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徳冨蘆花が見た富士山と駿河湾

2014年11月18日 | 絵画・音楽・文学・映画・演劇・テレビ
 徳冨蘆花が見た駿河湾と富士山を確かめたくて、日曜日に逗子市郷土資料館を見学してきました。生憎雲で富士山は見えませんでしたが、眼前に逗子湾が広がる静かな佇まいを味わってきました。兄徳富蘇峰が揮毫した「不如帰」の掛け軸が大分傷んでいましたので貴重な文化財なのだから保存するように要望しました。

 徳冨蘆花は水彩画を嗜めていましたので文学作品には色彩をふんだんに使った描写が多いのが特徴です。例えば「普魯士亞藍色」(ぶるしゃんあいいろ・ブルシャンブル-)です。

「自然と人生」の一部を紹介します。
                  

此頃の富士の曙
(明治三十一年1月記)

心あらん人に見みせたきは此頃の富士の曙 。
午前六時過ぎ 、試みに逗子の濱に立って望め。眼前には水蒸気渦まく相模灘を見む。灘の果には、水平線に沿ふてほの闇き藍色を見む。若其北端に同藍色の富士を見ずば、諸君恐らくは足柄 、箱根 、伊豆の山の其藍色一抹の中に潜むを知らざる可し。
海も山も未だ睡れるなり。
唯一抹 、薔薇色の光あり。富士の巓を距る弓杖許りにして、横に棚引く。寒を忍びて、暫く立ちて見よ。諸君は其薔薇色の光の、一秒々々富士の巓に向って這ひ下るを認む可し。丈 、五尺 、三尺 、尺 、而して寸 。
富士は今睡より醒めんとすなり。
今醒めぬ。見よ、嶺の東の一角 、薔薇色になりしを。
請ふ瞬かずして見よ。今富士の巓にかゝりし紅霞は、見るが内に富士の暁闇を追ひ下し行くなり。一分 、―二分 、―肩 ―胸 。見よ、天邊に立つ珊瑚の富士を。桃色に匂ふ雪の膚、山は透き徹らむとすなり。
富士は薄紅に醒めぬ。請ふ眼を下に移せ。紅霞は已に最も北なる大山の頭にかゝりぬ。早や足柄に及びぬ。箱根に移りぬ。見よ、闇を追ひ行く曙の足の迅さを。紅追ひ藍奔 りて、伊豆の連山、已に桃色に染まりぬ。
紅なる曙の足、伊豆山脈の南端天城山を越ゆる時は、請ふ眼を回へして富士の下を望め。紫匂ふ江の島のあたりに、忽然として二三の金帆の閃を見む。
海已に醒めたるなり。
諸君若し倦まずして猶まば、頓て江の島に對ふ腰越の岬赫として醒むるを見む。次で小坪の岬に及ぶを見む。更に立ちて、諸君が影の長く前に落つる頃に到らば、相模灘の水蒸気漸く収まりて海光一碧、鏡の如くなるを見む。此時 、眼を擧げて見よ。群山紅褪せて、空は卵黄より上りて極めて薄き普魯士亞藍色となり、白雪の富士高く晴空に倚るを見む。
あゝ心あらん人に見せたきは此頃の富士の曙。

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