくなってウロウロ。

レストランは2Fにありますが、直接展示室から行けず、いったん1階のエントランスホールへ降りて、円形テラスの階段またはエレベーターで2階へ行かなければなりません。

この建物、ご存知安藤忠雄氏の設計です。
私も名前は知っていますが、巨匠だそうです。
でもこの人の設計は、障害者にとっては決して優しくないと思います。

一昨年末に閉館したサントリーミュージアムも同じ設計者でした。ここに車椅子で行かれた経験のある人は、よくお分かりだと思いますが、本当に殺意すら覚えました。(笑)
このミュージアム、手狭で混雑した会場を、車椅子を押して展示を見ながら出口まで行っても、エレベーターが入口側だけにしかなく、おまけにほかに通路がないので、別の展示フロアに移動するには、また会場を逆に戻らないといけないのです。

それで、展示に見入っている大勢の人々に「すみません、通してください」と声をかけながら混雑する会場を逆行しなければなりません。
「なんで逆行するの?」という視線を感じながら、車椅子に人が当たらないように注意しつつ通るのはつらいものです。
こういう設計がなんでもてはやされるのか、素人の私たちには理解不能でした。

さて、今回も見終わってちょうどお昼になったので、昼食をと思いましたが、先ほどの2Fのレストランはインターネットではけっこう有名なので(笑)、貧乏な私たちは少し通路を迷いながらなんとか1階のカフェのほうに行きました。
同じ経営ですが、カフェの方はリーズナブルで、満足できました。


ただし、安藤忠雄氏は、こういう用途にスペースを割くのがお嫌いなようで、ここも驚くほど狭いです。

近つ飛鳥博物館も同じ設計者ですが、ここも威圧感は感じるものの、利用者にフレンドリーとは思えなかったですね。カフェも片隅に追いやられていて、機能より「芸術性」優先という感じでした。

設計コンペなどではこれらはチェックされないのでしょうか。
まあ、世界に名だたる巨匠のデザインに注文など恐れ多いということでしょうね。

でも私たちにとっては、安藤忠雄氏の「作品」は、障害者への配慮という点では、いつも展覧会に出かけて私たちのお気に入りのココとは、あらゆる面で対極の存在だと思います。

ともあれ、いろいろあったものの、いい作品に巡り合えて行った価値がありました。
お出かけの選択肢も増えたので、良かったです。

今日も帰りの道も空いていて、一時間程度で快適に戻ることが出来ました。


コメント
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