2011年3月24日(木曜日)
「現代ビジネス」より
「東電国有化」と核燃料サイクル断念に迫られる電力行政
原発事故という人災に莫大な請求訴訟/伊藤 博敏
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110324-00000001-gendaibiz-bus_all
「原発は人災だ。早く保障を! 」
東京電力福島第一原発の事故を受け、福島県農協中央会が、
3月22日に開いた緊急組合長会議で、
組合長らからの悲痛な叫びが相次いだ。
もはや県内8万戸の農家は、"壊滅"を覚悟している。
連日、原乳やホウレンソウなど露地物野菜を破棄、
風評被害は現実のものとなり、
規制対象外のハウス野菜や畜肉などが、
「福島県産」というだけで売れない。
地震については「天災」と、諦めもつこう。
だが、原発事故による「放射能汚染」は我慢ならない。
「五重の防護体制が敷かれ、どんな不測の事態にも耐えられる」と、
東電が繰り返していた「安全神話」は、
高さ15メートルの津波で崩壊した。
「想定外」は通用しない。
「人災」である以上、東電には莫大な請求訴訟が起こされる。
地元住民にとってもそうである。
福島第一原発が立地する双葉町は、震災によって町が壊滅、役場ごと
「さいたまスーパーアリーナ(さいたま市)」に疎開したが、
たとえ原発事故が終息しても、高度の放射性物質は滞留、
仮設住宅すら建てられない。
農家の疎開住民は、テレビインタビューにこう答えていた。
「放射能が残っている間は帰れない。
安全宣言が出たところで、コメを作っても、
『双葉産』というだけで売れないだろう。
もう、町を捨てるしかない…」
その人災被害の補償も、東電に求められる。
東電が、これまで双葉町にもたらした地域整備や公共工事、
雇用などの"貢献"とは別問題である。
加えて、ライフラインを担う東電は、電力確保の為に、当面、
原発という"稼ぎ頭"を捨てて、火力発電所の復旧を急ぎ、
他の手立てを考えねばならず、それに投下する資本も莫大である。
災害補償に再建資金---。
もはや一私企業の能力を超えており、国に頼るしかない。
JAL(日本航空)と同じ国有化。
東電は、3月22日、役員報酬のカットを発表したが、
それで収まるほど甘くはない。
すでに、英フィナンシャルタイムズは、3月21日の社説で
「東電国有化は避けられない」と書いた。
実は、国有化を最も恐れているのは、東電以外の関西電力、
中部電力など他の電力会社である。
東電も含めて、電力各社の持つ既得権益は日本最大といっていい。
沖縄も含めて全国を10ブロックに分けて電力事業を独占、
価格はコスト+適正利潤を維持、その安定性と豊富な資金で、
地域経済界に君臨してきた。
安定と名誉と報酬---。この三つを独占した権益が、
東電国有化→電力行政の見直し→電力事業の一時国有化、
という方向で失われることを、電力各社の経営陣は、危惧している。
*** 経産省若手がつくった”怪文書” ***
これまでの電力行政は、原発とともにあり、
それは地域独占の豊富な資金が生みだしていた。
端的な例が、核燃料サイクルである。
原子力発電所で発電した後の使用済み燃料を、再処理、
ウランとプルトニウムを回収して再び核燃料として使うという
"夢"の技術である。
高速増殖炉を利用する場合、希少価値のウランの利用効率を
60倍に高めるという意味でも、高速化する核物質の制御が
非常に難しいという意味でも"夢"だった。
6年前、この"夢"の技術があまりに非現実的で、
コストパフォーマンスが悪いということを知らしめる
「19兆円の請求書 止まらない核燃料サイクル」という
"怪文書"が出回ったことがある
ただ、正式な文書ではないという意味では"怪文書"だったが、
異議を唱え、文書を作成したのは、核燃料サイクルに批判的な
経産省の若手官僚らであり、ある意味、
原力行政を内部告発するものだった。
まず、総額19兆円といわれた再処理コストが、
再処理工場の建設コストの3倍増という"実績"に照らせば
50億円となってもおかしくないというコスト面を批判。
次に、高速増殖炉もんじゅが挫折すれば、
MOX(ウランとプルトニウムの混合酸化物)燃料を利用する
プルサーマル(軽水炉サイクル)計画を主役にするといった
"ご都合主義"を指摘していた。
*** 欧米では中断が相次ぐプルサーマル ***
素人目にも、核燃料サイクルの挫折は明らかである。
青森県六ヶ所村に建設された六ヶ所村再処理工場は、93年の着工時、
約7600億円の予算でスタートしたものの、相次ぐトラブルで
完成延期と増額が繰り返され、今では予算額約2兆2000億円、
完成予定は12年9月となっている。
高速増殖炉もんじゅも情けない。
85年、福井県敦賀市で建設着工、95年8月に初発電に成功するものの、
同年末、ナトリウム漏洩事故が発生。
14年の中断を経て、10年5月、運転を再開したが、同年8月、
またもや炉内への装置落下事故発生で、運転中止を余儀なくされている。
その間をつなぐ技術のプルサーマルは、燃料効率は1・1倍しかなく、
欧米では「コストに見合わず、資源的にメリットも少ない」として、
中断が相次いでいる。
結局、日本は、経産省、資源エネルギー庁、原子力安全委員会、
原子力安全・保安院、東電など電力会社、東芝、日立製作所、
三菱重工など原発関連メーカーが、官民一体となって
「原発を推進する」という統一目標に向かって突き進む構造となっていた。
同一価値観を持つ彼らは、「原子力村」を形成しているわけで、
それを可能にしたのが電力独占の高収益体制。
証拠に、無駄な投資資金が積み重なっている核燃料サイクルは、
電力料金に加算されており、懐が痛むのは利用者=国民である。
そうした構造を大震災は吹き飛ばした。
もはや、無理、ムダ、独占は許されない。
「原発はいらない」と、国民感情が盛り上がっている今、
一時国有化のうえ、電力行政を抜本から見直す時期にきている。
「19兆円の請求書 止まらない核燃料サイクル」
http://kakujoho.net/rokkasho/19chou040317.pdf#search='
「19兆円の請求書 止まらない核燃料サイクル」'