トランプ大統領とゼレンスキー大統領の首脳会談は、ゼレンスキー大統領がトランプ大統領のロシア寄りの姿勢に疑問を呈し、同席していたバンス米副大統領も加わり、ゼレンスキー大統領が2014年にロシアがクリミア半島へ侵攻した外交問題を取り上げ、3者が反論し合う事態になった。米国メディアのボイス・オブ・アメリカは「中国はこんな幸運はないと、ほくそ笑んでいるかもしれない」とする見方を紹介する記事を発表した。
米国からの支援がなければ、ロシアの侵攻から戦えない事は明らかである。ウクライナ国民は、クリミア半島や東部四州の領土をロシアに引き渡す事に唯々諾々と従うのであろうか。
本来であれば、国際連合がその役割を果たさなければならないのであるが、常任理事国であるロシアがウクライナを侵略し、アメリカと中国がこの体たらくである。イギリスとフランスは常任理事国としての重責と役割を果たしていない。
枢軸国日独伊と戦った米国ルーズヴェルト大統領、英国チャーチル首相、中国蒋介石国家主席、ソ連スターリン首相が、戦後の国際秩序として国際連盟に代わる国際連合を設置し、「四カ国の国際警察」である常任理事国(フランスも加わる)をつくった。
遊就館「三国同盟」展示パネル(既に撤去された。)
ポリス・スラヴィンスキー著「日ソ戦争への道」より
ルーズヴェルトは、蔣介石をカイロに招待するとき、対日戦の問題ばかりでなく、戦後の米中の政治協力を含む広範な政治問題を蔣介石と検討したいと考えていた。モスクワ会議で明らかになったところでは、ワシントンは、日本の敗戦後、国民政府を当てにしていた。そのために、いわゆる「四カ国の国際警察」、即ち、国際連合の設立者のなかに中国を加えていたのである。
ルーズヴェルトは、1943年10月27日、蔣介石に招待状を送るときにこう書いている。「差しで交渉を行うつもりでいます。一対一で会うならば、うまく調整できることがたくさんあります。そのことを秘密にしていただきたい」
蔣介石は、もちろん米国側の配慮に心を引かれた。しかし、このとき蔣介石はルーズヴェルトに返書を送るとき、スターリンと会う前に自分と会談を行うよう依頼した。それが無理であるなら、大統領との会談を「双方にとってより適当な」別の時に延期するよう提案した。AMレドフスキーによれば、蔣介石は、明らかにこのような行動によって自分の評判をよくしようとしたのである。
カイロ会議(1943年11月22ー26日)の成果として、米国、英国、中国の宣言が発表された(12月1日。カイロ宣言によれば、これら三国の目的は、日本の侵略を制止し、「日本の侵略を罰し」、「1914年の第1次世界大戦の開始以後において日本国が奪取し、または占領したる太平洋における一切の島嶼を剝奪する」ことにあると明記されている。そして、「満州、台湾および澎湖列島のごとき日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還すること」と、「暴力および貪欲により日本国が略取したる他の地域より」日本を駆逐することが強調されている。
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論 説 安藤次男
国連安保理事会「5大国制」の起源に関わって─アメリカから見た中国とフランス─
1943年にモスクワに集まった4カ国(米英ソ中)の外相は,10月30日に4大国宣言(モスクワ宣言)に合意した。その第4項では、「国際の平和と安全を維持するために、大国であれ小国であれすべての平和愛好国家の主権平等の原則に基づき、かつ、そのようなすべての国家に開かれた一般的国際機構を出来る限り速やかに設立することが必要であることを承認する」と述べて、国際連盟(League of Nations)に代わる新たな国際機構を4大国を中心に設立することを最終的に確認した。ここに、のちの国連が連合国中心でかつ4大国を軸とする構造をもつことが決められたのであり、翌年にフランスを大国として処遇することが新に国連安保理事会「5大国制」の起源に関わって新たに合意されて5大国制になる安保理の構成に即してその意味を解明することが必要となる。)
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2024.9.11(水)横山恭三氏の論考
『常任理事国の利権と化した国連は再生できるか?――できる、ではその方法とは「平和のための結集決議」に基づく緊急特別総会をもっと活用せよ』
2024年9月2~3日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、国際刑事裁判所(ICC)加盟国のモンゴルを訪問した。
ICCが2023年3月、ウクライナの占領地からの子供の連れ去りに関与した容疑でプーチン氏に逮捕状を出して以降、プーチン氏がICC加盟国を訪れたのは初めてである。
ICCの加盟国で逮捕協力への義務がありながら、プーチン氏を受け入れたモンゴルにも重大な責任がある。
ICCは戦争犯罪や集団殺害などを犯した個人を訴追、処罰する国際機関だが、独自の法執行機関を持たない。
ICCは、加盟国が協力義務を履行しなかったと判断すれば、締約国会議や国連安全保障理事会(以下、安保理)に問題を付託することができる。
また、2022年2月27日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアによる攻撃を巡り国際司法裁判所(ICC)に提訴した。
ICCは同年3月16日、ウクライナの要請に基づき、暫定措置命令を発出した。
暫定措置命令には、ロシアは、本年2月24日にウクライナの領域内で開始した軍事作戦を直ちに停止し、また、軍隊や非正規部隊等が軍事作戦をさらに進める行動をしないことを確保しなければならないといった措置が含まれている(出典:外務省HP)。
暫定がついているのはロシアが裁判に出席していないからであると筆者は推測する。
ICCの判決には法的拘束力があるが、裁判所は執行する権限を持っていない。したがって、一方の国が判決に従わない場合には、安保理は判決に従うように「勧告」することができる。
しかし、ロシアが拒否権を保有する常任理事国である限り、ロシアを非難する「勧告」は決して発出されないであろう。
とするならば、大国であれば法を守らなくてもよいことになる。まことに不条理な話である。
上記2つの事例において明らかなように、法の支配において重要な役割を果たしているのが安保理である。ところが、安保理は、常任理事国の拒否権行使により機能不全に陥っている。
そのため、現在、世界は無政府状態にある。つまり国家の国際法違反を取り締まる権威と権限をもった組織が存在しないということである。
世界の国々は、第2次世界大戦後の教訓に基づき、戦争を防止し、紛争を平和的に解決しようとして、国連による集団安全保障制度を導入し、その中核である安保理に大きな責任と権限を付与した。
しかし、安保理は常任理事国の拒否権行使により機能不全に陥っている。今、国際の平和及び安全を維持するために創設された国連の存在意義が問われている。
このままでは、国連の存在意義は消失するであろう。すでに消滅してしまった感さえある。
そこで筆者は、拒否権という関門に阻まれてなかなか結果の出ない国連安保理改革に取り組むのでなく、「平和のための結集決議」に基づく緊急特別会期(Emergency Special Session:ESS)の総会(以下、緊急特別総会という)(注1)をもっと活用すべきであると考える。
(注1)国連の総会には通常会期の総会(通常総会)、特別会期の総会(特別総会)、緊急特別会期の総会(緊急特別総会)の3つの種類がある。
結論を言えば次の3つである。
1つ目は、緊急特別総会でロシアの常任理事国の資格停止を決議。
2つ目は、緊急特別総会の決議でロシアの戦争犯罪を訴追する特別法廷を設立。
3つ目は、緊急特別総会の決議とマンデート(任務付与)に基づき「平和執行部隊」を創設・派遣。
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横山恭三氏の論考のように国連特別総会に期待し、ウクライナに一日にも早く平和を取り戻したい。
(了)