福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

エリシュカ先生を迎えるために ドヴォルザーク「テ・デウム」ノイマン指揮チェコ・フィル

2017-09-22 10:56:21 | レコード、オーディオ

ラドミル・エリシュカ先生を大阪フィル定期にお迎えするにあたり、独eBayにて落札したレコードが届いた。

ドヴォルザーク「6番」の前プロとして演奏される「テ・デウム」をメインとしたヴァーツラフ・ノイマン指揮チェコ・フィル&プラハ・フィル合唱団(合唱指揮: リュボミール・マートル)によるスプラフォン盤である。たまたま、YouTubeでこの演奏を知って魅せられ、何としてもレコードで聴きたくなったのである。

1984年というから、チェコとスロヴァキアが分裂する9年前の録音。この時期にデジタル録音が行われているのは、スプラフォンと日本コロムビアの長年の深い関係ゆえであろう。

このとき64歳のノイマンはまさに円熟の極地にある。ただ、そこにチェコ・フィルが居て、ノイマンが指揮台に立つだけで、素晴らしいドヴォルザークとなってしまうという風情が堪らない。もちろん、彼らが何もしていないわけではない。音楽的な必然事項がクリアされた上で、立ち上る独特の空気が美しいのだ。
2人のソリスト、ガブリエラ・ベニャチコヴァー(S)、ヤロスラフ・ソウチェク(Br)の歌声からも、イタリアやドイツの歌手とは違う何かを感じ取れる。

そう、これこそ、エリシュカ先生をお迎えする前に全身全霊に浴びておきたかった本場の音。もちろん、日本人である我々には及ばない音楽的語法や言葉の響きはあるに違いないが、だからといって、開き直って関西弁訛りの歌唱を良しとするのは愚の骨頂である。チェコ本場の音を徹底的に聴いて、我が肉体と精神というフィルターを通した上で、エリシュカ先生の御心に適う合唱を提供をしたい。

その意味で、この文章を読んだ大阪フィル合唱団員には、CDやYouTubeでもよいので、積極的にノイマンの録音を聴いて、感化されて欲しい。ほかにスメターチェクやアーノンクールの録音でもよい。チェコのコーラスがどのようにラテン語を発音するのか、どのようなハーモニーをつくるのかを確かめることができるだろう。

ところで、ドヴォルザーク「テ・デウム」は、同じテキストによるブルックナー作品ほどの知名度はない。演奏機会や録音も多くはない。かくいうわたしも、今回、定期演奏会で採り上げる曲をオーケストラ事務局と協議する過程で知ったのだから、お恥ずかしい限り。

正直のところ、第一印象は「やけに祝典的で華やかだなぁ」というもので、内省的な深みなどはあまり感じなかったのだが、スコアを眺めたり、繰り返し聴いたりするうちに、ジワジワとその美しさが分かってきた。いまでは紛れもない名曲と断言できる。

この作品からは、ドヴォルザークが、本当はオペラ作曲家としてもっと成功したかったのだな、という想いも伝わってくる。そこここに、ヴェルディ「オテロ」の影響(パクリとにも近い?)が見られるのだ。しかし、ドヴォルザークの素朴でハッタリの効かない性向により、劇音楽としては洗練されきれない。しかし、その木訥さこそ、ドヴォルザークの魅力であり、スターバト・マーテル、ミサ曲二長調が広く愛される所以なのである。

エリシュカ先生最後の来日となる大阪フィル定期演奏会にご来場予定のお客様には、是非とも事前にドヴォルザーク「テ・デウム」をお聴き願いたい。当日一度聴いただけでは、聴き逃してしまうドヴォルザークの愛に気付いて頂きたいからである。




ペトレンコ&バイエルン国立歌劇場「タンホイザー」初日

2017-09-22 01:28:08 | コンサート

 



チケット高額のため(さらには、音響の悪いNHKホールのため)に諦めていたペトレンコ&バイエルン国立歌劇場「タンホイザー」初日を観劇。ひょんなことから、急にいらっしゃれなくなった方の代打となったのである。

ネット上を見る限り、歌手陣、オーケストラ、コーラス、そして指揮のペトレンコは、いずれも評判は上々のようだ。

確かにペトレンコの繊細なタクトのもと、オーケストラは室内楽のような精緻さを目指しているように思えたし、外面的効果には目もくれないその求道的な姿勢にも好感が持てる。さらにローマ語りからラストへの盛り上がりは見事なものであった。

その感動に水を差すつもりはないが、おそらく、初日は彼らのベストパフォーマンスではなかろう、というのが私の感想である。

フォークトは、徐々に持ち直したものの、第1幕冒頭はピッチも不安定で、なんだか異様に疲れているように見えたし、ゲルネは遂に最後まで本調子を取り戻せない。体調、或いは喉のトラブルが心配される。コーラスは、流石ドイツの響き、と思わせたのも束の間、特にアカペラのピッチの下がりやハーモニーの乱れは覆い隠せなかった。さらに、オーケストラも、最初は慎重になりすぎて、吹っ切れない感じがあった。

終幕ラストの高まりが尋常ではなかっただけに、前半ももっと出来たのではないか? とも思えるのである。

演出については、あれこれ述べるほどの知識を持たないのだが、第1幕への序曲(バッカナール付)から登場する女性射手たちの美しさには見惚れるばかりであった。一方、終幕で、登場人物の背後で、次々と人々が葬られていく意味は、さっぱり理解できなかった。このあたりプログラムに演出意図へのヒントでもあれば、有り難かったのだが。

もう一度、この目と耳でペトレンコ&バイエルン国立歌劇場「タンホイザー」の真価を確認したいところ。しかし、財政的には厳しく叶わないだろう。10月1日(日)の「ワルキューレ」第1幕まで我慢するほかない(これまた、NHKホールなのが残念)。

さて、いま、YouTubeで、2017年のペトレンコ&バイエルン国立歌劇場のプロモーション・ビデオから「タンホイザー」序曲を観ているのだが、ペトレンコの息遣いやオーケストラの質感など、実演より彼らの良さがどんなに伝わることか。Blu-ray化された暁には購入し、改めて味わいたいと思う。

https://www.youtube.com/watch?v=A-3740pZnsw

バイエルン国立歌劇場日本公演 2017

 歌劇《タンホイザー》

作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m. NHKホール

領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

バイエルン国立歌劇場管弦楽団、同合唱団(合唱指揮:ゼーレン・エックホフ)

 



さて、朝日新聞夕刊には予定通り、オペラシティに於けるモーツァルト「レクイエム」公演の広告が載った。

反響のあることを願うばかりである。