本日から3日間、2022ノーベル賞シリーズをお送りします。
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2022年のノーベル医学生理学賞に、スウェーデン出身の研究者スバンテ・ペーボ氏が選ばれました。
スバンテ・ペーボ氏は、ネアンデルタール人のゲノム解析に成功して、現在の人類であるホモ・サピエンスと、それに最も近いとされているネアンデルタール人との関係を解き明かす道筋を発見したとのこと。
ちなみに、ネアンデルタール人は約40万年前から約3万年前までヨーロッパと西アジアに住んでいましたが、その後に絶滅。一方で、約7万年前、ホモ・サピエンスがアフリカから中東に移動し、そこから世界に広がって今の人類になっていったのですが、同時期にユーラシア大陸で共存していたホモ・サピエンスとネアンデルタール人が、どのように関係して、何が起きたのか、考古学上の長年の課題であり、謎でありました。
もちろん、今でも多くの『謎』は残っているのですが、この研究で明らかにされたのは、我々ホモ・サピエンスには、当時のネアンデルタール人の遺伝子の一部が反映されているということ。すなわち、同じ人類として交わりがあって、何らかの関係が生じていたことが明らかになったのです。
ここからは、数年前のNHK特集【上記スバンテ・ペーボ氏の研究をメインに構成した番組でした!】で学んだことも混ぜながらお話します。ネアンデルタール人の特長は、運動能力が強く、かつ知性が高く、個体ベースでは、ホモ・サピエンスの能力を凌駕していた可能性が高かったようです。また、生活する集団の単位が、家族・親族という小集団に限られていたらしいとのこと。一方のホモ・サピエンスは、狩りや生活を合理的効率的に行う目的だと思いますが、家族だけでなく、地域でまとまる中規模集団を作って、皆で協力しながら生きる生活様式を採用していたと考えられています。
ホモ・サピエンスは、中規模集団を形成して皆と協力しながら、狩りや収集、自らの縄張りの防衛などを行っておりました。家族集団ではないが故、コミュニケーション手段や、規律などが発達していきます。言葉が発明される前から、掛け声や手話のような動作を組み合わせて、狩りにおける現場での指示や、群れの中での相応に複雑なコミュニケーションを、一定の規律をベースに、実現していったと思われます。また、まだ頻度は少ないと思いますが、ホモ・サピエンス同士の群れの縄張り争いなどもあって、集団で闘うノウハウも少しずつ積んでいったことが想像されます。
一方のネアンデルタール人ですが、個体としての腕力や運動能力、そして考える知性などはホモ・サピエンスを凌駕していたと思われますが、生活する単位が家族・親族となると、複雑なコミュニケーション方法や、規律などを発達させる必要はなかったと思われます。また、もしホモ・サピエンスの集団と縄張りを争うような事態になったら、家族の安全を考えて、闘うよりも逃げる選択をしたのではないかと想像します。
そうやって、縄張りを失っていったネアンデルタール人は絶滅していったと考えられます。
ただし、群れと群れの争いなどの混乱の中で、たまたまネアンデルタール人の赤ん坊を見つけたホモ・サピエンスの一部の人が、その赤ん坊を育てて、ホモ・サピエンスの社会に融合させたこともあったでしょう。運動能力が高く、知性も高いネアンデルタール人の赤ん坊ですから、成長した後は、ホモ・サピエンスの群れの中でも大いに活躍できたはずです。そうやって、ホモ・サピエンスの社会の中で、一部のネアンデルタール人の遺伝子が大事にされて残っていった・・。
そんな風に考えると、スバンテ・ペーボ氏のゲノム解析研究から人類のロマンが広がっていきます。
同じようなロマンが、縄文人と弥生人が混ざり合って成立した我が日本人にはあります。いや、日本人は、アイヌ人や隼人の血も混ざって成立しているはずです。
ちなみに、スバンテ・ペーボ氏は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヒト進化ゲノミクスユニットの客員教授でもある由。ひょっとしたら、さまざま土着の血脈を絶やさずに、むしろ多様な血を取り入れながら成立していった現代日本人に興味があって、このポストに就任されたのかもしれませんね。