朝日新聞連載小説:池澤夏樹著《また会う日まで》は、毎朝読むのを楽しみにしています。海軍水路部の将校だった主人公が、1946年1月1日の詔書についての会話です。
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わたしにとってこれは微妙な問題だった。わたしには神はエホバしかいない。天皇陛下は「現人神」という称号をまとった「人」であった。実際にお目にかかって言葉を交わしたのだから人であることはいわば存じ上げている。政治の場で「神」としてふるまわれて来た。それも終わった。
その晩、武彦と話していてこのにな話題になった。
「天皇制はもう廃止した力がいいでしょう」と武彦は軽く言う。
「そうはいかない。万世一系なのだ」「でも民心は離れていますよ」
「陛下という束ねがなければこの国は立ちゆかない」
「連合国はどういう処遇を考えているんでしょうね」
「問題はソ連だな。北の国境線は守ったが、ソ連の画策で赤色革命となると今以上にこの国は更に壊れてしまう」
「まあだいたい革命は成功しませんからね。フランス革命だってナポレオンを経て王政復古になった」
「わたしは天皇制は残した方がいいと信じるよ」
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(続く)