2月3日、人骨の会(軍医学校跡地から発見された人骨問題を考える会代表常石敬一)のフィールドワーク「始まりの陸軍軍医学校としょうけい館」に参加したとき、FWチームのM・Yさんが「戦地の兵隊さんが軍隊手帖に書く時の筆記用具は何だろうか。筆か万年筆かそれとも鉛筆か?」と聞かれました。
父が戦地から母に送った写真が二枚あります。
一枚は、1937年第二次上海事変に応召し、大阪の宿舎で撮ったものです。
もう一枚は、1941年関特演(関東軍特種演習)に応召し、満州・牡丹江付近で撮ったものです。
二枚とも、写真の裏に万年筆(黒インクに見えるが、ブルーブラックインクが経年劣化して黒色になったかもしれない)で書いた文章があります。
父は30歳(子どもを抱いている)
陸軍第9師団輜重兵第9連隊
父は34歳
関東軍工兵第52連隊架橋材料第24中隊
参考サイト「従軍日記はなぜ鉛筆で書かれないか」
日本筆記具工業会から、株式会社パイロットコーポレーションを紹介してもらいました。
同社1979年発刊の社史『パイロットの航跡 文化を担って60年』から「戦時下の技術開発(昭和13年~17年)のコピーが送られてきましたのでアップします。
文字起こし
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9.戦時下の技術開発(昭和13年-17年)
l.固形インキ
当社は昭和13年9月,固形インキの製造を開始し,軍に大量に納入するようになった。固形インキを開発した直接の動機は,軍から「マイナス40℃でも凍らないインキができないものか」という問合せを受けたことによる。固形インキは凍結しないのみならず,液インキにくらべて容量・重量とも小さく,また破損,漏減の心配もないため,軍の輸送上にはきわめて好都合であった。13年11月には民需用としても販売を開始した。
軍から問合せがあったとき,製作の担当者は「そんなインキは不可能だ」と返答してしまっなが,それを開いた相談役和田正雄が「バカな回答をするやつだ。水では凍るのは当り前,粉にするか固形にしておいて,あとで溶かせばよいのではないか」と助言し,固形インキの研究が始まったというエピソードが残っている。和田の商人としての,またアイデアマンとしての豊かな才を示すものである。
固形インキはその後,物資統制が強まってガラス材料の調達が困難となり,液インキの生産が不可能となるなかで,その代替品として大きな役割を果たした。
2.N式万年筆
昭和13年9月た発売したN式万年筆は,エボナイト,金,鋼,真ちゅう,ゴムなどの原材料が欠乏するなかにあって,ペン地金にドイツ製不鋳鋼を使い,従来の万年筆とはまったくちがった新しい機構と,すぐれた性能を兼ねそなえた画期的な製品であった。
この万年筆の最も大きな特長のひとつは,特殊なインキ瓶に万年筆をつきさし,それを逆さにすると,インキが胴内に吸い込まれる吸入機構にあり,この万年輩は,別名“のみこみ万年筆,,ともいわれた。また,携帯時の空気膨張によるインキのふき出しを防止した点でも特筆される。
N式万年筆は発売と同時にセンセーションを巻き起し,各新聞は“国策にのっとった万年筆”として絶賛した。
3.不銹鋼ペン
万年筆業界は昭和12年12月,大蔵省令で金ペンには12金以下のものを使用するよう命じられた。国の大事の折に,貴重な金を万年筆に使用するのを心苦しく思い,当社は13年7月,“金は一切使用せず”の宣言を発表して,不銹鋼を用いた白ペンの開発に全力を注いだ。常務取締役渡部旭を筆頭とする研究陣の努力により,13年11月に第15合金,14年3月に第27合金が完成,当社はこれらの合金をP合金と名づけた。P合金は,鉄,ニッケル,クローム,モリブデン,銅,バナジューム,チタンを成分とし,硫酸はもちろんのこと,塩酸にも耐えうるもので,金の代用品というよりも,性能のきわめてすぐれた新合金として,世間の大きな注目を集めた。
14年5月に金の使用が全面的に禁止されたが,当社はすでに自社開発の不銹鋼を使用していたので,その影響を何らうけることなく,営業をつづけることができた。その後17年4月,特殊鋼需要統制規則が発令され,メーカーの整備統制が強化されたあとも,当社は製品の優秀性が認められ,特殊鋼メーカーとして,従前どおり不銹鋼の生産を行うことが許された。
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汐文社刊「平和を考える戦争遺物」全五巻の「②ある兵士の歩み」が再版するならば、「固形インキ」と「N式万年筆」を是非掲載して欲しいですね。
パイロット社史から見ると、第二次上海事変で出征したときは内地から持参したインクと酒保でインクを購入したと思われますが、関特演のときは極寒の満州ですから、凍結しない「固形インキ」を使用したのでしょうか。
靖國偕行文庫で文献資料も調べてみたいと思います。
(続く)
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