2011年は東北で震災があった年。この時は、日本の競馬もスケジュールを守ることが出来ずに、苦労をしながらクラシックレースを開催した年でもあります。
この年の現れたのが、三冠馬オルフェーヴル。そして、2年連続で凱旋門賞2着という成績を残した歴史的名馬であります。
オルフェーヴルの勝ったダービーは、泥んこの不良馬場。しかも、4コーナー回った時にはまだ、ほぼ最後方。そこから、オルフェーヴルとウインバリアシオンの2頭が併せ馬状態のまま、激しい叩き合いとなり、ゴール前ではオルフェーヴルが1馬身3/4差をつけて快勝。
今思えば、3歳時のオルフェーヴルは、まだまだ『良い子』でありました。菊花賞のあとに、池添謙一騎手を振り落として鼻血を出させたくらいはご愛敬。
しかし、4歳最初の阪神大賞典では『狂気』のオルフェーヴルが始まってしまいます。好位追走から先頭に立つかと思われた瞬間、3コーナー過ぎにコースを逸走して離された最後方へ。そこから挽回して走り直しますが、何とか2着に来るのがやっと。次の天皇賞春はもっと酷く、最初から真面目に走る気を無くしており、最後まで後方のままで11着に敗れます。
この『狂気』が欧州で世界中をビックリさせます。2012年の秋、前哨戦のフォワ賞を圧勝したあと、この時の凱旋門賞は、欧州の有力が次々と離脱。そうなればオルフェーヴルが地力の違いで、そのまま押し切るかと思われた最後の直線。あと100mのところで、自ら内埒の柵に激突して失速、2着に敗れるという信じられない事態が発生いたしました。鞍上の名手スミヨン騎手が「なぜ?」と、目をシロクロさせていたのを覚えています。
オルフェーヴルは、種牡馬になってからも、周囲をハラハラさせ続けています。持ち前のスピードや闘争心を産駒に伝えており、そこそこの成績を収めているのですが、気性の難しい産駒が多く、ここまでは、期待されたような大種牡馬への道は歩めておりませんでした。
しかし、世界のダートGⅠにおける産駒の活躍で、今までの流れが一変します。
まずは、2021年秋の米国ブリーダーズカップ ディスタフで、オルフェーヴル産駒の5歳牝馬マルシュロレーヌが戦前の評価を覆して、鮮やかな差し切り勝ちを収めます。何と言っても、ダート競馬の本場アメリカの最高峰レースであるブリーダーズカップデーで、ダートの牝馬トップを決めるレースを勝利したことは歴史的偉業と言えます。北米以外の馬が、アメリカのダート競馬の牙城の一角を崩したのです。
そして、2023年のドバイワールドカップ。ダートGⅠのもう一つの世界大会と言えるこの舞台で、同じくオルフェーヴル産駒の6歳牡馬ウシュバテソーロが鮮やかな勝利を飾ります。以前、ヴィクトワールピサがドバイワールドカップを制していますが、この時は馬場が「ダート」ではなく、「オールウエザー」といって芝に近い馬場でした。「ダート」馬場で、本場米国の馬たちに快勝した意義は想像以上に大きいと言えます。
ウシュバテソーロの陣営は、この秋に、米国ブリーダーズカップ クラシックに挑戦する意向を示しています。今年、本当に歴史が変わるかもしれません。
そして、日本馬が何度も挫折を繰り返している「凱旋門賞挑戦」についても、結局は、オルフェーヴルの『狂気』に頼らないと、この壁をぶち破ることは難しいのかもしれません。ワタクシは、グチャグチャの泥んこ馬場でも闘争心を失わない『狂気の馬』が出てくることを密かに期待しております。