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明鏡   

鏡のごとく

『子犬』

2015-03-23 22:45:06 | 詩小説
その娘には子犬がよく似合う。
子犬が娘そのもののようだった。
黒いトイプードルとその娘は本当によく似ていたのだ。
もっとも、犬は吠えずに少し震えながら、娘のヌイグルミのようにかろやかに足をぶらつかせ、駆け出すこともできず、ただ娘の腕の中で、逃げ出せずに、空をかき続けていたのだが。

その娘は大きな目を、瞬きもせずに、こちらを見ていた。
母親がその娘を探しているのを知っていた。
迷子になった子犬を探すように尋ねられたのだ。

うちの娘、知りませんか。
いつのまにか、外に出ていたんです。
犬を連れて。

その娘は、犬の散歩がしたかったのだろうか、それとも、自分が外に出たかったのだろうか。
まだ、学校に行き始めたばかりの小さな女の子であった。

その娘に、犬の名前を聞いてみた。
どこかできいたことのある名前だった。

その娘は、ふるえることもなく、犬の匂いをまきちらしながら、まばたきもせずに、じゃあね。とめをあわしかえっていった。
いきているにおい。これがいきているけもののにおいだと無言のまま。振り向きもせずかえっていった。

娘の行く先をかぎつけて母親がやってきた。
白い化粧の匂いがすべてをかきけした。