先日、演劇鑑賞のために、妻と二人で仙台に出かけてきました。演目は、白石加代子さんが演じる一人芝居『百物語』です。午後2時の開演まで時間的な余裕があったので、まず近くの店で昼食をとることにしました。
定禅寺通りに面した 牡蠣をメインの食材として扱う「牡蠣屋」という店に入りました。7・8人でいっぱいになるような小さな店でしたが、そこで牡蠣丼を食ベました。燻製の牡蠣とミツバの乗った丼で、それだけでも美味でしたが、さらにそこに 付け合わせのイカとオクラを混ぜ合わせたものを かけて食ベると、さらに深みのある味になりました。その上、もう一品 殻つきの生牡蠣が付いていて(北海道厚岸:あっけし産)、それを専用のたれ(2種類)に付けて味わいました。プリプリとした大ぶりの牡蠣で、牡蠣好きにはこたえられないクリーミーで濃厚な味でした。思わぬところで、北海道の秋を味わう 幸運に出会うことができました。
昼食を食ベても、開演まではまだ余裕があったので、近くの公園を散策することにしました。歩いていくと、キンモクセイのあまい香りが鼻をくすぐりました。少し先に、大きなキンモクセイの木が枝を広げていました。そばによってみると、橙色のかわいい花が満開で、あたり一面にあまい香りが満ち溢れていました。公園を訪れた人々に秋が来たことを告げるかのように、香りは風に乗って公園中に流れていました。舌で秋を味わった上に、鼻と目でも秋を味わうことができました。
一人芝居で取り上げられた話は二つ。宮部みゆきさんの「小袖の手」と、朱川湊人さんの「栞の恋」でした。江戸時代の物語と反戦の思いが込められた現代ものの二つでした。怖さとユーモアと人間としての切ない思いが込められた内容でした。白石さんの巧みな朗読と演技が一体となった魅力的な芝居で、小袖や本に込められた亡くなった人の思いが、人間的な思いとして 切なく伝わってきました。特に、「栞の恋」は心に残りました。古本屋にある一冊の本が 出会いの場となります。一言綴った栞を挟み、作者の青年と心の交流を図る娘。特攻隊の一員として死地に赴いた青年にとって、栞を通した娘との会話は、心を通わせた 尊い思い出になったのだと思います。原作を是非読んでみたいと思いました。
食欲の秋と芸術の秋を楽しむことのできた 仙台での一日でした。