あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

演劇「樫の木坂四姉妹」を観て

2014-04-06 12:46:54 | インポート

重いテーマの劇でした。昭和20年8月9日に長崎で被爆した四姉妹の物語です。戦争による悲劇が、7人家族の葦葉家を襲います。長男は特攻隊の一員として戦死し、原爆投下によって母と三女が亡くなり、その後 原爆症により父も亡くなります。残された家族は、長女と次女、四女の三人だけとなって、戦後55年経った2000年の今を生きているという設定です。

8月9日の被曝が、生き残った三姉妹のその後の人生を変えてしまいます。

長女は、被曝し健康な体でなくなったことを考えて最愛の婚約者との結婚をあきらめます。また、職場で親しく面倒を見ていた娘さんが、愛した相手を原爆症で失い、後追い自殺したことに心を痛めます。そういった思いを抱えながら 被爆体験を伝えようと 語り部としての人生を歩むようになります。

次女はアメリカ人と結婚し子を授かったものの、被爆した母体から生まれた子どもは3歳を待たずにこの世を去ってしまいます。健康な子どもを産めない体だと知られることで、夫とその家族から見放されるようになった彼女は、自ら夫の元を去り、その後自暴自棄の人生を歩み続けますが、やがて葦葉家にもどってくることになります。

四女は、原爆投下後に 双子であった三女の焼けただれた姿を見かけながら救うことができなかったことを自分の責任だと責め続け、果たせなかった三女の夢を引き継ぎ音楽教師としての道を歩みます。その後、家で二人の姉を支え衣食住の世話をしています。

2000年の今は、この三人が樫の木坂の家で同居しているわけですが、さまざまな感情の対立の中で、1945年8月9日以来 お互いが抱え背負ってきたものが明らかにされていきます。また、そのことを通して それぞれの抱えてきた重荷をお互いに理解し合うことになっていきます。

その三人の姉妹と関わり外から見守ってきたのが、一人の男性カメラマンです。この男性が、三姉妹の抱えているものを引き出す役割を果たします。

三人が幸せだったのは、戦中の不自由で物資のない生活の中でも 家族七人が心をよせて暮らした日々でした。その様子が、生き生きと演じられ、家族の温かな絆を感じました。そして、その家族の幸せを一挙に奪い去ったものが、8月9日の原爆投下でした。

3.11の被災者の方の一人が、「私の心の時計は、3月11日以来止まったままです。」と語っていたことがありました。三姉妹の心の時計も同じように、8月9日以来止まったままなのだと思いました。その心身の傷は決して時の経過が癒してくれるものではないという 事実の重さを痛感します。

最後の場面で、次女は原爆の後遺症のガンのために亡くなってしまうのですが、かってアメリカで夫婦として一緒の時を過ごした最愛の人と再会することができます。

長女は語り部として 次女はそのサポート役として長女の手助けをしながら生きていきます。

亡くなった方の命の重さ、その重さを受け止めながら生きていく人の生の重さ、そういった重さを引き受けながら今を生きることの重さを 感じた劇でした。

登場人物の動きが少なく、セリフを中心とした劇でしたが、それだけ登場人物の演技力が求められる面がありました。長女役:中村たつさん、次女役:岩崎加根子さん、四女役:川口敦子さんのすばらしい演技に感謝したいと思います。

6月は、栗原小巻さんが演じる「アンナ・カレーニナ」が予定されています。永遠のマドンナとの出会いが、今から楽しみです。

コメント (1)
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