正午過ぎの稲荷山。
今日も大勢の外国人たちが稲荷山を登る。
私はいつもより暑さを感じた。
休み、休み、石段に歩を重ねるうち、むしょうに
甘酒を飲みたくなった。
山登りがしんどくなった頃合いをみはらかった
ように店がある。どの店も甘酒を出している。
一周するのをやめて麓の店に入ることにした。
その店は参道からはずれていたので、初めて
見る光景であった。
だれもいない。
店というよりも戸障子を明け放った普通の家の
座敷。縁側に座布団が置いてあったので、そこに
座ってしんどくなった腰を伸ばしていると、店の
女性が出て来た。家の主婦か。
「まあ、まあ、一番暑い時に・・」
甘酒を注文すると、「熱いのと冷たいのとありま
す」と尋ねる。
暑いのを注文すると、ほどほどに冷ました熱い甘
酒を盆に載せて、「生姜を別にしました」
なるほど、生姜を別にしたら香りがして、暑くな
った体を労わってくれる。
「おいしい!」
これは一品だった。
「最近は暑い暑いと言いすぎます。夏は暑くて冬は
寒い。それが京都の特徴です」と私。
さっきまで青菜に塩状態を忘れて、勝手なことをいう
老人を相手にしてくれた。
ちょっと参道から外れているせいか、人は来ない。
甘酒は美味しかった。それ以上に熱い渋茶が甘さを調
和してこれまた元気を取り戻してくれた。
風が座敷を通り抜けた。